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2-4 対面 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

4.対面
崖に開いた洞窟の入口に辿り着いた、カケルとアスカはそっと中を覗き込んだ。
洞窟の中は、木で設えた牢になっていた。通路に灯籠が一つ、見張り役なのか、男が一人座り込んでいる。どうやら、うとうとと眠っているようだった。
カケルは、通路にあった縄を使って、眠っている男を縛り上げてから、アスカを呼び入れた。
ぼんやり薄暗い牢の中に、枷をはめられた男が座っているのが見えた。
「リュウキ様ですね。」
カケルが声をかけると、ギロっと睨む目が光る。サクヒコの話どおり、頭髪は真っ白だった。
「何をしにきたのだ?」
その問いにカケルは戸惑った。囚われの身といえど、水軍の頭領である。いわば敵の大将。救い出す理由はなかった。
「確かめたいのです。」
「何を確かめようというのだ?」
リュウキの声は、牢の中に響いた。
「大頭目のギンポウが、熊毛の里を攻撃せよと号令しました。・・だが、その後ろに何やら蠢いているものがあるようなのです。」
「そうか・・麓の館を見たか・・・あやつは、ギンポウが、厳島で捕らえた将だと連れてきた者だ。名は知らぬ。褒美をやると言って、館に呼んだ時、ギンポウがわしに刃を向けた。わしをここに閉じ込め、大頭目と名乗り、水軍を掌握したのだ。」
「熊毛の里と水軍との戦を起こし、それに乗じて安芸の大軍を持って、アナトの国を手中にする謀を進めております。」
「熊毛に攻め入るか・・・だが、そう簡単には落ちぬぞ。サクヒコがおる限り、容易くは落ちぬ。だが、今のわしにはどうにもできぬことじゃ。」
カケルの言葉に、リュウキはそう言って目を閉じた。
「まだ・・サクヒコ様を恨んでおいでなのですか?」
リュウキは再び目を見開いて言った。
「サクヒコを恨む?・・・何の事だ!」
「ならば、なぜ、里を襲われたのか?」
「里を襲った?」
リュウキは、足枷を地面にたたきつけたのか、大きな音を出した。そして、
「お主は何者だ、熊毛の者ではあるまい。」
「はい・・九重より参ったカケルと申します。赤間からアナトの新しき王タマソ様とともに、水軍征伐でここまで参りました。」
「九重の者か・・・ならば、お前が・・あの・・賢者カケルか?・・・以前、豊の国から来た者から聞いたことがある。・・賢者たるもの、それだけの浅知恵しかないのか?・・」
リュウキの言葉にカケルは戸惑った。
「まあよい。中に入り、まずは、この枷を外してくれぬか?」
カケルはアスカを呼び、一緒に牢の中へ入った。薄暗い牢の中へ、灯篭を持ち込み、リュウキの姿を見て、二人は驚いた。
暗闇に響いた声は凛としたものだったが、牢の中にいるリュウキは、腰まで伸びた白髪も、ところどころ抜け落ち、手足はもはや骨と皮ばかりになっていて、身を起こすことも叶わぬほど弱っていたのだ。
「ここに閉じ込められた随分長い時が経ったようだな・・・水軍が里を襲うなどとは・・・。」
リュウキは体を横たえたまま言った。
「わしが水軍を作ったのは、海賊を退治するため。・・・あの頃、この海には、韓や東国の船が行き来しておった。・・時折、海賊が現れ、船を襲った。・・わしは、・・・仲間を集め、そうした海賊を退治していた・・。」
「では、里を襲ったのは?」
アスカが訊いた。リュウキは、アスカの顔を見て、一瞬驚いた。それから、我に返ったように、
「ああ、・・・おそらく、ギンポウを頭目としてからだろう。」
「では、サクヒコ様を恨んでの仕儀ではないのですね。」
カケルが訊いた。
「何故、・・兄者を恨む?。・・わしこそ、兄者を裏切った。恨まれるのはわしのほうだ。・・・せめてもの罪滅ぼしにと、海賊達を退治していたのだ・・・。」
搾り出すような声の、リュウキの話は本当のようだった。
「済まぬが・・娘、・・・名は・・?」
リュウキが、じっとアスカを見つめて、遠慮がちに尋ねる。
「はい、アスカと申します。九重からお供をしております。」
「・・そうか・・・九重の・・生まれか?」
「いえ・・赤子の時、船でヒムカのモシオの浜に流れ着き、そこで育てられました。」
「なんと不憫な・・では、父母の顔も・・判らぬのか・・。」
アスカは頷いた。カケルが言う。
「アスカの里を探すため、九重を越え、アナトまで参りました。」
「何か、手掛かりでもあるのか?」
リュウキの問いに、アスカが答える。
「私を拾い上げたモシオの御方が・・これを・・。」
そう言って、アスカは、首飾りを取り出して見せた。
「私の首に掛けられていたのです。唯一、これだけが里の手掛かりなのです。」
「見せておくれ。」

2-4岳山.jpg
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