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2-5 須佐那姫 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

5.須佐那姫
手渡された首飾りを見つめていたリュウキが、急に震えだした。
そして、大粒の涙を零しながら、その首飾りを強く握り締めた。
「どうされました?」
カケルが不思議に思い訊いた。
リュウキは流れる涙を拭くこともなく、じっとアスカの顔を見つめる。
「これは、須佐那姫が身につけられていたものだ。」
「須佐那姫?」
アスカが訊く。
「ああ・・わしが命を掛けてもお守りすると約束した御方だ。・・だが、お守りできなかった。・・」
カケルは、サクヒコに聞いた話を思い出した。
「では・・リュウキ様はアスカの父様・・ですか?」
その問いに、リュウキは答える。
「いや、そうではない。須佐名姫は、韓へ行かれる時、すでに身篭っておられた。・・添い遂げると約束された御方があったのだ。」
「では、父様はその御方?」
「ああ・・そうだ・・・それを知り、わしは姫を船から連れ出し、隠れ住んだ。そう、この洞窟こそ、隠れ住んでいたところなのだ。・・・ここで、御子をお産みになられたのだ。」
「ここで生まれた?」
「そうだ。ここで姫はそなたを産んだのだ。・・・だが・・すぐに兄者に見つかった。追われた姫は命を落とした。・・生まれた赤子とともに海へ身を投げたと思っておったが・・生きておられたとは・・・そして、こうしてお会いできるとは・・!」
リュウキは、再び大粒の涙を零した。
思ってもいなかった、アスカの出生の秘密が今明かされたのだった。アスカは突然の事に、今の会話が現実のものとは思えず、言葉も無く、ただ、リュウキを見つめていた。
「良く、顔を見せておくれ。・・・ああ・・姫様に良く似ておられる。目元など瓜二つじゃ。きりっとした眉、背丈も・・色白なところも・・・須佐那姫様そのものじゃ・・・。」
リュウキはそう言うと、首飾りをアスカに返そうと手を伸ばしたが、その手は、力を失い、ぱたりと地面に落ちた。
「リュウキ様?」
カケルが、慌ててリュウキの口元に顔を近づける。息をしていない。わずかに残っていた体力を使いきったのだ。
「アスカ!リュウキ様を!」
アスカは、リュウキを手を握った。アスカの手とリュウキの手の間に、首飾りがあった。アスカは必死に念を起こす。すると、首飾りが黄色く温かい光を発し始めて、リュウキとアスカを包み込んでいく。しばらくすると、リュウキがゆっくりと目を開け、息を吸い込んだ。そして、
「須佐那姫様・・・再びお会いできようとは・・。」
光の中で、リュウキは須佐那姫を見ていた。光は強くなる。抜け落ちたはずの白髪が次第に元気だった頃に戻り、体も徐々に肉が戻ってきた。
「どうしたというのだ・・これは一体・・・!」
リュウキは我が身に起こる変化に驚いていた。徐々に光が弱まり、元の薄暗い世界が戻ってきた。
リュウキは立ち上がった。
「これは・・お前の力なのか?」
アスカはこくりと頷き、そのまま、リュウキの腕の中に倒れこんでしまった。
「どうした?・・大丈夫か?」
カケルがそっと言った。
「アスカには傷や病を癒す不思議な力があるのです。リュウキ様を助けたい一心で、これまで以上に力を使い切ったのでしょう。・・そのまま、寝かせてやってください。朝には回復するでしょう。」
リュウキは、腕の中で死んだように眠るアスカを愛おしく抱きしめた。そこには、守る事ができなかった須佐那姫への思いと重なっているに違いなかった。
牢の中の藁をかき集め、アスカを寝かした。
「リュウキ様、東国にはアスカの父がおいでなのでしょうか?」
リュウキは、アスカの寝顔を見つめながら答えた。
「はるか昔の事だが・・須佐那姫から聞いたのだが・・東国には、多くの王を従える大王がいるようだ。姫と契りを交わしたのは、大王の御子のようだ。」
「名は?」
「・・・確か・・・葛城の御子と言うておった。」
「葛城の御子・・・。」
「ここから、海伝いに東へ行くと、安芸、吉備を経て、播磨、難波と続く。その先に、大きな大きな、都というものがあるという。その奥深くに、大王がおいでなのだそうだ。そこまで行けば、何かわかるやも知れぬが・・・。」
カケルはじっと考えていた。
「東国へ行きます。」
「長い道のりだぞ?」
カケルは、眠っているアスカの顔をじっと見て、きっぱりと言った。
「アスカとの約束です。戻るべき里を探し出すと。」


2-5牢獄2.jpg
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