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2-6 真実 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

6. 真実
「なにやら外が騒がしいようだな。」
リュウキが立ち上がり、牢の戸を開き、洞窟の入口に立った。遠く、桟橋の船が燃えているのが見えた。そして、火の回りには、男達のうろたえる様子も見えた。
「何が起きているのだ?」
「水軍が熊毛への総攻撃を決めたのを知り、熊毛の里タカヒコ様が、食い止めようと火を放ったのです。」
「何?・・・では、もうすぐそこまでアナトの軍は来ておるのか?」
「はい。明日朝には、大船で、この里を攻める手はずになっております。」
「愚かな事よ。この海に暮らす者同士が戦など・・・。」
「ひとつお聞きしたいことがあります。・・先ほど、浅知恵と申されましたが・・まだ何か足りぬ事があるのですか?」
リュウキはカケルの顔をしげしげと見て、ため息を一つついて言った。
「ギンポウだけの策略で、ここまで出来ると考えて居るのか?」
「・・あの金服の者が裏で糸を引いていたのでしょう。・・」
「確かにそうだが・・・カケルよ。我が水軍がどれほどか知って居るか?」
そう問われて、カケルは咄嗟にギョクの事を思い出していた。
「・・確か、三十ほどの船があると聞いております。・・・。」
「やはりな・・それは誰に聞いた?」
「ギョクという名の・・白麗と呼ばれる大船の船頭から聞きましたが・・。」
「ギョク?・・初めて聞く名だな。・・・我が水軍は、あそこに燃えておる四隻に過ぎぬのだぞ。三十ほどの船を持つなど、ありえぬ事だ。それを操る者たちだけでも、相当の数になる。この小さな島にそれほどの者が居ると思うか?」
リュウキの言葉に、カケルは戸惑った。確かに、これまで水軍の様子はギョクからしか聞いていない。だが、赤間関では奴隷の中に居た。水軍を恨み、王を支えると誓い、陶や徳の里でも大いに力を発揮してきた。
「良いか・・我らは、この海で生まれ、この海を守るために水軍となったのだ。暗躍する海賊どもを蹴散らすため、どれほど苦労をしてきたか・・・白麗とかいう大船は、韓船のような物ではなかったか?」
「はい・・赤間関ではみな韓船だと言っておりました。」
「そうだろう。他に、赤龍や黒龍などの船も居たのではないか?・・それらは皆、海賊を働く奴らなのだぞ。・・・そして、奴らは、隣国、厳島を根城としているのだ。」
「では本当の敵はその海賊どもという事でしょうか?」
「判らぬが・・タマソ王の居られる大船も危ういと考えねばならぬな。」
真実をすぐにも大船に知らせねばならない。戦いを止め、力を合わせて海賊、いや隣国の策略を跳ね返さねばならない。カケルは必死に考えた。夜明けには戦いが起きる。何としても、戦いを止めねば・・。必死に考えた。
「リュウキ様、お力をお貸し下さい。」
「この老いぼれに出来る事があるのかのう。」
カケルは、じっと里を見つめ、戦いを止め、隣国の謀を暴く術を考えていた。

桟橋では、燃え上がる船を前に、男たちは必死で消そうとしていた。しかし、火の勢いは収まる事無く、終に二隻の大船は骨組みだけを残して、焼け落ちた。小さな船は帆柱を燃やした程度で何とか消し止める事ができた。
騒ぎを知り、ギンポウが桟橋に現れた。ギンポウは、慌てふためく男たちを押しのけ、焼け残った船を苦々しい顔で睨みつける。
「何者の仕業だ!」
傍に居た男が言う
「判りません。・・火の始末はしておいたはずです。・・・」
「では、何者か忍び込んだのだな?・・探せ、まだ島に居るはずだ!」
ギンポウの号令で、男たちは、松明を手に里の中を探し回った。
カケルたちの居る洞窟からも、水軍の男達が里の中を走り回る様子が、松明の明かりの動きでわかるほどだった。
ようやく、朝日が昇る頃になって、水軍の男が桟橋に走ってきた。
「ギンポウ様!怪しい奴が潜んでおりました。」
少し遅れて、別の男が、縄で縛り上げた男を連れて、桟橋に戻ってきた。
「何者だ?」
「さあ・・・森の中に潜んでおりました。・・。」
ギンポウは、縛り上げられた男のあごを掴み、ぐっと持ち上げ、拳で叩く。
「何者だ!吐け!」
男は、強い視線でギンポウを睨みつけるが、何も言わない。また、ギンポウは拳で殴りつける。
しかし、男は何も言わず、ギンポウを睨みつけた。
「まあ良い、どうせ、熊毛の里の者だろう。切り殺してくれる!」
吐き捨てるように言ってから、剣を抜いた。
その時だった。
「ギンポウ様!大変です!船が来ます!」

2-6周防大島の岬.jpg
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