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2-7 対峙 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

7. 対峙
赤龍と黒龍が先導し、タマソ王の乗る大船白麗が続く。ゆっくりと桟橋に近づいていく。
ギンポウは不思議そうに大船を見ている。
「何故、ここに白麗が・・まだ、使いは着いていないはずだが・・・。」
元々、これらの船は海賊のものだった。
ギンポウはまだ、この船にタマソ王が乗っているとは知らない。
徐々に大船が桟橋に近づく。
昨夜のうちに、船に戻ったマサからの話を聞き、タマソ王らは如何に攻めるか相談していた。
岸からも船の様子がわかるようになった頃、赤龍と黒龍から、一斉に矢が放たれ始めた。岸に居た男たちは驚き、慌てて逃げ回った。
「何故、ここを襲うのだ!」
大船は、アナト国の旗を帆柱に掲げた。
「あ・・あれはアナト国の旗!王の軍だ!」
誰かが叫んだ。水軍の男たちは、徐々に矢の届かぬところまで下がり、盾を並べて守りを固める。
赤龍と黒龍は、さらに岸に近づき、水軍に向けて火矢を放ち始めた。矢は、男たちには届かなかったが、手前の草原に落ち、火が広がり始めた。火は風の勢いを得て、一気に広がり、海辺にあった家にも燃え移ると、家の中から、子どもや母親らしき女性が飛び出してくる。水軍の男たちは、女や子どもを庇いながら、徐々に、丘のほうへ逃げ出していく。
「放つのを止めよ!」
タマソ王が、大船の舳先に立って号令を掛けた。大船や赤龍・黒龍の船縁には、男達がずらりと並んで、水軍の里を見下ろした。里を襲い、略奪を繰り返してきたはずの水軍の里は、どうみても貧しく小さな里に過ぎなかった。そして、水軍の男たちは反撃してくるどころか、里の者を守って後退していくではないか。これでは、里を襲った水軍と同じだとタマソ王は思った。
「これはどうした事だ?・・水軍とはこの程度の者なのか?」
その問いに、熊毛の頭領サクヒコも、陶の里タモツも、そして、徳の里のトモヒコも、不思議に感じていた。そして、ギョクを見た。水軍の様子を知るのは、ここにいるギョクだけだった。
「いや、油断してはなりません。さあ、一気に攻め込みましょう。」
再び、水軍を見ると、矢を避ける盾の間を割って、大きな男が顔を見せた。その男を取り巻く屈強の男たちの中に一人、縄をうたれた男が引き出されてくる。
「これを見よ!」
大船に届く大声で叫んだのは、ギンポウであった。
「この男!貴様らの手の者であろう!」
縄をうたれている男の顔を掴んで、大船の方向に向けた。
「あっ!あれは・・・タカヒコ様!」
大船に戻っていたカズが叫んだ。
「この男の命、救いたくば、船から下りて来い!」
タマソたちは、皆顔を見合わせた。頭領サクヒコは、掴まったタカヒコの様子にうろたえた。
「タカヒコ様をお救いせねばならぬ。陸へ上がろう。」
大船と赤龍・黒龍はゆっくりと桟橋に着いた。そして、船から、タマソ王をはじめ、サクヒコやタマソ、トモヒコらも降りた。船に乗ってきた者のほとんどが桟橋に並んだ。
「さあ・・皆の衆、剣や弓を捨てよ!」
ギンポウが、タカヒコの顔に剣を向けて脅すように叫ぶ。
タマソ王をはじめ、居並ぶ者たちは、じっとギンポウを睨んでいる。じりじりと王の軍と水軍とが近づいていく。何かをきっかけに戦いが始まる、その時だった。
「皆、退け!退くのだ!」
水軍の後方にある、高楼から強い声が響いた。
水軍の男達が振り返る。そこには、リュウキの姿があった。隣には、金服を着た男が縄に縛られて立っている。
「リュウキ様じゃ!リュウキ様じゃ!リュウキ様が戻られたのじゃ!」
水軍の男たちは、口々に叫んだ。
「皆よ、よく聞くのじゃ。わしは長い間、牢へ閉じ込められておった。全て、この男と、ギンポウの企てた謀略だ。熊毛の里と水軍とを戦わせようとしているだけだ。目を覚ませ!」
凛とした声に、水軍の男たちは驚きを隠せなかった。
その光景にギンポウが呟いた。
「うぬぬ・・あの老いぼれめ・・ひと思いに殺しておけば良かったわっ!」
水軍の男たちもようやく事態が飲み込め、ギンポウを取り囲み、じりじりと近づいていく。
「こうなれば仕方ない。やい!ものども、やれ!」
その声に、水軍の端にいた数人の男が、剣を抜き、近くにいた女と子どもを羽交い絞めにして、ギンポウの周りに集まった。水軍の男達の中にも、ギンポウと通じていたものが潜んでいたのだった。羽交い絞めにされた子どもや女が、泣き叫んでいる。
「さあ、道をあけろ!」
女や子どもを人質にとられては、水軍の男たちも手出しできない。ギンポウたちは、取り囲んだ水軍の男たちを睨みつけたまま、桟橋ヘ向かう。
リュウキも、高楼から降り、金服の男を連れ、桟橋ヘ向かった。桟橋には、タマソ達が居並び、ギンポウたちの行く手を阻もうとした。
「逃げられはせぬぞ!」
タマソ王が叫ぶ。ギンポウは、タマソ王を睨みつけ、不敵な笑みを浮かべた。
「お前が、アナトの王か?・・若いな。・・・苦労を知らぬような顔をしておる。」
ギンポウは余裕を見せた。

2-7瀬戸内島.jpg
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