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2-8 大嵐 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

8. 大嵐
「おい、ギンポウ!この男は捨てていくつもりか?」
リュウキがようやく桟橋までやってきて、金服の男の首に剣を突き立てたままで訊いた。
ギンポウは、リュウキの呼びかけに振り向き、はき捨てるように言った。
「そいつは、我が来島水軍とは関わりなきもの。・・我らを脅し、かような悪事を働かせた東国の使いだ!八つ裂きにしてくれて構わぬ。我らは、来島を守る為、手先になっただけの事。」
ギンポウの話は意外なものだった。
「下がれ、下がらぬとこの男の命は無いぞ!」
ギンポウは、タカヒコの縄を強く引き、桟橋に向かう。桟橋には、赤龍が着いている。
屋代の水軍とタマソ王の軍とが、ともにギンポウの後をじりじりと迫りながら進む。
「逃げられはせぬぞ!」
再び、タマソ王が叫ぶ。再び、ギンポウはにやりとしてタマソ王を見た。そして
「おい!戸板を下ろせ!」
その声に応えるように、赤龍から渡り板が下ろされた。
そして、ギョクがゆっくりと顔を見せ、ギンポウを迎えたのだった。
「ギョク様?・・一体、これは?」
ギョクを師と仰ぎ、ここまで船を操る術を教わったマサが驚いた様子で問う。
ギョクは、船縁からマサを見つめて言った。
「済まぬな・・俺は、ギンポウの弟。来島の水軍なのだ。アナト王が兵を挙げると知り、ここまで連れて来た。熊毛の里と水軍とが戦い、殺し合い、力を失わせるのが、我らの仕事なのだ。」
ギンポウは、ゆっくりと赤龍に乗り込んだ。ともにいた男たちも、船に乗り込んだ。
赤龍はゆっくりと桟橋を離れ始めた。
「逃げるぞ!・・追いかけねば!」
その声と同時に、黒い影が隣にあった焼け落ちた船から大きく跳躍すると、赤龍の甲板に立った。そして、腰の剣を抜くと、眩いほどの青い光が辺りに満ち始めた。
「すぐに船を止めよ!」
その声は、地響きにも似た太い声、船に立つ男は、獣のような体格をしている。獣人に化身したカケルが現れたのだった。桟橋の端には、アスカも立っている。
それでも船は岸を離れようとする。
カケルは、剣を天に翳した。晴れわたっていた空に、黒雲が湧き始め、辺りは徐々に薄暗くなってきた。そのうちに、轟々と風が強まり、岸に寄せる波も強くなり、あっという間に、嵐の様相となってきた。赤龍の中から、ギンポウが数人の兵を連れて現れた。
「貴様、何者だ!」
ギンポウは初めて見る異形な男に半ば怯えながら叫んだ。
「カケル様・・・」
ギョクは、赤間の関で、頭目を倒した場面を思い出していた。
「兄者、歯向かわぬほうが良い。恐ろしき力を持っている御人なのだ!」
ギョクの言葉は、ギンポウの耳には入らない。
「野獣のごとき化け物め!こうしてくれるわ!」
ギンポウは、カケルに向けて大槍を突く。カケルはひらりと身をかわした。
強く吹き付ける風の中、ギンポウと取り巻く男は、必死にカケルを追う。何度も何度も、槍を突く。その度にカケルは身をかわす。
空を覆った黒雲から、次第にゴロゴロと雷鳴が響き始めた。
「槍を捨て、大人しくせよ!さもなくば命を落とすぞ!」
「こしゃくな物言い!こいつめ!」
ギンポウは、より激しく槍を突く。強い波で赤龍の船体が大きく揺れ始める。
「兄者、止めてくれ!もう止めてくれ!」
ギョクが、ギンポウを止めようと必死に呼びかける。しかし、ギンポウには届かない。
「ええい!」
掛け声とともに、ギンポウの突く槍がカケルの左腕を捉えた。しかし、カケルは剣で槍を叩き落とす。すぐに拾い上げ、大きく振りかぶった時だった。
ドーンという轟音と激しい光。
稲妻が翳した槍に直撃した。辺りにいた者も、その衝撃で吹き飛んでしまった。
桟橋から、赤龍の様子を伺っていた者の多くも、その衝撃に吹き飛んでいた。
しばらくの間、誰一人動かない。次第に、黒雲が消え、雲の切れ間から日が差し込み始める。
赤龍の船上には、カケル一人立ち、剣を翳している。その剣に太陽の光が当ると、辺り一面に神々しい光が溢れ、吹き飛ばされた者達も気がついて、一人、またひとりと起きはじめた。
赤龍の甲板には、黒く焦げた槍を手にしたギンポウが倒れている。
「兄者!兄者!」
ギョクが縋り付き、ギンポウの容態を心配する。カケルは化身から解けていた。
「アスカ!アスカ!」
カケルはアスカを呼んだ。アスカは桟橋に居て、ずっとカケルを見守っていた。
カケルの呼ぶ声の意味が、アスカにはすぐに判った。
再び、岸に戻った赤龍に、アスカはすぐに乗り込んで、ギンポウの手を取り、祈った。
温かな金色の光が甲板の上に広がっていくのを、皆、見守っている。しばらくすると、ギンポウが薄っすらと目を開けた。
「俺は一体・・・。」
傍で手を握り、祈るアスカの姿に、ギンポウは女神を見ていた。

2-8稲妻3.jpg
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