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2-9 和解 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

9. 和解
高楼の周りに、男たちは集まっていた。剣も弓も持っていない。中心には、カケルが座っている。それを挟むように熊毛の頭領サクヒコと水軍の頭領リュウキが向かい合って座った。ギンポウとギョク、そして金服の男が、縄に縛られてカケルの後ろに座らされていた。
これまでの経緯は、カケルの口から語られた。一通り聞いた後、サクヒコが口を開いた。
「リュウキ、いや、カワヒコよ。赦してくれ。わしへの恨みを晴らす為に、海賊となり、次々に里を襲っておったと思っていた。」
「兄者、何を恨みを持つことがあろう。わしこそ、兄者の事も考えず、勝手な事をしたのだ。償いにと水軍を作ったが・・それが利用されようとは・・・浅はかであった。赦してくれ。」
二人は手を取り、お互いに涙を零し、和解した。居合わせた男たち、水軍も熊毛の里の者も手を取り長年の思い違いを確認し和解した。

「さて、この先、ギンポウとギョクの始末、いかがすべきでしょう。」
カケルは、サクヒコ、カワヒコに尋ねる。サクヒコが口が開く。
「・・始末をつける前に、言い分を聞くべきであろう。」
「それが良かろう。」
カワヒコも同意した。カケルは、その脇に座るタマソ王にも視線を送った。タマソ王もこくりと頷いた。ギンポウが、カケルの横に引き出された。
「わしら、来島の水軍は、吉備や安芸、そして伊予の国とを繋ぐ水運が仕事でした。しかし、東国からの大軍が吉備へ攻め込み、わしらの来島も奪われてしまいました。わしらは、東国に捕らえられ、手先にされ、そして、安芸の国、アナト国を手中にする為の道具とされたのです。」
そこまで聞いて、ギョクも前に出てきて話を続けた。
「兄者は、屋代の水軍を操り、熊毛の里との戦を仕掛け、双方が傷つけば、東国から一気に攻め入る算段でした。私は、それだけでは戦にならぬのではと考えておりました。そんな時、赤間の関でアナト王の軍が水軍を征伐すると知り、ここまで案内をしたのです。しかし、タマソ王やカケル様は、いや、アナトの国の皆様は、真っ直ぐな御方ばかり。謀ろうとするわが身にいつも問いただして参りました。・・申し訳ありません。」
「ギョクは、ただただ、我が一族のために、あの島を取り戻したいがために働いただけです。弟はお許し下さい。全ては一族の長である、わしの力不足の為。どうか責めはわし一人に。」
ギンポウが、弟ギョクを庇うように、訴える。
「東国とはどのような国なのですか?」
カケルの隣に座っていたアスカが訊いた。ギンポウは少し考えてから言った。
「詳しくは知らぬ。ただ・・東国から来た船は我等のものより大きく、皆、強き鎧や冑を身に着け、勇ましい。おそらく、大きな大きな里があるに違いない。」
それを聞いて、リュウキが口を開いた。
「都というものがあるそうだ。色とりどりに塗られた館や・・人も多く、物で溢れていると・・伊佐那姫が申されておった。・・韓とも交易をしており・・たくさんの韓人(からびと)もいるそうじゃ。」
「それほど豊かなところが、何故、国々を侵しているのでしょう。」
カケルが訊いた。リュウキもギンポウも考え込んだ。
「それは・・・私が・・・。」
縄を打たれ、ギンポウの後ろに座らされていた金服の男が恐る恐る口を開く。
皆、振り返った。
「私は、ここよりはるか東、摂津の国の生まれ・・難波のアリトと申すものです。都には、国々の王を束ねる皇君(おおきみ)がおわします。今、皇君は韓に負けぬ国を作ろうとされておられます。そのために、西の国々を配下にすべく兵を遣わされたのです。」
「だからと言って、里を襲い、民を殺すのが赦されるとでも言うのか!」
話を聞いていたタカヒコが立ち上がり、食って掛かった。
辺りにいた者達も声を上げた。
サクヒコが「静かにせよ」と皆を宥め、難波のアリトに向かって訊いた。
「その・・皇君は、この地で起きている事をご存知なのか?」
アリトは、「いえ」と言ったまま、俯いた。そして、再び顔を上げると、
「東国では、この中津海に住む民は、粗野な者たちだと蔑む風潮があります。そのような者たちには、剣を突きつけ力でねじ伏せよと言っております。それに、昔、韓へ向かう船から姫をさらい、その命を喰らい、また恐ろしき力を使い、多くの船を飲み込むほどの、物の怪すら居ると聞かされました。」
その話に、サクヒコは驚き、リュウキの顔を見た。リュウキは、自らが起こした事がこのような事態に繋がっている事に心を痛めていた。
カケルは立ち上がり、皆を見て、言った。
「さあ、如何いたしましょう。」
その場に居る者は、顔を見合わせ、思い思いに思いつくことを言い始める。
タマソ王も悩んでいた。熊毛の里や屋代の水軍を謀り、アナトの国を荒らした者たちを処罰する事は容易なことだろう。しかし、それで何が残るのか。赤間の関で決意した「新しきアナトの国造り」のため、王になる道を選んだが、ここまで何を為し得たのか。罪人を処罰しても何も始まらない・・タマソはそう思い始めていた。
サクヒコやリュウキも、迷っていた。血の気の多い者達は、おそらく、アリトやギンポウたちの命を奪えと求めるだろう。だが、それで納得できるのだろうか。
徐々に、話し声が静まり、皆、考え込んでしまっていた。

2-9葛城の里.jpg
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