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2-10 総意 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

10. 総意
静かになった男たちの輪の中、周囲の様子をじっと見ていたカケルは立ち上がった。
そして、ゆっくりと皆の顔を見渡した。
「これまでの謀の罰として、ここに居る者の命を奪うのは容易いことでしょう。」
カケルの声が響き渡った。男たちは皆、じっとカケルを見つめた。
「だが、それで全て終わるのでしょうか?」
カケルの問いに、誰も答えを持ち合わせていなかった。
「サクヒコ様!貴方の望みは何ですか?」
サクヒコは、タカヒコの顔を見て、静かに頷くと、答えた。
「熊毛の民を守ること、それだけだ。」
「リュウキ様は、いかがですか?」
「この海で狼藉を働くものを退治する事、それが我らの為すべき事。それこそが皆を守る術。」
リュウキは、サクヒコを見て答える。カケルは、今一度、皆の顔を見渡した。そして、
「では、この者たちの命を奪っても仕方の無い事ですね。」
その言葉に、タモツが言った。
「では、カケル様は、この者たちを赦せと申されるのか!それは出来ぬ。我が一族は長年辛い思いをして来たのだ。そのものたちへの恨みは深い。」
カズも言った。
「赤間でも、命を落とした者が居る。・・タマソ王の父様もそうだ!赦すわけにはいかぬ。」
他の者たちも口々に不満を言い始めた。カケルは皆を鎮めてから、一層声高に言った。
「皆さん、お聞き下さい。・・私も、ここまでに何人もの命を奪って参りました。時には、身を守る為仕方なく、ある時は民を守る為・・しかし、いかなる理由があろうとも、命を奪った事は赦されぬことだと思っております。どれほどの罪人にも、親や子、一族の者がおるはずです。それらの者は、命を奪った者を恨み続けるでしょう。それゆえ、私は、我が罪を背負い、その償いをする為に、為すべきことに命を懸けております。」
それを聞いて、男達は自らの身を考えた。我が里を守る為、戦い、奪った命がある。手にした剣には、いずれかで血を吸ってもいた。
「では、この者達にも、罪を背負わせ、その償いをさせよと申されるか?」
サカヒコが言った。
「はい。命ある限り、犯した罪を悔い、己のできる事、為すべきことをさせるのです。」
そこまで聞いていたタマソ王が立ち上がり、カケルの前に出て皆を見渡して言った。
「どうだろう。この者たちの事はカケル様にお任せしようではないか。これ以上、恨みや悲しみを産むのは止めにしよう。」
王の言葉は重かった。みな、頷き同意した。タマソ王はゆっくりと振り返り、カケルを見た。
カケルは深々と頭を下げた。タマソ王は今一度、居並ぶ男たちを前に言った。
「私は、民を守る強く豊かなアナト国を作る為に、王の座を継いだ。そのためには、屋代の水軍を倒すことが先決だと信じ、ここまで来た。だが、水軍は敵ではなく、アナトを守る民であった。私は、王として間違っていたのだ。王は民を信じ、民を守る為に命を掛ける者であるはずだった。しかし、疑い、相手を打ち負かすことだけを考えていた。もう過ちは赦されぬ。今、ここには、熊毛の里、徳の里、陶の里、赤間の者、そして、屋代の水軍が集まっている。我らが互いを信じ、心を合わせて国造り、里作りに励めば、きっと素晴らしき国が出来るはずだ。どうだ、みんな、私に力を貸してもらえぬだろうか。」
王の言葉は、男達の心に届いた。皆、歓声を上げ、抱き合ってよろこんだ。そして、サクヒコ、リュウキ、タモツらはお互いに手を取り、信じあうことを誓った。
「して、その者たちをどうされるおつもりですか?」
サクヒコが訊ねる。
「それぞれ、己の罪を知り、為すべき事は自分で決めねばなりません。」
カケルはそう言うと、ギンポウたちを見た。すでに縄を解かれている。
ギンポウは、佐波の海を荒らした者たちを集め、悔い改めさせたのち、ギョクとともに、来島へ戻り、東国の兵と戦い、必ず故郷を取り戻したいと言った。
難波のアリトは、まだ答えを出せなかった。東国の将の手先となり、この地まで来たが故郷は遠く、戻ったところで為すべき事が見つからないと思っていたのだった。
「では、私とアスカを案内し、東国へ連れて行ってくれませんか?」
「東国へ?」
カケルは、アスカが亡き須佐那姫の娘である事、そして、父は東国に居る事を皆に話した。アスカの里を探すという約束を果たしたいのだと皆に告げた。
「それと・・・東国の皇君がどのような御方か知りたい。韓に負けぬ国を作りたいというお考えが、このような悲劇を招いている事を知らせなければならぬとおもうのです。」
皆には、カケルの考えは途方も無い事だと思われた。だが、カケルならば、やり遂げるのではないかとも感じていた。アリトは驚きつつも、自分にしか出来ぬことだと確信し、承諾した。
「サクヒコ様、一つお詫びをせねばなりません。ハガネ作りの約束を果たせそうにありません。」
カケルが言う。それを聞いて、リュウキが言った。
「それなら、こやつを使ってくだされ。韓船に乗っていたヒョンテです。韓ではハガネ作りをして居ったそうです。船では役に立ちませんでしたが、ハガネ作りは得意だと言っております。」
背の低い色白で細い目をした男がピョコッと頭を下げた。

リュウキは、里の者たちに指図して、食べ物を運ばせた。高楼の周りには、里の女や子どもたちも集まり、互いに詫び、これからのアナトの国について語り合った。日暮れになり、高楼の前には篝火が焚かれ、誰ともなしに歌い踊り宴が始まった。

2-10松明.jpg
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