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2-11 それぞれの道 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

11. それぞれの道
宴の脇の暗がりに、アリト、ギンポウ、ギョクらは座らされていた。すでに縄は解かれたものの、小さな檻のような中に入れられたままだった。皆を謀り、頭領を牢獄に入れ、里を襲い、荷内島では民を皆殺しにした。一つ一つの罪を、檻の中で悔いていた。
そこへ、カケルが来た。カケルは檻の前に座り込むと、手にしていた食べ物をギンポウたちに手渡した。
「腹が空いているでしょう。さあ。罪は罪、償うためには命を繋がなくてはいけません。」
檻の中で男たちは涙を流しながら、カケルが渡した肉や魚を無心に頬ばった。
そこへ、リュウキが少し酔った風情で現れた。檻の前にどかっと腰を下ろすと、中をじっと睨みつける。そして、
「ギンポウ!ギンポウは居るか!」
ギンポウは慌てて前に出た。
「おお、そこに居ったか。・・・ふん・・わしはお前を赦さぬぞ。長年、牢に閉じ込め、あと僅かで死んでおるところだったのだ。・・アスカ様が居られなければとうに死んでおる。・・おお、そうか、お前もであったな。稲妻に打たれながら生きながらえるなどとはな・・。」
リュウキはぐっと手を突き出し、ギンポウの顔あたりにもっていった。
「この手で、お前を八つ裂きにしてやりたいが・・・アスカ様に免じて堪えてやろう。・・だが、良いか。心せよ。わしら、屋代の水軍は・・未来永劫・・・来島の水軍とは・・・決して・・決して戦わぬ。この中津海を守るために力を合わせることを誓うのだ!・・例え、わしとお前の命が果てようとも、子々孫々語り継ぐのだ。それが、わしへの償いと心せよ!」
ギンポウは大粒の涙を零しながら、目の前に突き出された拳を握り締めた。
「我が命、屋代と来島・・いや、中津海の全ての民に奉げます。」
「よおし、それでよい、それでよいのだ。」
リュウキも涙を流していた。

しばらくすると、マサが魚を隠し持って檻の前に現れた。カケルが座っているのを見て、一旦戻ろうとしたところで、檻の中から、ギョクが声を発した。
「マサ!」
声に呼び止められ、マサは檻の前に来て座り、懐から、干物を取り出して檻の中に入れた。
「マサ、済まぬ。どれほど詫びても赦されぬだろうが、済まぬ。本当に済まなかった。」
マサは、まっすぐにギョクの顔を見る事ができなかった。そして俯いたまま言う。
「ギョク様は、私に生きる道を授けてくださった。何も出来なかった私に、船を操る術、潮を読む知恵、そして、深く考える事を教えてくださった。なのに、なぜ・・・今でも信じられません。」
そう言うと涙を零した。信じていたものに裏切られた悔しさだけではない、師と仰ぐ人が罪人として捕われた無念さで胸が張り裂けそうだった。
「一つ、お教えください。ギョク様は本当に我らを謀ることだけを考えていらしたのですか?」
マサの問いを聞いて、傍にいたカケルも驚いた。
「我らを謀るなら、なぜ、これほど多くの事を私に授けられたのですか?ただ、我らをここまで連れてくれば済むでしょう。・・まるで、本当に強きアナト国の水軍を作りたいと思っていらしたとしか思えないのです。」
カケルもマサと同じ事を感じていた。屋代の水軍と戦う事よりも、東国の兵を追い払う事を望んでいたのではないかと思っていたのだった。
ギョクは何も語らず、押し黙ったまま、じっと頭を垂れていた。

翌朝、それぞれがそれぞれの役割をもって動き始めた。
焼け落ちた船は、カケルが先導して、水軍の男たちやギンポウらとともに修理を始める。
カケルとアスカは、修理した船の中から、一番小さい船をリュウキから貰い受け、ギンポウ・ギョク・アリトらとともに、まずは来島を目指すことにした。
サクヒコたちは、タマソ王達とともに、熊毛の里へ戻る事になった。タモツは、赤龍で陶の里へ,トモヒコたちは黒龍で徳の里へ戻る事になった。
別れの桟橋で、それぞれが、新しきアナト国を作る事を再度約束した。
「カケル様、東国への旅のご無事、お祈りいたします。くれぐれも無茶なさらぬように。私は、皆と心をあわせ、豊かで強きアナト国を作ります。」
カケルたちの乗った船を、タマソ、サクヒコ、リュウキらが居並び、手を振って見送った。

「これから寒い季節になると、西風が強まります。波は高くなりますが、風を捉えれば、来島まではほんの二日もあれば着けるでしょう。」
ギンポウが舵を取りながら説明した。
「来島には、東国の兵がいるのでは?」
アスカが揺れる船の縁にしがみついて訊いた。ギョクが説明する。
「来島は、大小いくつもの島が、吉備から伊予まで連なった場所なのです。島数が多すぎて、我らとて全て知り尽くしては居ません。兵が居るのは、吉備に近い因島(いんのしま)だけ。我らの仲間は、伊予に近い大島あたりに潜んで居ります。そこなら大丈夫です。」
「それなら、吉備に向かわず、伊予から讃の国を経て、摂津へ向かう方が良いでしょう。」
アリトが言った。
「伊予か・・・昔、ナレの村でアスカケから戻られたばかりのアラヒコ様から聞いたことがあります。たくさんの果樹があり、豊かな国だと・・確か、乙姫(おつき)様が治めておられると・・・。」
アスカは、遠く船の先を見つめていた。

2-11七五三浦.jpg
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