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2-12 来島へ [アスカケ第4部瀬戸の大海]

12.来島へ
 西風に乗った船は、屋代島からいくつかの小さな島を伝いながら、荒波を超え、予定よりも早く来島海峡の入り口に到着した。目の前には、いくつもの島が連なっていて、海の上からは低い山が連なる陸のように見えた。
「ここからは潮の流れが速いのです。上り潮に乗らねば進めません。今日は、あの岬の手前で船を止めましょう。」
カケル達が着いたのは、伊予の国の「しめの浦」という浜辺だった。周囲には集落は見当たらず、流木を集め火を起こし、野宿することになった。季節はもう冬に入っている。浜辺近くの竹林から竹を切り出し、簡易の風除けも作り、そこで眠ることにした。暖を取る為、火を焚き続ける為、交代で火の番をした。
「カケル様とアスカ様は、お休み下さい。我らが交代で火の番をします。」
ギンポウが申し出たが、カケルは、聞き入れなかった。
「あなた方は私の手下ではありません。皆、命をともにする仲間です。私も交代で番をします。」

「カケル様、九重のお話をお聞かせ下さい。」
流木を火に投げ入れながらギンポウが訊いた。カケルは少し考えてから言った。
「九重は、高き山が連なり、平地が少なく、狭い谷筋にわずかな田畑を作り貧しき暮らしのところが多いのです。だからこそ、皆が助け合って生きております。」
そう切り出して、ナレの里や、高千穂の峰、ヒムカの国、阿蘇、葦野の里・・カケルとアスカが旅をした様子を話して聞かせた。そして、邪馬台国復興に多くの者が集まり、邪な心を持つ王を倒した事も話した。時折、アスカも、カケルの活躍を加えた。
「アスカ様は、カケル様を心からお慕い申されているのですね。」
ギョクが何気なく呟いた。アスカは驚き、顔を赤らめた。
「カケル様は、アスカ様と夫婦の契りは交わされたのですか?」
ギンポウが訊ねる。今度は、カケルが戸惑った表情を浮かべた。それを察して、アリトが言う。
「東国の地に着かれたら、夫婦の契りを交わされると良い。そして、御子を持たれれば、さぞかし、強く美しき御子になるに違いない。まあ、それまでは、私がお守りいたします。」
アスカはカケルの顔を見た。これまですいぶんと長い間、伴に居たが、カケルの想いは訊いた事が無かった。ただ自分との約束を果たすのだと言う事だけを頼りにここまで一緒にいた。時折、不安にもなったが、あえてそのことは考えないようにしてきたのだった。
カケルは、アスカを真っ直ぐに見た。決意をしたようだった。
「アスカ、時が来れば、契りを結ぼう。その為に、こうしてアスカの里を探してきたのだから。東国の都へ着いたなら、父様を探し、許しを得る。そして、住まいを持とう。」
カケルが初めて、「契り」を口にした。ずっとずっと聞きたかった言葉であった。予期せぬ時に聞かされ、アスカは驚いた。そして、暗闇の広がる浜へ掛け出た。嬉し涙がとめどなく溢れてくる。
翌朝、潮を読み、一気に海峡を越える事になった。
風も弱く、船は順調に進む。遠くに、来島水軍の仲間が潜んでいるという大島が見えてきた。海峡を過ぎ、島の南側へ回り込むと、浜辺が見えて来た。
「もうすぐです。あの浜に仲間がいるはずです。」
ギンポウは舳先に立ち、様子を伺っている。徐々に浜に近づくと、ギンポウが声を上げた。
「おかしい、何か変だ!」
船が砂浜に乗り上げるより早く、ギンポウは船か飛び降り、腰まで浸かりながら、浜辺へ駆け上がっていく。ギョクも後を追って走り出す。
砂浜から少し上がったあたりに草原が広がり、その先が少し低くなっていた。ギンポウとギョクは必死に走る。カケルたちも船を着けると、二人の後を追った。
そこは、確かに小さな集落があったようだった。
だが、全ての家が焼け落ち、黒い焼け焦げた柱だけが転がっている。そして、その脇に、折れた剣や槍が纏められ、弔いを行なった跡が残っていた。
ギンポウとギョクが、不在の間に、東国の兵がここを探し出し、襲ったに違いなかった。
「何てことだ!」
ギンポウとギョクは、座り込んで、この有様に嘆いた。
「皆、殺されてしまったのでしょうか。」
アリトが小さく呟いた。カケルは、焼けた家の跡を見て回った。
「いえ・・きっと、どこかにいるはずです。この弔いの跡は、残った者が作ったもの。この近くに居るに違いない。探しましょう。」
カケルは、ギンポウやギョクを励まし、手分けして、周囲の山を探すことにした。そして、夕暮れ近くまで、周囲を探し回ったが見つからない。ギンポウもギョクも憔悴しきっていた。カケルは、焼け落ちた場所でも、夜露を凌げそうな場所を探し、火を起こした。
「猪でも獲ってまいりましょう。」
カケルはアスカと伴に、弓を手に再び山へ入った。小さな川筋に沿って上っていくと、すぐに獲物は見つかった。
「静かに。今仕留めるからな。」
カケルはそう言って弓を構える。辺りは風の音しか聞こえない。じっと狙いを定めていた時だった。かすかに、前方でパキッという木を踏む音が響いた。カケルは弓を下ろし、聞き入った。再び音がした。
「アスカ、この先に誰かいるようだ。・・ギンポウ様を呼んできてくれ。」
すぐに、アスカは浜へ走り、ギンポウを呼んだ。

2-12伯方島.jpg
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