SSブログ

2-14 東国の将 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

14.東国の将
 翌朝、潮の加減を見て、ギョクが船を操り、海峡を渡り、動鼻、大角鼻、舵取ノ鼻を回り、一夜を星の浦で過ごし、翌日には、風速岬まで達した。もうすぐが、伊予の都「熱田津」だった。
 東国の大船は、岬からは見えず、ギョクは更に船を進めた。立岩川の河口まで達した時、沖に浮かぶ鹿島の東の入り江に、大船が泊まっているのを見つけた。
「大船が居ます。風を避けているようです。いかがしますか?」
まだ戦を仕掛けている様子は感じられなかった。
「私は、東国の差配を任されている者。大船に行き、伊予攻めを止める様説得してまいります。」
アリトがカケルに言った。
「聞き入れるでしょうか?」
「判りませぬ。どのような者が軍を率いているか判りませぬゆえ、まずは遭ってみてからでしょう。場合によっては、刺し違えてでも止めまする。元はといえば、私の罪。ここまで生きながらえた理由は、このためかもしれませぬ。」
アリトは覚悟を決めているようだった。それを聞いてアスカが言った。
「このまま、大船の近くに参りましょう。・・これほどの小船です。東国の兵たちも矢羽を放つような事もないでしょう。近くまで行けば、様子も判りましょう。」
アスカの言葉で、小船は、鹿島の入り江に停泊している大船近くに進める事になった。
「なんだあ、あの船は?」
大船の見張り役が近づく小船に気付いた。
「小船がやってきます。」
見張りの報告に、大船の中でも最も大きな船の将が船縁から顔を出し、様子を見ていた。
「難波のアリトと申す!東国の船とお見受けした。大将は居られぬか!」
小船を大船の近くまで寄せて、アリトが叫ぶ。
「難波のアリトか・・・厄介な奴が現れたな・・・。まあ良い、遭ってやるか!」
そう言って、船縁に立ち、大柄な男が呼びかけた。
「おお、アリト様!・・このようなところまで、何用です。我は、明石のオオツチヒコと申す。軍の大将でございます。・・・まあ、船を寄せ、こちらへ参られよ!」
大船から綱が下ろされた。
「万一のことがあるやも知れませぬ。カケル様、アスカ様、この船でお待ち下さい。私一人で参ります。」
アリトはそう言うと、綱を握り船を上がって行った。ギョクは用心のため、小船を大船から少し離した。

「難波のアリト様、このような場所に何用です。確か、アナト国を攻略するために、屋代島へ行かれたとお聞きしたが・・・。」
オオツチヒコは、甲板に並べた椅子にふんぞり返るように座って、アリトを迎えていた。明らかに、アリトへの敬服の念など微塵も無いという風情であった。
「率直に聞こう。何故、伊予攻めをしておるのだ!我らの使命は、西国の平定。伊予攻めは命じられては居らぬはずだが・・。」
オオツチヒコはにやりと笑ってから、わざと神妙な顔つきになって言った。
「我らとて、伊予攻めは本望ではありませぬ。しかし、安芸、アナトの平定には思いのほか手が掛かっておる様子と聞き、それならば、伊予を平定し、支配下に置けば、一気にアナトへ蝉入れるのではないかと考えた次第です。」
「伊予は、皇君の母方の国。平定など不要と申されておったはず、そなたが知らぬわけはないはずだが。正直に申されよ、何故、伊予攻めをして居るのだ!」
アリトの詰問に、オオツチヒコは苛立った様子で椅子を蹴飛ばして立ち上がった。
「そのような事を考えて居るから、安芸もアナトも攻め落とせぬのだ!皇君は、いずれ四国、九重さえも平定される。我らはその先に動いているまでの事!そなたこそ、アナト国を落とせず、何故ここに居る。・・供をしてきた者は、誰だ?・・もしや、伊予の者ではあるまいな。いや、あの風情は来島の水軍かアナトの者か・・・・そなたこそ、アナトの者に取り込まれ、寝返ったのではないのか!」
そう言って、腰の剣を抜き、アリトの顔の前に突き出した。
「皇君の願いは、韓に負けぬ、強く大きな国を作る事。弱き国を従える事ではない。西国に住む多くの者の命を奪い、力で従わせるのは間違っていると気付いたのだ。話し合い、手を結べば良いだけなのだ。・・・伊予攻めなど無用な事。すぐに手を引かれよ!」
アリトは真っ直ぐにオオツチヒコの目を見て、訴えた。
「此度の西国征伐の差配役ともあろうお方が、力で従わせるのは間違っていると言われるか!なんと、腑抜けた事を。・・・西国の民など野人同然。知恵もなく、貧しき暮らしをして居るではありませんか。我が皇君の国なれば、あのような者達は不要でしょう。」
「なんと愚かな。将にあるまじき考えじゃ!すぐに兵を引き、明石へ戻られるが良かろう!」
「退かねばどうする?手勢を集めて我らと戦うとでも?・・それこそ愚か。もはや、そなたに従う者などありませぬぞ。」
「どういう事だ?」
「お教えしましょう。吉備まで来ておった東国の軍は、統率が乱れ、それぞれの将が勝手に動き始めました。大半は、国許へ戻りましたが、我らは元々、皇君の軍に国を奪われ、軍に加わった者。帰る場所など無い。いっそ、伊予を攻め落とし、われらの国にするのが良かろうと考えたのです。皇君の願いなどどうでも良い事なのです。」
オオツチヒコは、そう言うと、剣を振り上げ、アリトに切りかかった。アリトの右肩から血が噴出した。同時に、大船から、カケルたちの小船に矢が射掛けられる。ギョクは慌てて船を漕ぎ、矢羽の届かぬところまで、船を離した。

2-14鹿島.jpg
nice!(12)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 12

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0