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2-19 戦いの後 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

19. 戦いの後
ようやく、クニヒコたちが浜に降り立ち、粟井の坂の男たちと合流した。
目の前に、矢に射抜かれた兵が倒れている。
「あれほどの距離で、射抜くとは・・なんと恐ろしき力であろうか!」
クニヒコは驚いた表情で、カケルが居る坂の途中を見た。
カケルは仁王立ちになって、浜を見下ろしている。その表情は、髪が逆立ち、鬼のようであった。
カケルは、剣に手を掛けた。剣から光が漏れ、あたりを包み込み。
「グルルル・・」
低い唸り声を上げて、蹲ると、背中や足の肉がモコモコと盛り上がり始め、一回り大きくなる。頭髪は、狼のごとく金色に変わる。
カケルは、地面を一蹴りして、高く飛び上がり、一気に浜へ降り立った。
獣人に化身したカケルは、東国の兵が隠れている岩場に向かう。
「うわあ・・・く・・来るなあ!」
恐ろしき獣人になったカケルを初めて見た、東国の兵も、里の男たちも、余りの恐怖に、その場に座り込み、ただ剣を振り回し、動けなくなっている。
「何だ?・・・あの物の怪は?・・・こうしてくれるわ!」
大船に居た東国の将、オオツチヒコが弓を引いた。放たれた矢は真っ直ぐカケルの背を射抜く。
「うぐっ・・・。」
カケルは、痛みに小さく声を漏らしたが、すぐに、背に刺さった矢を引き抜いた。
そして、振り返り、大船を睨んだ。
舳先にはオオツチヒコが立っている。カケルは剣を収め、真っ直ぐ大船に歩いた。
「化け物め!」
再び、オオツチヒコが弓を引く。
飛んできた矢を、カケルはあっさりと手で掴んだ。そして、自らの弓に構えた。そしてそのまま一歩ずつ大船に近づいていく。
「この戦を止め、すぐに東国へ帰れ!さもなくば、矢を放つ!」
「黙れ!化け物。お前の指図など受けぬ。」
オオツチヒコは、聞き入れず、再び弓を放った。矢はカケルの髪を掠めただけだった。
「命が惜しくば、すぐに弓を捨てよ!」
カケルは再び忠告した。しかし、オオツチヒコは聞き入れようとせず、再び弓を構える。
「やむを得ぬ。赦せ!」
カケルは、力を絞り、矢を放った。次の瞬間、オオツチヒコの眉間を矢が貫いた。そしてそのまま、オオツチヒコの首は、胴体から離れ、大船の帆柱に突き刺さった。
「ひええええ・・。」
大船に残っていた兵は、剣や弓を放り投げ、船から海へ飛び込んだ。同じように、岩陰に居た者たちも、粟井の坂を守っていた者たちも、一斉に剣や弓を投げ捨て、その場に蹲り土下座した。
「なんという怖ろしき力・・・狼の化身か・・それとも鬼か・・・」
クニヒコも怖れ、その場に座り込んだ。
全て終わった。カケルは、急に力が抜けて、手にしていた弓を落とした。そしてそのまま、仰向けで倒れてしまった。
「カケル様!」
アスカがようやく坂を下り、倒れたカケルの元へ走る。
オオツチヒコが放った矢は、確実にカケルの背を射抜いていた。獣人に化身していた時はわずかな痛み程度だが、元に戻れば、命に関わるほどに大きな傷なのだ。
アスカはカケルの体を抱きかかえると、手は真っ赤な血で濡れた。どくどくとカケルの背から血が流れているのだ。
「カケル様!しっかりしてください!」
その声に、クニヒコたちも集まってきた。
「これはいかん。血を止めねば死んでしまうぞ。」
クニヒコは、着ていた服の袖を引き裂き、カケルの傷口に強く押し当てた。見る間に真っ赤に染まっていく。徐々にカケルの体温が下がっていくのが判る。
アスカは、首飾りを右手で強く握り締め、強く祈った。すると、首飾りが暖かな光を発し始めた。徐々に、光は強くなり、カケルの体を包み込んでいく。
「アスカ様のお力か?」
皆、光に魅せられたように、アスカを見つめた。
「ううっ・・。」
カケルが何か声を発したが、意識は取り戻さない。徐々に光は弱くなる。
「アスカ様!」
光が消えると同時に、アスカも意識を失い、カケルの体を抱いたままその場に倒れこんだ。カケルの出血は止まっている。しかし、意識は戻らないままだった。
日が傾き始めている。冷たい北西風が強くなってきた。これから、あの坂を二人を運んで戻るのは無理だった。
「大船に運んでください。船の中なら寒さも凌げるでしょう。」
東国の兵の一人が恐る恐る進言する。先ほどまで剣を交えていた者たちが、カケルとアスカを救うために力を合わせたのだった。

2-19松山海岸.jpg
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