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2-22 憑依 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

22. 憑依
アスカは、王の手を握り、眼を閉じた。
しばらくすると、アスカの首飾りから淡い光が漏れ始めたが、すぐに消えた。アスカは目を開き、王の顔を覗きこんだ。そして、戸惑った表情を見せながら、カケルを見た。
「どうした、アスカ?」
「何か、大きな力が王様を取り込んでおります。地中深くから、黒き手が王様の御命を掴んで、引きずり込もうとしているように感じます。私の力も、役に立ちません。」
それを聞いて、クニヒコが立ち上がった。
「何と言う事か。・・・どうすればよいのだ!」
アスカは、天井を見上げた。そして再び、眼を閉じた。首飾りから光が漏れ始めると、天井に溜まっていた白紫の煙がふわりと揺れ、次第に渦を捲きはじめた。そして、その煙の渦がアスカを取り巻き始めた。
「何だ、この煙は。生きて居るようだ!」
「戸板を・・開け放ってください。」
アスカが叫ぶ。すぐに、クニヒコやカケル、そしてイクナヒコが王の部屋の戸板を外した。日の光が部屋に差し込むと、アスカを取り巻く白紫の煙が乱れ始め、暗闇を目指して部屋の隅へ動き始めたが、次第に消えていった。
「何だ、あれは?」
アスカは、目を開くとそっと言った。
「地中深くに眠る魑魅魍魎の類です。・・地の神が押さえつけているはずのものが呼び起こされたのです。・・それが、王の体を縛りつけていたようです。」
「何と・・ならば、巫女の仕業と言う事なのか?」
「判りません。巫女様の身に何か起きていると思われます。」
アスカの答えに、クニヒコは王の寝所を出て、侍女を呼び叫んだ。
「巫女は何処だ!案内せよ!さあ、出て来い!巫女、何ゆえ、王に危害を加えるのだ!」
「お待ち下さい、クニヒコ様。巫女様は・・そのような事は・・!お待ち下さい!」
侍女が次々に集まり、クニヒコの前に立ちはだかり、止めようとした。
「ええい!お前たちも、邪魔立てするか!」
クニヒコは怒りに任せて、腰の剣を抜いた。
「きゃあ!」
侍女達は、クニヒコの剣に驚き、身を引いた。が、すぐに様子が変わった。一人立ち上がり、懐から小刀を取り出して構えた。
「何だ、歯向かうのか?お前たち、どうしたのだ?」
次々に、侍女たちが懐から小刀を取り出し、クニヒコの前に立つ。侍女の目は、怪しい光を放っている。
「何と!物の怪に取り憑かれておったか!」
クニヒコは剣を構えた。じりじりと侍女達はクニヒコを取り囲む。
「殺めてはなりませぬ!取り憑かれているだけです。私にお任せ下さい!」
アスカが王の部屋から飛び出してきた。
そして、首飾りを侍女たちの前に掲げ、一心に祈り始めた。徐々に、首飾りから光が発し始める。侍女の体に光が触れると、侍女の体から何か黒い影が飛び出し、侍女はその場に倒れてしまった。一歩ずつ、アスカは前進する。侍女達は、ひとりひとり、光に触れその場に倒れていく。アスカは、首飾りを翳したまま、巫女の居る部屋へ向かう。その後ろを、クニヒコ、カケル、イクナヒコが続いた。
巫女の部屋の戸を開けると、中は、白紫の煙が立ち込めている。部屋の真ん中には、火が燃え、巫女は一心不乱に祈祷をし、火に板切れを放り込んでいる。
アスカが部屋に入ると、煙が一気にアスカを取り巻いた。アスカは必死に念じた。首飾りの光は一層大きくなり、部屋中に光の筋が飛ぶ。煙が徐々に色を変え、出口から外へ出て行く。それでもなお、巫女は必死の形相で祈祷を続けている。
「イクナヒコ様、私と伴に!」
カケルはそう叫ぶと、一気に部屋に押し入って、壁を剣で切りつける。戸板が割れ、外からの陽射しが射し込む。イクナヒコもカケルに倣って、戸板を割る。徐々に、部屋の中に日の光が射し込んでくると、巫女の灯した火が小さくなっていく。
「ううううっ!」
巫女はそう叫ぶとその場に突っ伏してしまった。火が消え、煙も収まった。
「これは一体どうしたことか?」
クニヒコが、部屋の様子を眺めて言った。部屋の中には、たくさんの壷が並べられている。その一つを覘くと、中には、黒く干乾びた蛇が入っている。壁には、干乾びた蜥蜴も打ち付けられたように並んでいる。
「何かの物の怪に取り憑かれた様ですね。」
カケルが言った。イクナヒコも、気味の悪い部屋の様子を見て眉をひそめている。
アスカはまだ首飾りを翳したままだった。
クニヒコが、巫女に近寄り、肩を揺すり起こそうとした。
「いけません!」
アスカが叫ぶと同時に、巫女が飛び上がり、クニヒコの首筋に噛みついた。
「やめなさい!すぐに退散しなさい!」
アスカが念じると、強い光が巫女の眉間に当った。
「ぎゃあ!」
悲鳴と伴に、巫女の体から黒い塊が抜け出て、空へ消えていった。巫女は絶命していた。

2-22煙.jpg
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