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2-23 回復 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

23.回復
「クニヒコ様、イクナヒコ様!王様が!」
悲鳴ににも似たアヤの声が、館の中に響いた。皆、慌てて王の寝所へ向かう。
「どうした、アヤ!」
真っ先に駆けつけたイクナヒコは、アヤに訊ねた。
「王様が、先ほど・・目を開けられました。ほら・・。」
横たわる王の枕元には、暖かな春の陽射しが降り注ぎ、王はゆっくりと目を開け、声のするほうへ顔を向けた。
「おお、気が付かれたようだ。」
クニヒコがすぐに王の枕元へ行き、手を取った。
「王様、クニヒコでございます。お加減が悪いとお聞きし、飛んで参りました。・・ご気分はいかがですか?」
王は、ニコリと微笑んだ。まだ、言葉を発するほどの体力がないのだろう。だが、確実に顔色が良くなっている。
物の怪に取り憑かれていた侍女たちが目を覚ました。王が目覚めたと聞き、皆、喜んだ。そして、すぐに、湯や食事の支度がされた。
「どうやら、この館全てが物の怪に取り憑かれていたようだな。」
ようやく落ち着いた館の中で、クニヒコとカケル、イクナヒコは、巫女の部屋を片付けながら話している。
「ここにあるものからすると、おそらく仙狸(せんり)の類ではないかと・・・。」
カケルが言う。
「仙狸とは?」
イクナヒコが訊ねると、クニヒコが答えた。
「深い山に住む大猫の事だと聞いたことがある。だが・・この里でそのような・・。もしや、宇和一族の仕業ではあるまいな。」
「いえ、物の怪は、われらの思い通りにはならぬものです。宇和一族の仕業ではないでしょう。おそらく、この地には、昔から、山猫が居たのでしょう。住む場所を奪われ、もしかすると、無残にも殺されたのかも知れません。その恨みが、地に残り、仙狸を作り出し、巫女様の体に取り憑いて、このようなことを起こしたに違いありません。」
「我ら、人が作り出した物の怪・・・と言う事か・・・丁重に供養せねばならぬな。」
アスカとアヤは、王の傍に居た。
「王の様子はいかがか?」
クニヒコが戻ってきて訊いた。
「はい、随分楽になられたようです。」
「それは良いことじゃ。ならば、アスカ様、お力で元の強き王に戻して下され。」
クニヒコが笑顔で話した。アスカは少し戸惑った表情をしている。
「クニヒコ様・・お話がございます。こちらへ・・。」
アスカはそう言って、クニヒコを王の寝所から外へ連れて行った。カケルも同行した。
館の前には、水路を設えた庭が作られていて、アスカ、クニヒコ、カケルは、水路の畔にある石に腰掛けた。
「王様は、長くあの煙の中に居られたようですね。」
「ああ、だが、もう大丈夫なのだろう?」
クニヒコは少し不安げに訊いた。
「先ほど、王様の手を取り、念じてみたのです。・・ですが、どうしても、元に戻る御命の糸が見つからぬのです。このような事は初めてです。もはや、自らのお気持ちだけで生きておられるのだと感じました。」
クニヒコは、愕然とし、もう少し早く駆けつけて居ればと悔し涙が零れた。
「判った。」
クニヒコは、涙を拭うと王の寝所へ戻った。そして、ここでの一部始終を王に話した。
「そうか・・そなたに命を救われたのか・・礼を申すぞ。」
王は、アスカの手を取り、涙を零した。そして、
「・・これほど体が弱ってしまっては、王として為すべき事ができぬ。王位を譲るべきではないかと思うのだが、どうか?」
王はクニヒコに言った。
「王位を譲るなどと・・今はまだお体が優れませぬゆえ気弱になられているのでしょう。元気になられれば以前のように、伊予を治めていただけるはず。」
クニヒコは答えた。
「九重の賢者と申したが・・・そなたはどう思う?」
王はカケルに尋ねた。カケルは、クニヒコやイクナヒコの顔を見た。そして言った。
「私は賢者と申すような者ではありません。・・ですが、私はここに参るまで、様々な王にお会いしました。臣下に操られ国を乱す王、我が身だけを考え民を苦しめる王も居りました。アナトでは、強き国造りをまだ若き王子に託して、王位を譲られた王も居られます。おそらく、国や民の為に為すべき事は王にしか判らぬ事でしょう。」
王は、目を閉じ、しばらく考えてから、カケルの言葉に応えるように言った。
「そうか・・・ならば、クニヒコ、そなたが、王となりこの国を治めてくれぬか。そなたになら、安心してまかせられる。」

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