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2-24 親子 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

24. 親子
「おやめください。王はその血筋で担うべきもの。私には出来ませぬ。・・おそらく、宇和一族も許さぬでしょう。それでは、国は大きく乱れます。」
「ならば、私が死ねばどうなる。王が居らぬとなれば更に乱れようというもの。」
王が自らの命の限りを悟ったかのように告げると、クニヒコは決意したように言った。
「王様、ここに控えて居るイクナヒコを覚えておいででしょうか?」
王は、顔を向け、イクナヒコを見た。一瞬、王の表情が強張った。そして、
「もしや・・」
王の言葉に、クニヒコは頷き、答えた。
「イクナヒコは、我が息子として育てて参りました。しかし、イクナヒコの母は、我が妹ハナでございます。」
「なんと・・確かに、目元辺り面影がある。・・そうか、ハナの息子か・・。」
「はい。ハナは、王様と我が里にて一度は契りを交わし、夫婦として添い遂げようと決めておりました。しかし・・乙姫様崩御の際、王の座を継がれる故に別れました。」
「私は、ハナを裏切ってしまった。そのことは今でも悔いておる。」
「いえ・・ハナも承知しておりました。この伊予を戦乱から守るには、宇和との縁を繋ぐ為、宇和の姫を迎えるのは止むを得なかったことでございます。」
「しかし・・結局、このような事に・・一体、私は何故、王になってしまったのか・・今でも後悔することばかりだ。」
王は、幼い頃から病弱であった為、気候の良い熱田津の長の許へ預けられて育った。そして、幼馴染であったクニヒコの妹ハナと夫婦の契りまで交わした。しかし、乙姫の突然の死去で、王位を継ぐ為、ハナと別れ、勝山へ来たのだった。王は、その頃の事を思い出し、涙した。
「ハナは、幸せなのか?」
王はクニヒコに訊いた。
「ハナは、五年ほど前、流行り病で命を落としました。しかし、イクナヒコを産み、育て、毎日幸せに過ごしておりました。」
「そうか・・・そうか・・・。」
「王様、イクナヒコは、王様の御子でございます。王様が勝山へ行かれる時、すでにハナは身篭っておりました。」
「そ・・そんな・・私は何も知らされてはおらぬぞ?・・どうして?」
「はい。私が禁じました。敢えてお知らせしませんでした。・・・宇和の姫との間に、御子が出来れば、イクナヒコの存在は障りになると考えました。・・イクナヒコも、知らずに育ちました。ハナが亡くなった時、初めて教えたのです。」
「では、イクナヒコは我が子・・王子なのだな?・・我が息子なのだな。」
「はい。王の御子でございます。」
王は、イクナヒコをじっと見つめ、手を取り強く握った。
「イクナヒコよ。この伊予を守る為、王位を継いでくれぬか?」
王の脇に跪くイクナヒコは、真っ直ぐに王を見つめて答えた。
「それが私のさだめであれば・・王の御意志に従いましょう。しかし、一つお願いがございます。」
「なんじゃ?」
「父クニヒコ様は、王位とは血筋で担うものと申しました。私は、これまで熱田津で育ち、王の何たるかも知らずにおります。このまま、王になってはならぬと思っております。一つ、仕事を果たしてから、王の資格を担える力があるか、ご判断いただきたいのです。いや、そうでなくては、民もきっと私には従いません。」
イクナヒコは、クニヒコの傍で育ち、自分自身に厳しいクニヒコの姿を見てきた。だからこそ、更なる試練を求める、厳しい生き方を望んだのだった。
「そうか・・・判った。だが、どんな仕事を命ずればよいのか・・。」
王は、クニヒコの顔を見た。クニヒコはじっとイクナヒコを見て言った。
「イクナヒコよ。お前は、どう考えるのじゃ?」
イクナヒコは、王とクニヒコを真っ直ぐに見て言った。
「今、伊予の一番の憂いは、宇和一族。私が王になるとしても、宇和一族との縁を作る事が大事。私に、宇和一族との和解を取り付ける仕事をさせてください。」
王もクニヒコも驚いた。先々代の王から常に心を砕き、力を注いできたが、なかなか運ばぬ事である。最も困難な仕事であった。
「それは・・王位を継ぎ、その威光をもって臨むべき事ではないのか?」
クニヒコはイクナヒコに考え直すように言った。
「いえ、それでは戦になりかねません。私が王の使者として宇和へ参り、和解を取り付ける事こそ大事であると思っています。勝山に参る道中、カケル様から九重やアナトの国での話をお聞きしました。戦は何も産まぬ事、愚かな争いより心をあわせ伴に生きる道を探す事こそ、民を守る王の仕事であると確信しました。どうか、お願いいたします。私を使者として宇和へ行かせて下さい。」
王は、真っ直ぐなイクナヒコの思いを受け止めた。
「よかろう。我が伊予の王の使者として、宇和へ行き、和平を取り付けるのだ。」
王命が下った。
「だが、イクナヒコよ。お前一人ではそれだけの仕事は成し遂げるのは難しいぞ。」
「はい。重々承知しております。そこで、カケル様、是非私に、貴方の力をお貸し下さい。お願いいたします。」
イクナヒコがカケルに向かって頭を下げる。王もクニヒコもカケルの顔を見た。

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