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2-11 モリヒコとカケル [アスカケ第5部大和へ]

11. モリヒコとカケル
イコマノミコトは、里の若衆たちと相談していた。
「豪族たちに従っていない里を回り、我らに合力してくれる者を集めねばならない。」
「那智一族や伊勢一族が動き始めるのは、おそらく春になるだろう。それまでに、大和の里を回り、説得しよう。」
「くれぐれも、豪族たちには漏れぬようにせねばならぬな。」
皆の意思は固まった。山猟師に扮し、大和を囲む山を伝い、里の様子を探ることにした。

広瀬の里では、カケルとモリヒコが介抱されていた。カケルもモリヒコも、驚くべき速さで回復していた。数日で、傷はすっかり消え動けるようになった。
広瀬の里は、小高い丘にあり周囲には大木が立ち並んでいて、周囲からは、そこに里がある事すら容易にはわからない。丘の頂上には、物見台も作られていて、物見台の周囲には家屋が建っていた。カケルとモリヒコには、長の住まいの隣の小屋があてがわれていた。
運ばれてきた食事を取りながら、カケルは、モリヒコに言った。
「手間をかけさせてしまったな・・・済まぬ。」
「いえ・・・忍海部一族の長から、カケル様をお助けするよう命じられておりますゆえ、我が命に代えてもお救いせねばと・・ですが、不甲斐なくも、沼地で力尽きてしまい・・。」
「いや、良いのだ。・・しかし、あれだけの兵の中をどうやって私のところへ来れたのか・・。」
カケルの問いに、モリヒコは意を決したように言った。
「カケル様。以前、山中にて私とハルヒが崖を落ちた時、獣になられました。」
「ああ・・・。」
「実は・・私にも、同じ力があるのです。・・・幼き頃、掟を破り、友とともに山深く分け入り、そこで、山犬に襲われ、瀕死の大怪我をしました。一命は取り留めたものの、しばらくすると、自らも山犬のごとき姿に変わるようになりました。巫女様は、きっと、山の神の戒めであろうと申されました。」
「里の者達は、その姿を怖れたのではないか?」
「はい・・・ですから、私は皆と離れ、里と山との境に小屋を設え、一人で暮らしておりました。・・此度、カケル様が我が里の窮地をお救い下さり、何か恩返しをせねばと長から聞き、こんな恐ろしき力でも、何かのお役に立てるのではないかと思い、長に願い出た次第です。」
カケルはモリヒコの話をじっと聞いていた。
モリヒコも自らの生きる意味を問うために悩み、辛い日々を過ごしてきたはずだと、カケルは考えていた。
「戒めかどうかは判らぬが・・・その力を誤った事に使ってはならぬ。私も、自らを制している。弓矢や剣と同様、使う時を選び、人の道に外れる事になれば、それはまさしく獣。獣にならぬよう、互いに手を携えてまいろう。」
モリヒコは、痛いほどの孤独さを感じ生きてきただけに、同じ境遇のカケルの言葉に、何か、生きていくことを許されたように、未来が開けるのを感じていた。
数日後には、以前と同様に動けるようになり、広瀬の里の若衆とともに、物見台に登り周囲の様子を探ったり、里を囲む森の中から外の様子を探る手伝いを始めた。
當麻の隠れ里へ戻る事も考えたが、周囲には円の兵も多数居り、しばらくは、里を守る手伝いをすることにしたのだった。
「円の兵を追い払う策はないでしょうか?」
モリヒコが、森の中から外の様子を伺いながら、若衆に聞いた。
「策があるならとっくにやっている。・・何しろ、あいつらの大将が恐ろしい奴なのだ。カヤツヒコというらしい。一際大きな図体で、大弓を自在に操る。それと、取り巻きの大男たちも同様。」
「それほどに強いのですか?」
「ああ、一時は、円一族を凌ぐ兵を持っていた平群一族の里へ、ほんの数人で攻め込み、あっという間に制圧したのだ。もはや、平群一族は見る影もない。みな、どこかへ隠れ潜んでいる。・・あの将を倒さねば・・だが・・我らの力ではどうにもならぬのだ。」
悔しそうに若衆は言った。
「おそらく、私に矢を射たのは、その将でしょう。大弓から鋼の矢を放つほどの怪力でした。」
カケルも思い出すように言い、更に付け加えた。
「だが・・・むしろ、その将さえ倒せば、円の兵は怖れる事は無いという事でしょう。」
カケルの言葉に、若衆は驚いた。
「確かに、そうだが・・・あいつを倒すのは到底無理な事さ。」
「カヤツヒコか・・・円一族には他にもそのような者がいるのではないか?」
モリヒコが訊ねる。
「さあ・・・だが、噂では、もともとカヤツヒコは円一族ではなかったようだ。どこからか、流れてきたらしい。東国か、北国か、定かではないが・・突然現れて、平群一族との戦で名を上げたらしい。」

その夜、カケルとモリヒコは、小屋に戻ってから昼間聞いた話を思い出しながら相談した。
「カケル様。我ら二人が、獣に姿を変え、一気に襲えば奴に勝てるのではないでしょうか?」
カケルも同様の事を考えていた。しかし、カケルは、自分の意思で自在に獣人に化身することが出来なかった。化身できなければ、容易に倒せる相手とは思えなかった。
「今しばらく、考えてみよう。」

2-11遠吠え.jpg
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