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2-12 襲撃 [アスカケ第5部大和へ]

12. 襲撃
気付かぬうちに、冬の寒さが身に沁みる季節になった。
円の兵は、葛城の里へ陣を引き、時折、見回りに出る程度で随分と大人しくなっていた。
カケルとモリヒコは、引き続き、広瀬の里に留まり、カヤツヒコを倒す策を考えながら、里の仕事も手伝っていた。

その日は、朝から、物見櫓の縄梯子の修理をしていた。
昔、父から教わった縄作りの技は、広瀬の里の者も、随分と珍しく感じたのか、若衆達はこぞってカケルから教わっていた。モリヒコは、数人の若衆と森の中へ入り、薪取りをしていた。里には、穏やかな時が流れていた。
「きゃあーー」
娘の悲鳴が里の中に響き渡った。若衆たちも驚いて、剣や弓を手に声のした方へ走った。
里のはずれの畑の方だった。若衆達が駆けつけると、そこには円の兵たちが数人居た。
カケルとモリヒコが着いた時には、すでに若衆達が兵を切り殺した後だった。
兵の亡骸を見て、モリヒコが言った。
「これほどの少数で里を襲うのは不可解ですね。それに、この兵たちは甲冑さえつけていない。本気で里を襲うつもりだったのでしょうか?」
カケルが答えるように言った。
「・・おそらく、本体が近くまで来ているに違いない。様子を見るために忍び込んだのだろう。すぐに、里の守りを固めなければいけない。」
若衆達はすぐに長のもとへ行き、カケルの言葉を伝えた。
「長様は、里をお守り下さい。女やこどもを集め、決して外に出ぬように。それから、若衆にも里の周りの守りをさせてください。」

カケルとモリヒコは、弓の達者な若衆を引き連れて、里を出て森の中からその様子を探った。案の定、カヤツヒコが率いる兵の一軍が、葦の原をまっすぐ里へ向かって進んでいた。
「里に入れてはいけない。何とか、葦の原で奴らを追い返さねば。」
カケルは、すぐさま、木に登り周囲の様子を探った。若衆達は、驚くべき速さで杉の大木を登って行くカケルを見上げていた。カケルは、するすると降りてくると、若衆に言った。
「半数は右手の高台へ、半数は左の土手へ潜み、兵達を挟み撃ちにする。私とモリヒコは、前の葦の原で、兵達をひきつける。ちょうど、目の前のあの楠木あたりにまで兵が来た時、一斉に矢を放つのだ。・・・我らの事など構わず、一心に矢を射るのです。良いですね。」
若衆達は、お互い顔を見合わせ、覚悟を決めて頷いた。
「モリヒコ、行くぞ。・・なんとしても、奴らを倒さねばならぬ。救ってもらった恩返しだ。」
モリヒコも頷き、カケルとともに、風のように一気に森を駆け抜け、葦の原に身を隠した。

カヤツヒコはゆっくりと兵を進めて来た。カヤツヒコの両脇には大男が、剣と大弓を携えて、周囲の様子を見ながら進んでくる。その周囲には、軽装の兵が剣を持ち歩いてくる。
「あの森の中に里があるのだな?」
カヤツヒコは、すぐ脇にいた兵に訊く。その兵は、先ほど切り殺された兵とともに里の様子を探る為に忍び込んだ男だった。
「はい・・杉の大木で見えませんが、中には大きな里がありました。畑もありましたから、きっとたくさん食べ物を蓄えているはずです。」
「そうか・・」
カヤツヒコはにやりとして、視線を目の前の森へ向けた。
兵の一軍が、カケルの示した楠木あたりに近づいた時だった。カケルは、弓を構え、空に向けて高く放った。放たれた矢は、ヒューンという甲高い音を上げた。そして、兵達の後ろにドスンという鈍い音を立てて突き刺さった。一軍の後方にいた兵たちが驚き、騒ぎ始めた。
カケルはすぐに、葦の原に埋もれるように低く身体を屈めて、兵達の右手に走った。そしてまた甲高い音を立てて矢を空に放った。次の矢は、カヤツヒコのすぐ脇にいた大男に突き刺さった。
「うわあー!!」
身の丈ほどある大剣を肩に乗せて、ふんぞり返って歩いていた大男は、カケルの矢に射抜かれ、バタンとその場に倒れ込んだ。それを見て、カヤツヒコの周りにいた兵達も動揺し。きょろきょろと周囲を見て蹲った。
再び、ヒューンと甲高い音が響くと、兵たちは空を見上げる。しかし、次の矢は、カケルが真っ直ぐ、カヤツヒコの脇にいた大男を狙ったものだった。
ゴツっという音は聞こえると、大男は首から血飛沫を上げて、倒れ込んだ。
「そこだ!そこにいるぞ!」
兵の一人が、カケルの姿を見つけて指差した。
「生意気な!」
残った大男が、大弓を取り出し、カケルを狙う。
カケルは、葦の原から姿を現し、右や左に飛び跳ねるようにしてかく乱する。そして、大きく跳躍すると、楠木に登った。
「ふん!」
大男は、大きな鼻息を吐くと、大弓から鋼の矢を放った。
矢はバンという大きな音を立てて楠木に命中した。
すると、楠木の太い幹が中央部からめりめりと音を立てて楠木が倒れはじめた。カケルは、木とともに地面に放り出された。そして、その上に太い楠木が倒れこんできて、カケルは楠木の下敷きになったのだった。それを見て、小兵達が一気に襲い掛かる。

2-12クスノキ.jpg
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