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2-13 化身 [アスカケ第5部大和へ]

13. 化身
「いけない!」
モリヒコはそう小さく叫ぶと、短剣を抜き、素手で握る。痛みが走ると体がぶるぶると震えだし、白狼に化身した。
「ウオーン」
一つ吼えてから、一気に高く飛び上がり、カケルへ襲い掛かる小兵たちの前に立ちはだかった。
「白狼だ!白狼がでたぞ!」
小兵達は、剣や弓を構える。
「グルルル・・グル・・」
白狼は、小兵たちを睨みつけ、再び、一つ吼えると再び高く飛び上がり、近くに居た小兵に襲い掛かる。腕に噛み付き食いちぎる。そして次の小兵にも襲い掛かり、首を食いちぎる。真っ白な体が見る間に真っ赤な血に染まっていく。
「この・・化け物が!」
カヤツヒコは、忌々しい表情を浮かべ、脇にいた兵から弓を取り上げ、構えた。
ビュンと云う音ともに、矢は真っ直ぐに白狼へ向かって飛んだ。
「ギャン」
悲鳴のような声をあげ、白狼は転がった。矢が、後ろ足の太腿を貫通したのだった。
その時、カケルは倒れた楠木からようやく脱出したところだった。
「うおーーーー。」
カケルは剣を抜いた。剣からは鈍い光が放たれ、カケルの身を覆った。すると、カケルの身体がもりもりと大きくなる。黒髪が伸び、青く見える。
カケルが大きく剣を振ると、周囲にいた兵達は皆、ことごとく倒れ込んだ。それを見て、小兵どもは一気に逃げはじめる。すると、左右に分かれて潜んでいた若衆達が、一心に矢を放ち始めた。
小兵達は抗う事も無く、雨のように降ってくる矢に射抜かれて倒れた。

葦の原には、カヤツヒコと伴をしている大男が二人残っていた。
カケルはまっすぐカヤツヒコを睨んだ。
「・・化け物ばかりが住む里か?・・・」
カヤツヒコは、カケルを前にして、まだ余裕の笑みを浮かべていた。そして、脇にいた大男に、顎で合図すると、大男は、大剣を構えた。そして、その後ろから、カヤツヒコは弓を構える。
「三人を相手に勝てるかな?」
カヤツヒコは言う。
しばらく、カケルと大男、カヤツヒコの睨みあいとなった。

その頃、當麻の隠れ里にいる、アスカの首飾りが光り始めた。
「・・この光・・・きっと、カケル様が戦っておられる・・・。」
アスカは首飾りの光を見て、そう確信すると、首飾りを強く握り締めると空に向かって、祈った。當麻の隠れ里の中にも、首飾りから放たれた光が溢れる。隠れ里にいた者も、光に気付き、仕事の手を止め、アスカの周りに集まり始めた。
「何事だ?」
葛城王も、アスカのいる広場に現れた。様子を見ていたハルヒが言う。
「カケル様が、戦っておられるようなのです。あの首飾りはカケル様とつながっているようなのです。・・・」
里の者は誰とも無く、アスカの回りに座り込むと、天を仰いで、アスカと同じように祈り始めた。光は徐々に強くなり、空高くまで届くようになった。すると、晴天だった空に、黒雲が湧き、強い風が吹き始めたではないか。ごろごろと雷鳴まで轟くようになった。

にらみ合いを続けていたカケル達の辺りも、昼間だと云うのに一気に薄暗くなり、葦の原を強き風が吹きぬけた。徐々に徐々に風は強くなる。そして、雷鳴とともに稲光も始まった。さらに、横殴りの強い雨が降り始める。沼の水は見る見るうちに溢れはじめ、足元は泥濘、泥水が溜まり始めていた。
すでに、モリヒコは化身がとけていた。
足を貫いた矢を引き抜き、足を引きずりながらも立ち上がると、にらみ合ったままのカケルの様子を察知して、脇にあった弓を取り、矢を構えた。
「大丈夫か?」
カケルはカヤツヒコと睨みあったまま、モリヒコに声を掛けた。
「大した傷ではありません。やれます。」
「よし・・・」
カケルは、低く身を屈めると一気に高く跳びあがった。同時に、カヤツヒコが矢を放つ。その矢をカケルはさっとかわして、大男の横に付き、一振りの剣で首を刎ねた。
立ちはだかっていたもう一人の大男は、モリヒコの放った矢に射抜かれて倒れた。
そして、一人となったカヤツヒコは、大剣を抜きカケルに襲い掛かる。ガンガンと何度か、剣どうしがぶつかる鈍い音がした。
そして、カケルが一度大きく後ろへ飛び跳ねた拍子に、足を取られて転んでしまった。
そこへ、カヤツヒコが斬りかかろうとした時、左右の高台に潜んでいた若衆が一斉に矢を放った。カヤツヒコの身体は、若衆たちの放った多数の矢に射抜かれた。
ハリネズミのごとき姿になったカヤツヒコは、立ったまま往生していた。

2-13稲妻2.jpg
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