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2-14 春の訪れ [アスカケ第5部大和へ]

14. 春の訪れ
広瀬の里の民が、カヤツヒコが率いる円の軍を倒した話は、一気に大和の里に広がった。
それまで息を殺すように生きていた里の民達が、あちこちで、豪族の兵に抗うようになった。
大和の西側の、円一族や平群一族が治めてきた地では、権勢を誇った豪族一党は蜘蛛の子を散らすように離散し、それぞれの里の長が治めるところとなっていった。
春を向かえ、葛城王は、當麻の隠れ里を出て、葛城の里へ戻り、里を立て直し始めた。
平穏を取り戻した葛城の里へ、広瀬の里から、カケルとモリヒコが戻ってきた。
建て直された、葛城の王宮の広間で、葛城王とアスカ、そしてシシトやイコマノミコトたちが、カケル達を出迎えた。
カケルとモリヒコは、玉座に座る葛城の王の前に傅いて、挨拶をした。
「大和の平和をもたらした勇者よ。礼を申す。」
威厳に満ちた葛城王の言葉に、カケルもモリヒコも深く頭を垂れた。
「さあ、顔を上げよ。勇者の面構えをしっかり見せるが良い。」
葛城王の言葉に、二人はゆっくりと顔を上げた。
「真っ直ぐな眼をしておる。そなた達こそが、これからの倭国を率いていくに違いない。」
アスカは、葛城王の玉座の隣に立ち、二人の姿を見て微笑んだ。
「我らはただ、里の民を守る為、働いただけ。これよりのち、葛城王に仕え、大和の、倭国の安寧のために尽力してまいります。」
カケルはそういうと再び深く頭を下げた。モリヒコもカケル同様に深く頭を下げた。
「そなたらがいれば、私も心強い。まあ、しばらくはゆっくり休むが良かろう。」
葛城王はそう言うと玉座から立ち上がろうとした。
「王君様、今しばらく、お待ち下さい。」
カケルが一歩前に進み出て言った。カケルは、アスカとの約束を忘れてはいなかった。
「私は、アスカ様と九重の地から大和まで参りました。それは、アスカ様の生まれた里を見つけるという約束を果たす為でした。途中、熊毛の地で、母様の事を知り、そして、この大和の地にアスカ様の父様がおいでになる事が判りました。」
「うむ・・アスカからそなたが居らねばここまで来れなかったと聞いておる。改めて礼を申す。」
カケルは顔を上げて言った。
「葛城王様、私とアスカ様との夫婦の契りをお許し下さい。」
葛城王はしばらく考えた後、隣に立っているアスカを見た。
アスカは、カケルの言葉に、ぽろぽろと涙を零していた。ヒムカの国からともに旅をし、すでに十年近い歳月が流れていた。九重を出る時、カケルが言った約束がいよいよ果たされる時が来たのだ。この時をじっと待っていた。
葛城王は、アスカの涙の深さを心に刻むように、ひとつ息を吸い込んでからゆっくりと言った。
「もはや、許すも許さぬもなかろう。アスカの涙が全てだ。・・・だが、一つだけ訊ねたい。」
カケルは真っ直ぐに葛城王の顔を見た。
「アスカは、我が皇女である。アスカと夫婦になるということは、そなたが、王位を継ぐということになるが・・。その覚悟は出来て居るか?」
カケルは、同じ事を難波津の摂津比古からも問われた事があった。
その時は漠然とそうしたものなのかと感じた程度だったが、今、葛城王を前にすると、その重みがひしひしと伝わってくるのだった。
カケルは、アスカを見た。アスカはゆっくりと頷いた。カケルは再び王を見て言った。
「私が王位を継ぐに相応しい者かどうか、それは民が定めるもの。これまでも私は私の為すべき事を探して参りました。民が望むのであれば、何も怖れる事もありません。」
「そうか・・・民が王を定めるか・・・そなたの言うとおりだ。よし、アスカと夫婦となる事を認め、そなたを我が王位を継ぐ者と宣言しよう。・・・それで良いな、アスカ。」
葛城王は、そう言うとアスカを見た。アスカは、とめどなく流れる涙でくしゃくしゃの顔をしたまま、カケルに走り寄り、抱きついた。葛城王だけでなく、周囲にいた者は皆目を細め、二人の姿を見つめた。辺りは喜びに包まれていた。
その様子に、カケルの後ろに、じっと控えていたモリヒコが突然、ハルヒに駆け寄った。
ハルヒは、どぎまぎしながらモリヒコを見つめた。
「どうしたの?」
モリヒコは紅潮した表情でハルヒの手を握った。
「私の妻になってもらえぬか?」
搾り出すようにモリヒコは言う。周囲にいた者は、「おおっ」と、どよめいた。
「ハルヒとは、難波津で会ってから日が浅い。カケル様たちのように長くともにいたわけではないが・・・広瀬の里で毎日のようにそなたを思い出していた。一刻も早くそなたに会いたいと願って居った。・・私も、この先、王君様やカケル様のお傍で働きたい。・・そして、そなたとともに生きたいのだ。・・」
モリヒコの握った手が痛かった。
周囲の者は、ハルヒがどう答えるのか固唾を呑んで見守った。ハルヒの顔は真っ赤になった。
「私も・・・ずっと・・心配しておりました・・もう会えぬのではないかと・・・。」
ハルヒは、それ以上は言葉が出なかった。
そして、ハルヒはモリヒコの胸に縋りついて泣いた。
モリヒコは強くハルヒを抱きしめた。

「若き二組の夫婦の誕生だ。今宵は、宴としましょう。」
イコマノミコトが叫んだ。

2-14神宮.jpg
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