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2-15 大和の王 [アスカケ第5部大和へ]

15. 大和の王
 初夏のある日、那智一族の許へ向かった使者が、ようやく戻ってきた。
「遅くなりました・・・那智一族は葛城王への援軍を快く受けてくれました。すぐにも先陣が到着する手筈になっております。」
使者の報告を受けた、イコマノミコトが訊いた。
「伊勢の一族は如何に?」
使者は顔を曇らせて答えた。
「那智一族の合意の後、すぐにも伊勢へ向かいましたが・・東国の者たちは動けぬと口を揃えて申しておりました。」
「何故じゃ?」
シシトも不思議な顔をして聞いた。
「・・それが・・・秋には新しき王が即位されるとのお触れが回っておるようです。・・その王は、磯城宮の皇子との事・・・すでに支度も整っておる由・・・葛城王に味方する事はできぬと申しておりました。」
それを聞いていた葛城王は、ため息をつき言った。
「何とした事か・・・物部一族が動いたのであろうな。・・・王族の掟など解せずということか・・もはや、王族など不要とばかりの仕儀じゃ・・。」
「一体、どういう事なのです?王族の掟とはなんですか?」
カケルが葛城王に問う。
葛城王は、カケルの顔を見たあと、集まった者たちも同様の表情を浮かべているのに気づいた。
「・・・それには・・我が王族・・いや、この大和の王が生まれた経緯を知らねばなるまい。・・ちょうど良い機会じゃ・・我が祖の話を聞かせよう。」
葛城王はそう言うと、玉座に座り、集まった者たちを見渡した後、ゆっくりと話は始めた。

遥か昔・・大和の地の南、葛城山の麓に、猟をし、木の実を集めるささやかな暮らしをしていた一族があった。
そこへある日、峠を越えて十人ほどの若者が現れた。皆、見慣れぬ服装をし、里の者とは違う言葉を話した。峠を越えてきたからか、長く旅をしてきたからか、皆、疲れ切っており、中には重き病や怪我をしている者もあった。
葛城の里の者たちは、異様な者たちを怖れもせず、大切に介抱した。
やがて、その若者達は元気になると、里の外れに田を開き、米を作ったのだった。そして、様々な道具も作りはじめた。数年のうちに、里には米が余るほどに収穫できるようになると、囲の里も、葛城の里の様子を聞き、米作りを教わるためにやってくるようになり、わずか十年ほどで、大和の多くの里が米作りをはじめ、豊かな地へと変わったのだった。
こうして、葛城の差とは周囲の里から敬われ、その長は、大和の王と呼ばれるようになる。
王は、峠を越えてきた若者たちを重用した。
若者たちは、衛士(えじ)と呼ばれ、東国や北国へも王の名代として遣いに発ち、いよいよ倭国の王の座を固めていったのだった。
「その若者達とは何者だったのですか?」
王の話に、カケルが聞いた。
「・・言い伝えでは、海を越えてきたという。米作りだけでなく、石を削り組み上げる技や、鋼を作り出す技もあったという。・・そして、何か、文様を残すものさえもあったという。・・おそらく、韓より参った者ではなかろうか・・。」
王の説明に、カケルは、ナレの村の言い伝えを思い出していた。そして、モリヒコの里で巫女から聞いた話も思い出していたのだった。
いよいよ、倭国の王の座が見えてきた時、大和の王は不安になっていた。長には三人の男の子が居た。いずれも、長としての力を備えるほどの器ではなかった。自らが逝ったあとを憂いた王は、渡来した者に相談した。
その者たちは、海の向こうでも、王の座を廻り、兄弟が争い、殺し合いとなって滅んだ国は多い、自分達が海を越えて逃げてきたのも、そうした戦乱から逃れるためだと言った。
如何にすれば争いが起きぬようになるかと王が問うと、「神器」を作るのが良いと答えた。
神器とは、王の座を継ぐ資格を持つ事を示すもの、そして、兄弟に一つずつ持たせ、王が倒れた時、三つの神器を持ち寄り、よくよく相談して、次なる王を定めるという掟を作ったのだった。
以来、王族は常に三つの宮に別れ、王が倒れた時には、神器を持ち寄り、一番年長にある者が次なる王になるという定めを作ったのだった。大和の王は、その後は、争いもなく次なる王が定まり、さらに豊かになっていった。最初の王の教えから、渡来の者、峠を越えてくる者を重用し、新たな技・術を得て、ますます栄えた。そうしていつしか、王を凌ぐほどの財を持つ者も現れ、いつしか、三つの宮を守る一族が豪族と呼ばれるようになり、王の座を廻り、王族の掟を無視して、力の強き者が支配するような形に歪めてしまった。
此度も、先の王が倒れた時、その掟に従わず、平群一族が武力を持って次なる王を立てようとし、円一族と争いが起こったのだった。

「最初の王を支えた渡来の人たちはその後どうなったのですか?」
カケルの問いに、葛城王は顔をゆがめて言った。
「東国の一族からのつまらぬ讒言に、次の王が惑わされ、その者たちを大和から追い出してしまったのだ。・・伝承によれば、その者たちは中津国へ逃れたと聞くが・・・。」

2-15国造り.jpg
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