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2-16 神器 [アスカケ第5部大和へ]

16. 神器
「豪族達の欲が招いた事だ。強き王が国を治める、その道理を見失ったが為に・・このようなことになったのじゃ。」
王の話を訊いていたシシトが呟いた。そして、続けた。
「磯城宮の皇子とは一体どのようなお方なのか。磯城宮は、皇女ばかりだったはずだが・・。」
遣いに立ったものが答えた。
「伊勢一族の話では、后の里、美濃に幼き頃に預けられた皇子があったとのことです。」
「何と不可解な事を・・・皇子があるなら宮に置いておくべきであろう。おそらく、物部一族が、何処から連れてきた、あやしき者であろう。もはや、王とは名ばかりのものにしか考えておらぬようだな。」
シシトは、悔しそうに言った。
「王を名乗る以上、神器を持っておるのであろう。・・それを示し、倭国の王と名乗るならば、致しかたない・・・。」
葛城王も同じように空しい表情を浮かべて言う。
「その神器は今どこにあるのですか?」
モリヒコが訊く。
「我が葛城宮には、神器の一つ、鏡がある。・・そして、おそらく、磯城宮は、神剣を持っているはずなのだ。・・」
「もう一つは?」
「もう一つは、勾玉である。先代の王が持っていたはずだが・・平群一族と円一族との争いが起きて以来、后がいずれかに隠したはずなのだが・・・判らぬのだ。・・・」
しばらく、その場は沈黙に包まれた。
沈黙を打ち破るようにカケルが言う。
「物部氏が磯城王を担ぎだし、倭国の王を名乗るということは、ここ、葛城の宮は目障りな存在になります。おそらく、王位宣言の前に、ここを襲うのではないでしょうか?」
シシトが答える。
「・・物部氏は東国にお触れを出したのも、きっとその為でしょう。強大な兵を抱えていますが、東国が反旗を翻せば、物部とて安気ではいられぬはず。東国を従えた事で、一気にこの地へ攻め入るでしょうな。」
「物部の兵はそれほどに強大なのですか?」
モリヒコガ尋ねる。
「物部一族だけならまだしも、おそらく、曽我一族や美濃一族も加勢するはず。そうなれば、とても太刀打ちできぬでしょう。」
シシトが首を振りながら答えた。
「葛城王様!」
カケルが、王の前に傅き、首を垂れて進言した。
「ここは、一旦、難波高津へ逃れられる事が大事かと・・・このまま、ここで戦をし、負ければ事実上、磯城王を倭国の王と認める事になります。ここは、神器を携え、難波高津へお逃げください。」
カケルの進言に、シシト以下驚きを隠せなかった。だが、冷静に考えてみても、それが一番だと思えた。シシトやイコマノミコトも、「是非にも」と進言に加わった。
王は、皆の顔を見渡してから言った。
「しかし・・・この葛城の里だけでなく、広瀬の里、當麻の里はどうなる?磯城王の下で、一層厳しい仕打ちを受ける事になるのではないか?・・それを放り出す事などできぬ。」
「われらは今までも、戦の中で生きてまいりました。さほど変わるものではありません。」
シシトが言う。続いて、イコマノミコトが言った。
「表向きは、磯城王に従った事にすれば良いのです。・・物部の兵が攻めてきた時、葛城王をこの地から追い出したのだと言い切るのです。その証を求められれば、我が命差し出しましょう。葛城王の守人を差し出せば、物部一族とてさほど無体な事はできぬでしょう。」
イコマノミコトの進言を聞き、カケルが言った。
「それはいけません。イコマノミコト様は、この後も、葛城王のお傍においでください。それよりも、我が身を物部一族に差し出してください。・・葛城王の皇女の夫である、私を差し出す事は、次なる王位争う者を差し出す事であり、おそらく、物部一族も納得するでしょう。」
「それこそ、何のための難波行きか判らぬではないか!」
葛城王は、カケルの進言に怒りを隠せなかった。
「私に考えがあります。いずれ、物部一族は、葛城王と戦をせねばならぬはず。その時には、私を人質にしたほうが良いと考えるに違いありません。そう容易く命を奪ったりせぬでしょう。」
カケルは、葛城王だけでなく、アスカにも判るように話した。
「敵の中に身を置けば、敵の弱みもわかるでしょう。いざ、戦となった時、きっと役に立てるはずです。」
アスカは、カケルの考えが良くわかった。だが、命の危険が無いわけではない。不安が高まり、その場に居られず、顔を伏せて、広間から奥の部屋へ走って出て行ってしまった。
「我らも、カケル様をお守りいたしますゆえ・・王様には一刻も早く峠を越えられるようお願いいたします。」
シシトはカケルの覚悟を受け入れて、葛城王に進言した。
「判った・・・アスカは私が説得しよう。すぐに出発の支度じゃ。」

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