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2-18 難波津宮 [アスカケ第5部大和へ]

18. 難波津の宮
 物部の軍が到着する前に、峠を越えた葛城王一行は、三日の後に、難波津へ到着した。
難波津では、王の到着を聞き、摂津比古たちが、堀江の庄で、王を迎えた。
水路作りを始めた場所には、西の難波津の港を越えるほどの大きな里が出来ていて、堀江の庄と呼ばれていた。水路はほぼ完成し、水門を開くだけとなっていた。工事を仕切ってきたソラヒコは、堀江の庄の長となり、摂津比古を支える大きな存在となっていた。ソラヒコは、カケルの帰還を待っていた。水路の完成をカケルとともに喜びたいと、心待ちにしていたのだった。
葛城王一行は、堀江の庄の大屋根に入り、摂津比古たちと対面した。
「遠路、お疲れでしょう。」
摂津比古の出迎えの言葉に、葛城王は笑顔で答えた。
「そなたが遣わしてくれたカケルが我が命を救ってくれたのだ。礼を申す。」
そして、アスカが、大和での経緯を皆に話して聞かせた。
一通り聞いた後、摂津比古が訊く。
「葛城王様、この後、如何されますか?」
葛城王は強い決意とともに。きっぱりと言った。
「物部一族の思い通りにはさせぬ。いつか、大和の地を・・いや、倭国の王として正しき世を取り戻さねば成らぬ。」
それを聞いて、摂津比古は進言した。
「葛城王様。すでに、西国は一つにまとまっております。すべては、カケル様のお力。そのカケル様が囚われ身と聞けば、西国すべてが、ともに戦う事を誓うでしょう。」
それを聞いたアスカも言った。
「西国だけではありませぬ。伊予国も、そして、九重の邪馬台国も我らに味方するはずです。」
それを聞いて、改めて、葛城王はカケルの大きさを知らされた。
葛城王に同行し、難波津に入ったイコマノミコトが言う。
「ならば、戦を仕掛けるのですか?」
摂津比古は、それに答えて、
「いや、戦を仕掛けるのは我らではない。いずれ、物部一族が軍を率いてここへ来るはずだ。それよりも、今為すべきは、葛城王こそ、倭国の王であると宣下する事。西国のみならず、中津国や北国、そして、東国にも知らしめることであろう。そして、都をこの難波津に定めるとしては如何でしょう。」
「難波津を都と定めるか・・・だが、皇祖より、倭国の都は大和の地であったのだ。そんな事が許されるであろうか?」
葛城王は摂津比古の進言に戸惑っていた。
「いえ、ここを都と定めるは一時の事。悪しき物部一族により、王が大和から追放されたとなれば、悪しき者が磯城宮であると示せまする。」
「時はない。すでに磯城王の即位の知らせは、東国に伝わっておる。」
摂津比古は、すぐに、難波角港にいる西国の船に全てを知らせた。港の船はすぐに西国の里へ向けて出発したのだった。中津国や北国へ向けての遣いは、山背の国を頼る事にした。予てから懇意にし、草香江の水害にともに苦労をしてきた国である。
「山背の国への遣い、私が引き受けましょう。」
名乗り出たのは、イコマノミコトであった。もともと、生駒の里の生まれゆえに、イコマノミコトと名乗っていた。本当の名は、イズルといった。
「我が里へ戻り、山背、北国へ葛城王こそが大和の王君であると知らせましょう。その後に、中津国へ出向き、合力をお願いしてみましょう。」
すぐに、イコマノミコトは出立した。

こうして、西国を治める葛城王と、東国や北国を支配する磯城王、二つの王が生まれる事となったのである。

すぐに、難波津の里は、都と呼ぶにふさわしいように造営される事となった。水路作りを追えたソラヒコは、すぐに堀江の庄と難波津を繋ぐ大路を開いた。
「摂津比古様、水路の門を開きましょう。・・カケル様の帰還を待って完成させるつもりでしたが、都を作るには、草香江の水を抑えねばなりません。きっとカケル様もそうお考えのはずです。」
摂津比古は承諾した。
開門の儀式には、葛城王が立った。
王の力で、難波津が、いや、民の暮らしが大きく変わるはずである。ここにいる、葛城の王の力を広く知らしめる為の儀式でもあった。
葛城王が大きく斧を振り下ろし、水門の口を切る。
高く積まれた土嚢が、草香江に溜まった水の力に一気に崩される。ゴウーという音とともに、水路を越えるほどの水が流れ始める。水路作りに携わったずべての者が、水路の縁に立ち、水の流れを固唾を呑んで見守った。轟音は堀江の庄に響き渡る。どんどんどんどん流れていく。
流れの後ろを、葛城王、摂津比古、アスカ、ソラヒコを乗せた船が流れていく。皆、目の前を水が流れ、王が目の前を過ぎると、歓喜の声を上げた。
水の流れに乗った船がどんどん下っていく。そして、目の前に、大海が見えた。
「カケル様、完成しました・・・ようやく完成しました。・・・。」
ソラヒコは、あたりを構わず、声を上げて泣いた。
歓声を上げていた者に目にも喜びの涙が流れていた。

2-18水しぶき.jpg
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