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2-20 蘇我のカラコ [アスカケ第5部大和へ]

20. 蘇我のカラコ
その足音はゆっくりと階段を下りてきた。
薄暗い牢獄の通路を、松明を掲げてゆっくりと入ってくる。影がゆれている。
そして、ヒビキの牢を覗き込んで、ふんと笑ったような表情を見せた。そして、くるりと振り返ると、カケルの牢を覗き込んだ。
「何を企んでおる?」
声の主は、蘇我一族の長カラコであった。禿げ上がった額にしゃくれたあご、細い目をしていていかにも狡猾な男に見えた。
「何を企もうと、磯城王即位の後には、お前は生け贄とされる。・・お前など人質にせずとも、磯城王の軍がすぐにも難波津を攻め落とすだけ。・・愚かな事だ。」
それを聞いていた、ヒビキが怒鳴った。
「お主こそ、いつか、王族の怒りを買い、惨い死に方をするに違いない!」
その声にカラコはくるりと身を変え、ヒビキを見た。
「相変わらず、血の気の多い事よ。・・何かの役に立つだろうと、命だけは取らずにおいたものを・・そのような態度では、明日にも命を奪われようぞ!」
そう吐き捨てるように言うと、再び階段を登って行った。
「あれは?」
「ああ、あやつが蘇我のカラコじゃ。元は、先の皇君を支えておったのだが・・あの風貌と狡猾さを后様が嫌われて、皇君も次第に疎まれるようになったのだ。皇君がなくなられると、やつはすぐに物部に味方し、磯城王に取り入った。お陰で、蘇我一族は安泰なのだ。」
「さきほど、ヒビキ様は、円一族に追われ、蘇我一族を頼ったと仰せになりましたが・・・・」
「ああ・・わが里からすぐのところに、蘇我一族の里はあったゆえ・・。」
「そこまでは、円一族は迫らなかったのですか?」
「ああ・・不思議な事に、蘇我一族の里へ向かう時は、カヤツヒコも追ってはこなかったな。・・それが何か?」
「いえ、私は広瀬の里でカヤツヒコと戦いました。尋常ではない強さでした。多くの兵を失ってもまだ立ち向かってこようとしておりました。みすみす、目の前を逃げる敵を見過ごすなど、少し不思議で・・。」
「確かにそうだが・・・。蘇我一族も多くの兵を持っておる。一気に攻め入るほど愚かではなかったのではないか?」
カケルの頭の中には、どうにも不可解なものが残っていた。
「いずれにせよ。円一族との戦では、蘇我一族はまったく動かなかった。おそらく、物部のマサラに何か含められていたのであろう。結局、物部に従い、領地も財も安堵され得をしたのだからな。じゃが、磯城王の前では、物部の臣下のごとく扱われ、悔しい思いをして居るに違いない。強大な蘇我一族の長であるにも関わらず、哀れなものだ。」
カケルは、豪族達の争いの構図に今ひとつ何か隠れているような気がしていたが、本当のところは分からなかった。だが、すべてが、我が身の得だけしか考えていないことも判った。空しくてならなかった。
倭国の王を支える臣下が皆愚かな考えしか持たぬようでは、民はこれより先も辛い暮らしを強いられるだけだと思えてならなかった。こうした者達を一掃し、民が救われる世を作らねばならない、カケルは強く心に決めた。

カラコは、牢獄から引き上げると、宮の外れに設えた自らの屋敷に戻った。そこには、蘇我一族の将たちが集まっていた。
「カラコ様、我らはいつまでここに留まるのですか。」
控えていた将の一人が訊く。
「今しばらくじゃ。」
「しかし・・・。」
「まあ、ここまでは我らの計画通りに進んでおる。円も平群もすでに無いのだ。あと一息だ。ここで焦っては水の泡じゃ。」
控えていた将たちは、どうにか納得している様子だった。
「磯城王即位が終われば、マサラはおそらく葛城王を倒す為に兵を挙げる。戦が始まれば、機会はいくらでもある。今しばらく時を待つのじゃ。」
「しかし、里では皆いきり立っております。物部の臣下に成り下がったと、周囲の里の長どもも、我ら一族を見下すような振る舞いもしておりまする。」
チッとカラコは舌打ちした。
「ところで・・あの御方はいかがじゃ。息災にされておるか?」
先ほどの将が答えた。
「はい。宝来の里にてお過ごしいただいております。」
「磯城王の即位の話はもうご存知か?」
「いえ・・できるだけ、外の者と会わぬようにしておりますゆえ・・・もし、知られれば、激怒されるに違いありません。」
「そうか・・しかし、そのままにはできぬな。・・明日にも、顔を出してくるか。」
「それが宜しいでしょう。」
「例のものの在り処は、まだお話下さらぬのか?」
「はい・・・もしや、ご存じないのやも知れませぬ。」
「それでは、意味が無い。何としても聞きだし、我らの手にせねば。・・・北国の皇子はまだ着かぬのか?」
「もう出立し、数日でお着きになられるでしょう。」
「そうか・・・すぐにも、庵戸(いわと)の宮へお入りいただくぞ、抜かりなきようにな。」

2-20岩戸宮.jpg
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