SSブログ

2-21 マサラ挙兵 [アスカケ第5部大和へ]

21. マサラの挙兵
磯城王の即位式は近づいていた。
東国や北国の長達が、貢物とともに都に集まってきていた。物部のマサラは、玉座の隣に同じほど豪華な座を作らせ、広間で、各地の里の長を出迎えた。
まだ、幼き磯城王は、挨拶に訪れる長の言葉など理解できるはずもなく、ただ座り、じっとしている。長の言葉の後には、必ず、マサラが言う。
「遠路ご苦労であった。この後も大いに励むが良い。」
それは、まさに、王が発すべき言葉であった。
「マサラ様、一大事でございます。」
北国から来た長の一人が、挨拶の前に言った。
「如何したのだ?」
「はい、難波津におわす、葛城の王君が、倭国の王であると宣下されましてございます。すでに、即位式を行い、都を難波津に定めるとのことでございます。すでに西国は、葛城王を倭国の王と認め、都作りを始めたようです。・・磯城王の即位は如何なリましょうや。」
その言葉に、マサラの顔は見る見るうちに真っ赤になった。
すっくと立ち上がり、脇に置かれた剣を抜くと、難波津の動きを教えた男をその場で切り捨てた。
「きゃああーっ!」
広間に居た女人達が目の前の惨劇に悲鳴を上げる。続いて挨拶するために列を成していた東国の長たちも驚き、一斉に広間から逃げ出していた。
幼き磯城王も目の間に真っ赤な血しぶきを上げて倒れた長の怖ろしき表情に驚き、大声を上げて泣き始めた。すぐに、女人が磯城王を抱え、奥の部屋に入っていった。
「うううぬ。葛城王め、謀りおって・・・神妙に隠れておれば良いものを・・・こうなれば、難波津へ全ての兵を送り、一気に攻め滅ぼしてくれる。・・おい、大戦(おおいくさ)の支度じゃ!」
マサラの怒りは凄まじかった。その日のうちに、戦支度が始められた。

「先陣は私が務めましょう。」
戦支度の最中、マサラの子、イロヤが申し出た。
まだ若き将である。葛城の里を攻めた時、先陣を任されたが、戦は起きず、この時とばかり申し出た。戦の経験は浅かったが、マサラはたいそう可愛がり、「我が息子には戦の才がある」と臣下にも自慢するほどであった。実際には、ただ血気盛んで、少し弓の腕が立つ程度であったが、マサラの手前、臣下もただ認めるだけであった。

息子の申し出に、マサラは目を細めて喜んだ。
「良かろう。どうせ、難波津には大した兵など居らぬ。一気に攻め入れば、片の付く話じゃ。・・よし、我ら本隊は、大和川を船で下り、草香江の海から難波津に迫るゆえ、その方は、峠を越え、一気に攻め入るが良かろう。おそらく我らが到着する前に戦が終わるであろう。」
有り余る財力を武器に、東国や北国からも兵を集め、物部のマサラ率いる兵の数は、万を超えていると思われた。
翌日には、イロヤが百名ほどの兵を引き連れ、峠を越えて難波津へ向かった。
難波津攻めの人質として囚われているカケルは、そのまま、宮殿に残された。人質を連れて行くべきと進言する臣下もいたのだが、「葛城王の軍など駆け引きなしでも勝てる」とマサラは聞き入れず、そのままにされた。

蘇我のカラコは、物部が挙兵した事を庵戸宮で聞いた。
「終に動いたか!」
カラコは、僅かな手勢とともに、大和川を下る船に乗る寸前のマサラと面会した。
「我らも兵に加わりまする。」
カラコの申し出に、マサラは苦々しい表情で聞いた。
「遅いぞ!カラコ!もとはと言えば、お前の失態。カヤツヒコを円一族に送り込み、戦を起こしたにもかかわらず、葛城王を逃し、神器すら奪えず、此度も戦に遅れるとは・・よくも顔を出せたものよ。」
「申し訳ございません。・・今一度、我らに働く機会をお与え下さい。先陣を務め、難波津を攻め落としまする。」
「先陣は、わが子イロヤが務めておる。すでに、難波津へ向かったぞ。もう良い、わずかな手勢しか居らぬようじゃな。まあ良かろう、我らの後ろについて来い。役には立たぬだろうがの。」
マサラはそう言い、薄ら笑いを浮かべて、カラコを見下した。カラコはじっと下を向き、胸の中に湧き上がる怒りを抑えていた。
「さあ、出発じゃ!葛城王の首を取ったものには褒美を遣わそう!」
物部の兵を乗せた船は、大和川をゆっくりと下って行った。
カラコは、立ち上がると、大和川を下っていくマサラの船を見送りながら、にやりと笑った。

「マサラが兵を挙げ、難波津へ攻め入るようじゃ。万の兵じゃ、あれでは葛城王もすぐに倒れれるに違いない。」
マサラ挙兵の話は、牢の中のカケル達も知るところとなった。
「こんな所に居ては何もできぬ。ここから出なければ。」
カケルは焦っていた。
いよいよ難波津の大戦が始まろうとしていた。

大和川.jpg
nice!(7)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 7

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0