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3-3 決戦 [アスカケ第5部大和へ]

3.決戦
マサラの軍はようやく落ち着き、水路の対岸に半数ほどを置き、本隊は、やや南側の小高い丘の上に陣を張った。
「何じゃ、あの水路は・・濠のごとく、難波津を守っておるぞ。・・イロヤの軍は如何したのか?どこへ居るのじゃ。」
マサラは、高台から堀江の庄を眺めながら、どう攻めようかと思案していた。
「御館様、これをご覧下さりませ。」
水路近くにいた軍から、数名の兵が何かを抱えて本隊へ戻ってきた。
「我らの居る辺りは、焼け跡が広がっておりまして・・。」
兵が抱えてきたのは、半分焼け残った甲冑や旗のようであった。
「イロヤの軍のものだな・・・イロヤはどうした?」
しばらくして、更に兵が血相を変えて現れた。
「御館様・・・無念です・・・。」
兵はマサラの前に跪いた。その後ろには、数人に抱えられて、亡骸が一つ運ばれた。すでに息絶えたイロヤであった。首筋に矢が一つ刺さっている。手足は野犬にでも齧られたのか、あちこちに骨が現れていた。
「なんと言う事じゃ!おのれ、葛城王。我が息子の仇を取ってやらねば!・・すぐに、矢を放ち攻め立てよ!・・火矢を打て!あるだけの矢を射て、難波津にいる者共は皆殺しにせよ!」
マサラはすでに正気を失っている。剣を抜き高く掲げて号令を掛けた。戦の策など無かった。
兵たちは命じられるまま、矢を射た。しかし、広い水路に阻まれて、いかに強く矢を射たとしても、ほとんどは対岸に力なく届く程度であった。それでも、弓を置こうとすると、後ろからマサラが号令をかける。無駄と知りつつ、皆、手元にある矢を放ち、終に、矢は底を着いた。

マサラの軍が攻め始めた様子を知り、イコマノミコトが大伴一族の軍とともに背後に迫っていく。
マサラの本陣がある小高い丘の背後には、松原が広がっており、木々に隠れるように徐々に間合いを詰めていった。

矢が尽きた事を知った堀江の庄では、岸辺につけてあった船の中に潜んでいた男達が、一斉に立ち上がり、声を上げた。そして、隠していた矢を放ち始める。
「射抜かずとも良いぞ、高く高く放てばよい!」
男達の中には、伊予国の者達がいた。カケルが高く矢を放ち、威嚇する様子を思い出し、皆に声を掛けた。男達は、矢を天高く放った。
矢が尽き、呆然として岸辺にいたマサラの兵たちは、空から降ってくるように飛んでくる矢に驚いた。そして、もはや、抗う術も無くしており、我先にと本隊のある丘へ引き上げようと動き始めた。
「どうしたのだ?何故逃げてくるのだ!戦わぬか!」
マサラの号令など届かなかった。
そこへ、松原の方から一斉に火矢が放たれる。背後からの敵襲に、マサラのいる本陣も混乱を始めた。岸辺から戻ってくる兵の混乱だけでなく、本陣さえ、敵がどこにいるのかと右往左往し、逃げ戻る兵を敵とも見間違え、切り合うものさえ出る始末だった。
「御館様、このままでは挟み撃ちに遭います。すぐに逃げましょう。」
側近の臣下が数人、マサラを取り囲み、混乱する兵の中を掻き分けて進む。
「おのれ!・・葛城王めが!・・いつか必ず・・討ち取ってやるぞ!」
生駒一族と大伴一族の軍が、松原を出て、マサラの軍と戦う最中、マサラは兵を楯にして南へ逃げ落ちた。
イコマノミコト達は、深追いせず、逃げ行く一団をただ見守っていた。

マサラの軍が矢を射かけて始まった戦も、僅か一日で終結した。
一万を越える軍は、数ばかりでなす術も無く敗れた。
イコマノミコトは無用に命を奪う事はせず、抵抗せぬものは捕えられ捕虜とされたが、ほとんどの者が、命じられるまま東国や北国からやって来た者であった。
捕えられた者は、水路の船に乗せられ、対岸の堀江の庄に連れて行かれた。
そこには、葛城王が姿を見せていた。広場に集められたマサラの兵達は手を縛られ座らされた。皆、死を覚悟しているに違いなく、大の男が声を上げて泣いている者さえいた。
葛城王は集められた捕虜を前にして言った。
「そなた達は、倭国を我が手にしようという邪な考えに満ちた、物部のマサラに命じられたに過ぎぬのであろう。・・真に、我の命を奪おうと思っている者など居らぬはず。・・これより、我が民となり、倭国のために賢明に生きる事と誓うなら、ここで縄を解くこととする。如何か。」
居並ぶ者達は、葛城王の顔を見上げた。
神々しい表情を見て、すぐさま、誓いを立て、縄が解かれていく。皆、安堵した様子だった。
「さて、此度の戦いで、堀江も傷んだ。亡骸も転がっている。皆、賢明に生きると誓ったのだ。明日には、戦の片付けや弔いをしてもらいたい。良いな。」
葛城王の隣にいた、摂津比古が号令した。
先ほどまで死を覚悟した者達は精気を取り戻し、堀江の庄の者に従った。

夜には、難波津の宮殿に、摂津比古、イコマノミコト、ソラヒコ、レンなど、おもだった者達が集まった。そこには、大伴一族の長、ムロヤの顔もあった。

3-3 松林.jpg
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