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3-5 カラコの企み [アスカケ第5部大和へ]

5.カラコの企み
 物部の兵が都を離れ、難波津へ向かった後、蘇我のカラコは、兵の後を追い戦況を確認するための物見を送っていた。わずか一日で終結した難波津の戦の様子は、すぐにカラコへ知らされた。
カラコは、物見から「マサラ敗走」の知らせを受けて、すぐに動き始めた。
庵戸宮から、蘇我一族の兵を動かし、磯城宮を取り囲むと、磯城の皇子を守っていた僅かな兵を討ち果たし、磯城宮を占拠した。
「さあ、入って居れ!」
カラコの臣下に取り囲まれ、自由を奪われた磯城の皇子が、カケルたちの入れられている牢へ連れてこられた。すでに錦の着衣を剥ぎ取られ、平民が着る粗末な衣服となり、二人の女人とともに牢へ入れられた。磯城の皇子には何が起きたのか全く理解できないまま、薄暗い牢の中に付き人の女人にすがり付いて泣くばかりだった。
「カラコの奴、惨い事をする。・・・先の大王の時も、あいつの氷のような冷たい心を后様は察知して遠ざけたのだ。・・このままでは、マサラの時よりも酷い事が起きるだろう。」
カケルの牢の向かいの部屋から、平群のヒビキがため息をつきながら言った。
「この後、どうなるのでしょう?」
カケルが訊くと、ヒビキが言う。
「おそらく、物部同様に、自らの意を受け入れる皇子を立てるに違いない。神器も取り上げたとなれば、葛城王に対抗し、王の宣下をするに違いない。」

ヒビキの予想は当たっていた。
磯城の皇子を幽閉した後、カラコは、庵戸宮から皇子を連れてきた。
磯城の皇子即位のために建てられた御殿の広間に、東国や北国の長達を集めた。
集まった者たちは、何が起きたのかまだ理解できずにいて、何も語ることもなく、静かに座っている。
皆の前に、静かに、棺が一つ運ばれてきた。そして、その後にカラコが顔を見せた。そして、ゆっくりと棺は玉座の前に置かれた。カラコは、玉座の前に置かれた棺の蓋を開けた。そして、重々しい口調で言った。
「一同の者、よく聞くのじゃ。」
皆静まり返ってからこの言葉に耳を傾ける。
「この棺の中には、先の皇君の御后様が眠っておられる。」
平群と円の戦以来、その所在が掴めぬままであった后が亡骸となって目の前に横たわっていると聞き、皆動揺した。
「御后様の命を奪ったのは、かの物部のマサラである。亜奴は、大和を我が手にするため、王族に手をかけた不埒者であったのだ。一同の者、もはや物部に従う道理は無い。そして、マサラが立てた皇子とて、素性も知れぬ者に違いない。」
目の前に、后の亡骸を見せられ、長達は納得せざるを得なかった。しかし、蘇我のカラコのことを全て信用したわけでもなかった。居並ぶ長達はざわついた。
「静まれ、静まるのだ!」
ようやく広間のざわめきが静まった頃、カラコの指示で奥の間から一人の若者が現れた。そして、ゆっくりと玉座に座った。
「先の皇君には、皇子は無いとされていたが、我が一族が密かに北国にてお守りしていたのだ。この後、大和の王は、庵戸の皇子が即位される。皆の者、心せよ!」
カラコの宣言は、物部のマサラよりも強引であり、明らかに、実権を握るための者だと誰の目にも明らかであった。居並ぶ者たちが不審の念を抱いている事は、カラコにも判った。
「これを見よ。これこそが皇君である証し。」
声高らかにカラコが言うと、臣下が、紫の台座に乗せた、玉と剣の神器を皆の前に披露した。
玉は、先の皇君の后が隠し持っていたものだった。
物部のマサラに命を奪われたとされた后は、皇君を失い失意の中で、平群と円一族の戦いが起きて、守るべき者を失って、止む無くカラコを頼ったのだった。
后は、昔のような優雅な暮らしを手に入れるために、神器である「玉」を切り札として隠していた。カラコも、事態が変わるまでは后を繋ぎ置くために、手厚く保護し、玉のありかを無理に聞き出そうとはしていなかった。しかし、物部のマサラが敗れるや否や、手のひらを返したように、后に拷問を加え、無理やり聞き出したのだった。その結果、后は命を落としたのだった。カラコは、全てをマサラの所業とし、自らが正義であると騙ったのだった。
玉座に座る皇子は、磯城の皇子と比べると年上であり、表情は穏やかで、しかも聡明に見えた。確かに、王族の血筋の者のように思えた。
即位の宣下を終え、集められた長どもが御殿を後にした。宿舎にしている屋敷に戻る道々、長達はひそひそと話していた。
「庵戸王がこれからこの大和を治められるのだろうか?」
「・・ならば良いが・・」
「カラコが実権を持つのであろう・・・。」
「では、マサラと変わらぬな・・」
「・・ああ・・これよりは王族など頼らず・・自らの里を治めるほか無いだろう・・。」
「では、すぐにも里に戻るか・・」
「ああ、それが良かろう・・・もはや、大和は終わりだ・・。」
ちょうどその時、モリヒコが、カケルの様子を探るために御殿に忍び込んでいた。長達のひそひそ話は、モリヒコの耳にも届いた。同時に、牢に居るカケルにも、世話役の女人の口からカラコの所業は知らされたのだった。

3-5 社.jpg
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