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3-8 脱出 [アスカケ第5部大和へ]

8. 脱出
見張りの兵の声で、宮殿に居る兵士達が、回廊の中に広がる広場に集まってきた。
剣や弓を手にして、「どこだ、どこだ」と口々に叫びながら集まってきた。すぐに広場には篝火が焚かれ、周囲の様子を皆じっと探った。
見張りの兵が、回廊の屋根の上を指差す。
カケルは、兵が集まった様子を見て、再び吼えた。響き渡る声に、兵たちは震え上がった。
「物の怪か!それとも敵襲か?」
集まった兵達には、カケルの姿が月の光にぼんやりと見えている程度であったが、常人とは思えぬほどの大きさ、そして、遠吠えの声はただの人とは思えなかった。
「何をしている!さあ、射抜け!」
将と思しき男が掛け声をかける。兵たちが弓を構えた。数本の矢がカケルの周囲に飛んできた。
そして、カケルは、再び吼えると、高く飛び上がり、回廊の外へ降りた。
「逃げたぞ!追え!」
広場に集まっていた兵たちは、カケルを追うために一気に走り出した。
その様子を見て、モリヒコは玉座の間の床下にいるヒビキ達のもとへ走った。
「今のうちだ、さあ、急いで抜け穴へ!」
ヨシが玉座の後ろを板を押すと、簡単に板は割れた。そこには、地中に続く穴があった。
「さあ、急いで!」
ヨシが先に穴に入る。続いて、平群の男が護衛のために入り、皇子達が続く。最後を平群の長、ヒビキが守るようにして抜け穴に入っていく。
「良いですか。沼まで一気に行くのです。モリヒコに教えられたと言えば、判ってくれる。さあ、急いで。」
「ご無事で。また会いましょう。」
ヒビキはモリヒコの肩に手を置き、そう挨拶すると、穴に潜り込んだ。
モリヒコは、玉座の間に一人残った。他の兵たちがここへ戻り、抜け穴を見つけ追いかけるかもしれないと考えたからだった。
回廊の屋根から飛び降りたカケルを追って、松明を手にした兵たちが宮殿の外へばらばらと出てきた。できたばかりの宮殿の周囲はまだ整備されておらず、草叢や藪が広がっている。
「どこへ行った?探せ!」
兵たちは松明を掲げて、草叢や藪の中を探し回る。カケルは、一旦回廊の屋根から飛び降りた後、すぐに回廊の屋根に飛び乗り、宮殿から出て行った兵達の後ろに回り、宮殿の大門を閉じた。これで暫くは兵たちは宮殿に戻ってくる事はできない。
カケルは、すぐに玉座の間にいるモリヒコのもとへ向かったが、回廊の向こうに、松明を掲げる数人の男の姿を見つけ、身を隠した。
「物の怪など居るはずも無い。きっと、物部一族に違いない。奴らが戻ってきたのだろう。うろたえるで無い!ばか者が!」
知らせてきた男と叱咤しているのは、蘇我のカラコであった。隣に、イシトも居た。カラコ達は、玉座の間へ急いでいる。現れた者が、物部一族と勘違いし、皇子の身を案じている様子だった。
玉座の間に居たモリヒコも、近づいてくる足音に気づいた。モリヒコは短剣を抜き、手に傷をつける。痛みが走ると同時に、モリヒコの身体は、白狼へ化身した。
カラコ達の行く前を、付き人が、廊下の灯に火をつけながらやってくる。徐々に、回廊全体にも明かりが灯され、広場の篝火とともに、宮殿内は明るくなった。
玉座の間の扉が開かれた。松明を掲げ先頭に入ってきたのは、イシトであった。右手に剣を掲げている。白狼に化身したモリヒコは、さっと飛び上がり、玉座の間の垂木に身を潜めた。
「誰も居らぬようですな。」
一回り見渡したイシトが言った。
「奥の部屋はどうだ?」
カラコが訊く。付き人の一人が、玉座の間の脇の通路から、奥の間へ入ってすぐに出てきた。
「皇子は静かに眠っておられるようです。」
「そうか・・無事か・・・しかし、兵たちはどこへ消えたのだ?」
そのうち、大門を打ち叩く音が響いた。すぐに付き人が大門へ向かった。
「どうやら、兵たちは外へ逃げた怪しげな者を追いかけて行ったようです。・・しかし・・何故、大門が閉ざされているのでしょう。」
そう言いながら戻ってきた付き人に、カラコの顔がキッと強張った。
「宮殿の中に誰か潜んでおる。探せ、探すのだ!」
ようやく戻ってきた兵達が宮殿内を探し回った。
「あそこに、誰かおります!」
兵の一人が玉座の間の天井を見上げて叫んだ。白狼に化身したモリヒコが見つかった。
「射掛けよ!」
兵たちは、一斉に矢を放とうとしたが、狭い玉座の間では弓を引くこともおぼつかない。モリヒコは隙を見て、兵達の腕に噛み付き、うろたえる兵達をよそ目に、一気に広場に飛び出した。
「ええい!何をしておる!野犬の一匹に振り回されおって!」
そう言って、イシトが弓を構えた。飛び跳ねる白狼に狙いを定めようとしているがなかなか放つ事ができない。カケルは、その様子を見て、回廊の屋根に飛び移った。そして、大門の上に立ち先ほどと同じように、遠吠えのような声を上げた。
「何?他にも居たのか?」
ようやく兵たちが構えた矢が放たれた。カケルは飛んでくる矢羽を容易く剣で払い落とした。そこに、モリヒコも寄り添うように立った。

3-8地下室.jpg
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