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3-9 イシトの軍 [アスカケ第5部大和へ]

9. イシトの軍
「もう、逃げ果せたでしょう。」
モリヒコがカケルにそっと呟く。カケルは頷くと、再び、遠吠えを発した。そして、剣を天高くかざした。ちょうど、朝日が昇ってきた。朝日がカケルの剣に射す。すると、辺り一面眩い光が溢れた。弓を構えていた兵も、眩い光で目標を見失った。
その隙に、カケルとモリヒコは、大門から飛び降り、草叢に身を隠すようにしながら、宮殿を去った。
すぐに追っ手が向かったが、大門から先、どちらの方向へ向かったのか皆目見当ももつかず、しばらく宮殿の周りを探したものの、ばらばらと宮殿に戻ってきた。
「逃げられましたな・・・。」
玉座の間で、イシトがカラコに言った。
カラコは、玉座に座っていた。
「あの者達は何者であろうな・・。物部のようには思えぬ。しかし・・物の怪でもあるまい。一体、何者なのか・・・。」
カラコは一人呟いていた。

「カラコ様、大変です。牢が・・。」
兵の一人が慌てた様子で玉座の間にやって来た。
「どうした?」
兵は、玉座の前に跪き言った。
「地下牢に囚えていた者が誰一人居りません。」
「何?牢番は如何した?」
「眠っているうちに誰かに縛られたようで・・何も見ておらぬようです。」
それを聞いていたイシトが言った。
「では、あやつらは、牢の者を逃がす為に現れたのでしょうな。」
「しかし、どこから逃げ果せたというのだ?」
「カラコ様、ここに抜け穴が・・。」
別の兵が玉座の後ろを指差して告げた。
玉座のちょうど後ろ側に、人一人抜けられる穴があった。すぐに兵が入っていったが、途中で引き返してきた。途中で、抜け穴が壊され、通れ無くなっていたのだった。ヨシが皆を案内して逃げた後で、追っ手を食い止める為に穴を塞いだのだった。

玉座の間では、カラコとイシトが向かい合っていた。
「磯城王も、平群のヒビキも、そして、あのカケルと言う者も逃げたようですね。」
「ああ・・だが、一体、どこへ逃げたのだ?」
「おそらく、當麻の里か・・葛城の王宮か・・いずれにしても、沼を渡ったとしか思えませぬ。広瀬の里も助けに加わったのかもしれませんな。」
それを聞いて、カラコはイシトに訊いた。
「さあ、お前ならどうする?」
「答えは明快。すぐに兵を出し、當麻も葛城の王宮も・・いや、対岸の里と言う里を全て焼き払いましょう。いずれにしても我らに逆らった罪は重い。皆殺しにしておかねば示しが付きますまい。」
「そうだな・・マサラは、人質を得たとして當麻一族を許したが、結果はこうだ。やはり、あの甘さが命取りになった。よかろう。お前に全ての兵を与える。すぐに、當麻を・・いや、我らに逆らおうとする者共を討ち果たして参れ!」
すぐに、兵たちが集められた。東国や北国の長達は、渋々兵を出した。
イシトは、當麻一族は敵ではないと考え、意気揚々と宮殿を後にした。
宮殿の西に広がる沼の南側を抜け、イシトの軍は當麻の里を目指した。
その頃、葛城の王宮では、牢を逃げた者達が戻り、暫くして、カケル達も戻っていた。
「すぐにも、ここへ蘇我の兵がやってくるでしょう。どれほどの兵が来るかもわかりません。すぐに身を隠しましょう。」
カケルの言葉に、磯城の皇子や女達は、シシトの案内で、すぐに當麻の隠れ里へ向かった。
カケルとモリヒコは、葛城の宮殿に留まり、蘇我の兵を迎え撃つ事にした。平群のヒビキやその男達も蘇我の兵と戦うと言い、葛城の宮殿に残った。
平群のヒビキの指示で、広瀬や円、平群の里のあった辺りの小さな里に遣いが出され、蘇我一族との戦が知らされた。
大和の西側の里は、表向きは、物部や蘇我に恭順したように振舞っていたが、もともと、豪族たちへの反感、葛城王を慕う者ばかりであった。知らせを受けた里では、すぐに男達が弓や剣で戦支度に入った。
イシトの軍は、葛城川近くまで達したが、川が増水していて、すぐには渡れる状況に無く、二日ほど足止めを食ってしまった。
そうしている内に、大和の西側の里から多くの男達が、葛城王の宮殿に集まってきていた。
ようやく、水が収まり、葛城川を越えて、イシトの軍が葛城の王宮に達した。
イシトの軍は、葛城の王宮の手前に陣を張り、先見隊が作られた。
「よし、まずはこの宮殿だ。ここに潜んでおるものは皆殺しにするのだ!良いな。」
イシトは兵達に命じた。先見隊の兵はざっと百名ほど、王宮の大門の前に並ぶと、声を上げた。
「我らは、庵戸王の軍である。大門を開けられよ!」
その声に応えるように、ゆっくりと大門が開かれた。

3-9古代松明.jpg
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