SSブログ

3-10 イシト軍の最期 [アスカケ第5部大和へ]

10. イシト軍の最期
開いた大門から、宮殿まで続く広場には人影は無かった。イシトの兵は周囲を警戒しながら、ゆっくりと広場まで進んだ。百名ほどの兵が広場の中央まで進むと、大門がゆっくりと閉じられた。すると、一気に、宮殿や周囲の木々や回廊に隠れていた男達が姿を現し、兵達を取り囲むようにして、剣や弓を構えた。突然取り囲まれた兵達は驚き慌てた。
「命が惜しければ、弓や剣を棄てなさい!」
館の奥から、男達の間を割って出てきたのは、カケルだった。
「無駄に命を棄てる事は無いでしょう。この数をみれば、もはや戦いなど無駄。すぐに降伏されれば無用に血を流す事もないでしょう。」
イシトの兵たちは互いに顔を見合わせた。圧倒的な数の差、戦えば無駄死にする事が明白な中、兵達は、次々に剣や弓を捨てた。
先見隊が入ってから、しばらくしても全く動きが無く、王宮は静かなままだった。
「一体どうしたのだ?兵達は?」
痺れを切らしたイシトは部下に命じて、様子を探らせた。大門は閉じられたまま、中から争うような音も聞こえない。
「イシト様、不気味なほど静かです・・どうしたのでしょうか?」
様子を見に行った兵が戻ってきて、ぼんやりと報告する様子に苛立ち、シシトが言った。
「ええい!一気に攻め立てるぞ!」
しかし、兵達の中には、前日に見た白狼と獣人の姿を思い出し、怖気づく者も出始めていた。百名ほどの兵が大門に入って言ったにもかかわらず、争う気配さえなく不気味な静けさをたたえる宮殿に、あの物の怪のような者達が潜んでいるのではないかと思い始めていたのだった。
「どうした!我らは、庵戸王の軍なのだぞ!我らこそがこの大和を治める者である。さあ、立て!・・火矢を放て!・・皆殺しにせよ!」
動かぬ兵に号令を掛けるイシトの表情は、まるで物の怪に取り付かれたような怖ろしさであった。
徐々に兵達が立ち上がり、隊列を組み始めた頃、甲高い風切り音を響いた。そして、兵の真ん中にドスンと地面を響かせて矢が突き刺さった。
驚いた兵達は、あたりを見回り再び怖気づいて再び座り込んだ。
「出たな、物の怪め!成敗してくれよう!さあ、出てまいれ!」
イシトは弓を構え、周囲を睨みつけた。
再び、甲高い風切り音が空に響く。今度は一本ではない。何本もの矢が、降ってくる。
兵達は、盾をもって防ぐのがやっとだった。何人かは、射抜かれ倒れた。
ふと見あげると、大門の上に、カケルのほか、モリヒコや平群の男たち、そして當麻の男達が並んで矢を放っている。さらに、宮殿を取り囲む塀の上にも多くの男達が居並んでいた。
そして、容赦なく矢を放ってくる。次第に、イシトの兵達は散り散りに逃げ去っていった。ほんの僅かな兵が、イシトの回りに残っただけであった。
大門が開かれ、更に多くの男達が、まっすぐにイシト目掛けて矢を放ちながら現れた。
イシトを守るように居た兵達は次々に矢に倒れ、終には、イシトひとりとなってしまった。
男達の中から、平群の長ヒビキが現れ、ゆっくりとシシトに近づく。
「イシトよ、観念せよ!」
「おのれ、ヒビキか!・・・我が父の恩義を仇で返すとは・・許せぬ!」
イシトは剣を振り上げ、ヒビキに斬りかかった。
ヒビキは鞘に入ったままの剣で受け止めた。
「何が恩義だ。・・・我ら平群一族と円一族を惑わせ、戦に仕立てたのはお前らであろうが!」
そう言うとイシトを突き飛ばした。イシトはもんどりうって転がった。
「ここで命を奪われるが良いか、それとも、小ずるいカラコの許へ泣いて帰るか、どうする?」
ヒビキはまるで幼子に諭すように告げる。
「何を!」
イシトは再び、剣を振り上げヒビキに切りかかろうとする。同じように、ヒビキは突き飛ばす。何度か、同じようなやり取りが続く。何度も突き飛ばされ、イシトはぼろぼろになっている。
「もう良いでしょう。」
カケルが止めた。イシトは荒縄で縛られた。
散り散りに逃げ隠れていた、イシトの兵達も次々に捕まえられた。大門の前には、多くの兵が縛られたまま、座らされていた。
兵達の前に、ヒビキが進み出た。
「我は、平群一族の長、ヒビキである。このたびの大和の混乱は、物部と蘇我一族が、皇君をないがしろにし、この国を手に入れようと画策したもの。全ては、ここにいるイシトが知っておる。」
ヒビキはそういうと、イシトを皆の前に引きずり出した。
「さあ、お前の知っていることを話してもらおう。」
イシトは観念していた。円一族を煽り、平群との戦を起こした事、后に拷問を与え殺した事等、ぼつぼつと語った。一つ一つ語られる事柄に、宮殿に集まった者も、兵たちも、怒りを露にした。
「よくも、それほど疚しき事を考えついたものじゃ・・。」
凡そ見当はついていたはずのヒビキでさえ、イシトの言葉には呆れていた。一通りイシトの告白が終わったところで、ヒビキが再び、皆を前に言った。
「すでに物部のマサラは、葛城王との戦に敗れ、行方知れず。その機をついて磯城王を亡き者とし、新たに庵戸の皇子を立て、東国や北国を従えようなど・・断固許してはならん。・・この国を治めるは、葛城王をおいてない。そなたらが、葛城王への忠誠を誓うのであれば、縄を解いてやろう。そして、最後の敵、蘇我カラコを倒す為働いてもらいたい。いかがじゃ?」
兵たちは皆、進んで葛城王への誓いをたてた。

3-10IMG_4563.jpg
nice!(6)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 6

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0