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3-12 再会 [アスカケ第5部大和へ]

12. 再会
マサラを追いながら、山を超え、イコマノミコトと大伴のムロヤが、當麻の里へ到達したのは、カラコの元へマサラ帰還が知らされたのとほぼ同時だった。イコマノミコトは、當麻の隠れ里に真っ直ぐ向かった。もしや、そこにカケルが戻ってきてはいまいかと考えたからであった。
當麻の隠れ里には、磯城宮の牢から逃れた、磯城の皇子やその付き人、抜け穴を案内したヨシ、そしてハルヒ達が居た。ハルヒから凡その経緯を聞いたイコマノミコトは、ムロヤを伴ってすぐに、葛城宮へ向かった。
葛城宮には、葛城王へ忠誠を誓い、蘇我の支配から離れた多くの兵達がいた。そして、大和の国を守りたい一心で駆けつけた多くの里の男達も居た。
宮殿の広間では、カケルやモリヒコ、シシト、ヒビキ等が集まり、これからの策を相談していた。
「イコマノミコト様が、難波津よりお戻りです。」
知らせを聞いたカケル達は、すぐに大門まで迎えに出た。
「おお、イコマノミコト様、ご無事で。」
カケルが駆け寄り、手を取り無事を喜んだ。
「カケル様こそ、よく戻られました。難波津では、葛城王を始め、皆、カケル様のご無事を祈っておりました。良かった。・・・」
イコマノミコトはカケルの顔を見て、思わず涙を零した。
「済みません。皆様には、余計な心配をかけてしまいました。」
カケルは、イコマノミコトの手を強く握った。
「カケル様、覚えておいでですか・・レンです。忍海部のレンです。ご無事でよかった。・・モリヒコは役に立てましたか。」
「レン様。よくおいでくださいました。・・・難波津の水路は如何ですか・・もう立派に出来上がったのでしょうね。」
「はい。・・ソラヒコ様が、カケル様と完成を見届けたかったと残念がっておりました。・・ですが、あの水路のおかげで、物部一族の軍を見事に蹴散らす事ができました。それに、内海も随分水が引き、干潟となり、水田作りも始まりました。数年のうちに、草香江あたりは見事な水田になるにちがいありません。カケル様にもご覧いただきたい。」
「良かった。役に立てたのですね。皆様のご尽力の賜物です。私からも礼を言います。本当にありがとうございました。」
カケルはレンの手も強く握り、礼を言った。
その様子を、大伴のムロヤはじっと見つめていた。
難波津で聞いていたカケルと言う人物は、ムロヤの頭の中では、屈強で戦に長けた剛者という像ができていた。しかし、実際には、気さくで誰にも偉ぶることなく、むしろ、皆を尊敬する若者であった。ムロヤは、皆がカケルを慕う理由が判ったような気がしていた。
「こちらは、大伴のムロヤ様です。此度、物部との戦では大変ご尽力いただきました。マサラの軍を蹴散らす事ができたのも、ムロヤ様が居てくださったからなのです。」
そう言って、イコマノミコトがムロヤを紹介した。
「我は、出雲の国のはずれ、山背の里を治める大伴のムロヤと申します。」
カケルは、ムロヤとはもちろん初対面であった。だが、何か懐かしさを感じていた。ムロヤもまた、カケルの中に通じるものを感じた。
「ムロヤ様ですか・・出雲とはどのような国なのか、またゆっくりとお話をお聞かせ下さい。」
「ええ・・まずは、この大和の国の安寧。すでに西国は葛城王のもと、一つに纏まり、豊かな国造りを始めております。それは出雲にとっても善き事なのです。」
一通り挨拶を終えると、広間に一同が会してこれからのことを相談することにした。
イコマノミコトが口火を切った。
「私たちは、難波津から、マサラを追ってきました。だが、行方知れず・・紀の国まで逃れたのでしょう。」
「では、当面の敵は蘇我のカラコのみという事でしょうか。」
モリヒコが尋ねる。
「ならば、ここに居る兵で一気に磯城宮を取り囲み、カラコを滅ぼせば早いでしょう。」
ヒビキが言う。ヒビキはカラコへの怨念を持っている。一族が路頭に迷い、いまや、平群の里も廃墟と化している。すぐにでも殺してしまいたい衝動に駆られるのであった。
これには、おおかたの者が反対しなかった。大和の安寧のために、カラコを討ち果たすこそだけで良いのだと誰しも思っていた。しかし、カケルは違った。
「カラコを力で打ち果たす事は今の我らには容易い事かも知れません。ですが、それだけで良いのでしょうか。」
ムロヤはカケルの言いたい事が判った様な気がした。
カケルは続けた。
「大和の民は、豪族達が、大和を我が物にせんとして、繰り返す戦で疲れきっておりましょう。再び、我らが磯城宮を取り囲むような戦をすれば、もはや、我らも同類と思われましょう。結局、大和の民は、王族も豪族も信じられぬようになるのではないでしょうか。」
「だが・・蘇我一族を倒すことは、大和の民の為であるのは明白。それ以外に道はないのではなかろうか・・。」
ヒビキが言う。
「少し、宜しいでしょうか。」
大伴のムロヤが口を開いた。

3-12當麻の里.jpg
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