SSブログ

3-13 ムロヤの進言 [アスカケ第5部大和へ]

13. ムロヤの進言
ムロヤは、厳しい視線を感じていた。
「私は、出雲の神々を崇める国の者。大和の者ではありませぬゆえ、戯言と受け止めていただいても結構です。」
ムロヤはそう前置きした後話を続けた。
「出雲の国には、皇君など居りませぬ。ですが、それぞれの里は互いに助け合い、出雲の国を守っております。そこには、神々しきお力を持ち出雲を開かれし古の神々がおわすからなのです。出雲は、厳しき地。冬となれば背丈以上に降り積もる雪に閉ざされます。畑で取れるものも、大和の里とは比べ物にならぬくらい少ない。それでも、皆、奪い合うことも、いがみ合い事も無く助け合っております。」
それを聞いて、レンも口を開いた。
「我が、忍海部一族も同様。僅かな食べ物を分け合わねば生きていけませぬ。」
カケルも言った。
「私も、九重から西国を経て難波津へやってきましたが、どこも貧しき暮らしの中で互いに援けあい、仲良く暮らしております。いや・・貧しいからこそ助け合わねばなりません。吉備や明石、難波津と上ってくるに従い、物が溢れ豊かな暮らしとなっております。しかし、諍いも多く、騙したり脅したり、終には殺し合いまで。そのような暮らしを民は望んでは居らぬはずです。」
ヒビキもシシトも、カケルたちが言わんとすることが判ってきたようだった。
イコマノミコトが口を開いた。
「葛城の皇君は、どのような大和を・・いや倭国をお造りになられたいのであろうな。」
それを聞いて、當麻の里のシシトが答えた。
「民が互いに助け合い、諍いの無い穏やかな暮らしが出来る事であろう。・・葛城の皇君は、先の皇君が崩御されたのち、覇権争いを嫌いこの地へお隠れになったのだった。民が傷つく事をもっとも嫌っておられた。なあ、ヒビキ様、確かに蘇我のカラコの所業は許せぬ事、だが、我らが武力を持って対峙することは、再び、磯城宮あたりの民をも巻き込むことになろう。それは、葛城の皇君の望まれぬことであろう。」
平群の長、ヒビキも納得した様子で、カケルに言った。
「判った。もともと戦火を起こしたのは我ら平群一族である。その報いは受けた。これより後は、葛城の皇君の望まれる世を作る為に働こう。・・・で、この後、どうすれば良いのだ?」
カケルは、皆の顔をじっと見回してから言った。
「大和の西側の里は、こうして一つに纏まりました。これからは大和の東の里をまとめる事、そして、東国や北国の国々も、互いに助け合うようにするのです。決して、皇君に従うのではなく・・・そう、出雲の国が神々を崇め助け合うように、倭国の皇君を心の拠り所として纏まっていく事。そこに尽力すべきでしょう。ここには、これほど多くの人々が集まっています。皆で手分けして、大和の里、東国や北国へも使者を出して、我らが望む倭国の姿を広めて参りましょう。」
ムロヤは驚いていた。蘇我一族との戦がいつ起きてもおかしくない状況にありながら、あえて戦にせず、そればかりか、新たな国造りを口にするカケルが不思議でならなかった。しかし、一方で、それこそが今すべき事だと、得心する事ができるのも更に不思議でもあった。
「しかし・・・蘇我一族が刃を向けた場合、如何致しましょう?」
ヒビキがカケルに訊く。ヒビキの問いには、モリヒコが答えた。
「そうならぬため、カラコの息子イシトを使いましょう。・・使者を送り、速やかに磯城宮を出るよう求めるのです。さもないと息子の命を奪うと言えば、カラコといえども親。きっとわが子の命と引き換えなら、聞き入れるでしょう。」
「そう上手くいけば良いが・・・カラコは狡賢い。別の手を打ってくるに違いない。」
「蘇我のカラコの事は、今しばらく考えましょう。きっと良い策が見つかるでしょう。」
相談の結果、まずは、大和の里を纏める事と決まり、平群のヒビキや當麻のシシトが先頭に立って、それぞれの里へ縁者のある者を使者にして、次々に送ることになった。
蘇我のイシトが引き連れてきた兵達は、率先して使者となると申し出た。兵のほとんどが、磯城宮周囲の里や東国や北国の長達がカラコの命令で渋々差し出した者であった。兵の申し出を快く受け入れた二人は、葛城王を皇君とした安寧な暮らしができる新しき国造りに協力するよう長を説得する役を持たせて、それぞれの里へ帰す事にした。
その頃、磯城宮に集まっていた東国や北国の長たちも、蘇我のカラコから次第に離反し、それぞれの里へ戻りつつあった。
「ヒビキ様、大和の多くの里や東国、北国の主だった里には、使者が送れる手筈が整いましたが、甘樫の里あたりに立つ使者が居りません。」
ヒビキやシシトを支え、使者の采配してきたイコマノミコトが、広間に居たカケル達のもとへ相談に来た。
「あそこは、物部一族が所領としてきたところだ。容易ではあるまいな。」
ヒビキが首をひねりながら言った。
「イシトを使っては如何ですか?」
モリヒコが続けて言う。
「イシトは、蘇我からこの息子。イシトを連れ、甘樫へ行き、これまでの蘇我の悪行を教えるのです。その証拠がイシトとなりませぬか?」
「そんな事で蘇我一族の悪行を信じると思うか?ましてや、我らに味方するとは思えぬが・・」
シシトが問う。皆、沈黙した。カケルが口を開く。
「一度、甘樫の里へ行ってみましょう。それからでしょう。・・それと、イシトは解放しましょう。イシトを捕まえたままでは、カラコが再びここを襲うかもしれません。解放しカラコの許へ戻しましょう。」
一同は驚いた。

3-13荒縄.jpg
nice!(11)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 11

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0