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3-16 ヒビキ 磯城宮へ [アスカケ第5部大和へ]

16. ヒビキ、磯城宮へ
翌日にはすぐに、カケルは難波津へ向けて旅立った。
「心配されますな。大丈夫です。我らがしっかり務めます。・・大和も東国も北国もすぐに葛城王の下で平和な暮らしを取り戻します。」
大門の前には、葛城宮に居る全ての者が集まり、カケルを見守った。モリヒコもハルヒも供をする事にした。そして、大伴のムロヤも、一旦、山背の国へ戻る事にした。昨夜の誓いを胸に秘め、いずれ大和と出雲とが供に助け合う時代が来ると考え、すぐに出雲大国へ戻る事にしたのだった。

少し前、ヒビキはイシトを縛ったまま、磯城宮へ向かっていた。
イシトは、葛城宮を出る時から、上半身を荒縄で縛られ、葦だけが動ける状態にされていた。
沼を船で渡ればほんの半日ほどでつける距離だったが、ヒビキは敢えて、陸路を選んだ。それ程整備された道ではない。イシトは歩きながらも何度も転んだ。両手を縛られて居るため、転べば、全身を打つ。半日ほど歩いただけで、イシトの顔はあちこちは腫れ、血も出ている。体中、痣だらけになっていた。最初は痛みを感じていたが、次第に、それすら感じられぬほど、憔悴しきっていた。途中、野宿をして、翌日の昼ごろには磯城宮近くまで到達した。
ヒビキは、使者を送り、イシトを解放することを磯城宮にいるはずのカラコへ伝えようとした。
しかし、すぐに使者は戻ってきた。
「どうやら、様子が変です。磯城宮には兵が見当たりません。カラコも不在のようです。」
ヒビキたちは、磯城宮の大門の前に立った。確かに、磯城宮は、物音すら聞こえぬほどの静寂に包まれている。
「平群の長、ヒビキである。蘇我のイシトを連れてまいった。大門を開けよ!」
中から女人の声がした。
「今、カラコ様は不在でございます。・・どうか・・お帰り下さい・・。」
「蘇我のカラコの息子、イシトを連れてまいったのだ。開けよ!」
「開けてはならぬと申し付けられております。どうか・・どうか・・お帰り下さい。」
中から再び女人が返答をした。
「埒が明かぬな・・・しかたない、押し入る。」
ヒビキは供の男たちに命じて、大門の屋根に上り、中へ入った。中では女人達の悲鳴が響いていた。
「どうやら、兵はおらぬようだな。」
しばらくして、大門が開かれた。周囲に注意を払いながら、ヒビキたちは磯城宮へ入った。
ヒビキはまっすぐ玉座の間へ向かった。物音に気づいたのか、数人の翁と女人が現れた。皇子の付き人であろう。とても戦う事など出来るものではなかった。すぐに、ヒビキたちに捕らえられた。
「庵戸の王は何処だ?」
一人の翁が玉座の間の奥を指差した。すぐに王も捕えられた。
「なんとぬかったものか・・・よし、王もイシトも、あの地下牢へ放り込んでおけ。我らが受けた苦痛を二人にも味わってもらおう。」
皇子も荒縄で縛られ、イシトと供に地下牢へ連れて行かれた。地下牢の蓋を開け、階段を下りたところには、亡骸が一つ転がっていた。甘樫の長であった。
「カラコの仕業か・・・」
甘樫の長の亡骸は筵に包まれ、牢の中へ横たえた。そして、イシトと皇子も同じ牢へ入れられた。
「そなたの父がやった事だ。どういう事か、わが身で感じるが良かろう。」
ヒビキは、そういうと地下牢の明かりを全て消し、真っ暗な闇の中に、イシトと皇子を残した。しばらく、地下牢からは悲鳴のような叫び声が聞こえていた。
ヒビキは玉座の間に戻ると、宮殿にいた女人達を集めた。そして、カラコの行方を問い詰めた。一人の年配の女人が言う。
「今朝早く、甘樫へ出かけられました。」
「甘樫へ?・・一体、何をしに言ったのだ?」
「さあ・・判りません。ただならぬご様子でしたが・・私どもには何の沙汰もなく行かれましたゆえ、判りませぬ。」
「いつ戻ると言うて居ったのだ?」
女人達は顔を見合わせていたが、誰一人知らないようだった。
ヒビキは暫く考えてから、葛城の宮へ使者を送った。使者は、沼を船で渡り、すぐに葛城宮からは大勢の男達がやって来た。
カラコが不在の間に、磯城宮はヒビキによって武装され、再び、カラコが戻っても、入れぬ状態となったのだった。
「ヒビキ様、カラコが戻ってきた時、これだけの守りで大丈夫なのでしょうか?」
ヒビキの臣下達が玉座の間に集まり、相談している。
「皆よ、よく聞くのだ。我らはカケル様と約束した。無駄な戦はせぬと・・命は新しき国造りに懸けるとな。・・そして、我らはもう、平群一族というかつての豪族ではない。大和の民として生きる事を決めたのだ。良いか。出来るだけ戦にはせぬよう知恵を出すのだ。力だけで勝つのではない道を探るのだ。」
「しかし、カラコが弓矢や剣で攻めてくれば戦になりましょう。ただ守れと申されても・・。」
ヒビキの臣下は戸惑っているようだった。
「宮の周りの見張りを怠るな。カラコが戻る気配がすればすぐに知らせるのだ。無闇に、矢を放つでないぞ。・・わしに考えがある。良いな。」
磯城の宮では、宮の周囲にたくさんの男達が見張りに立ち、夜もたくさんの篝火を外門に並べられた。磯城の宮に多くの男達がいることは、遠くからも判るほどであった。

3-16 箸墓.jpg
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