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2-31 誘拐 [スパイラル第2部遺言]

2-31 誘拐
「ここには居られないほうが良さそうです。すぐに戻りましょう。」
純一はミカと供にクルーザーに戻る事にした。
マリン事業部の事件と、如月さんのマンションの爆発・・・・何か途轍もなく深い悪意を感じながら純一はクルーザーに戻った。
「何か変です。」
ミカがクルーザーに近づくと囁いた。
「洋一さんの姿が見えません。あれだけの轟音が聞こえたんです。心配して、操縦席から様子を見ているはずなのに・・・・。」
クルーザーに乗り込むと、キャビンに洋一が倒れていた。
「洋一さん!洋一さん!しっかりして!」
ミカが駆け寄り抱き起こす。「うう」と呻いて洋一が目を開けた。
「どうしたの?」
洋一は首筋に手を当て、頭を何度か振るとようやく正気に戻ったようだった。
「誰かに後ろから殴られて・・・・。」
周囲を見回すと、テーブルの上に置かれていた花瓶や飾り物が床に散乱していた。
「ミホは?」
純一はミホの姿が見えない事に慌てた。キャビンや船室、デッキなどを探し回った。だが、ミホの姿は無かった。
外のデッキからミカが声を上げた。
「如月さんのボートがありません。」
「如月がミホを連れて行ったのか?・・・一体何のために?・・・」
呆然と港の出口当たりに視線をやって純一は言った。
「洋一さん、すぐに如月さんのボートを探して!」
洋一はエンジンを掛けた。

「ミサ、聞こえる?・・・ミホさんが如月さんに連れて行かれたの。如月さんのボートを見つけて!」
「すぐにやってみるわ。」
クルーザーが港の防波堤を抜ける頃に、ミサから連絡が入った。
「無理ね・・・GPSが切られているみたい。・・・・上空からの映像も如月さんの小型ボートだと判読できそうに無いわ。・・・。」
ミカと洋一、純一は、太陽が煌く海面に目を凝らしてみたが、船影を見つける事は出来なかった。それでも2時間以上、周囲の海を走り回って必死に行方を探した。だが結局、如月のボートを発見できなかった。
もう夕方近くになっていた。
クルーザーのキャビンのソファに座り、純一は頭を抱え、考えていた。
マリン事業部の強盗事件、如月のマンションの爆発、ミホの誘拐、立て続けに起きた事をもう一度整理してみなければならない。関連が無いというには余りに連続している。きっとつながっているに違いない。だが、その目的がわからなかった。ミホを誘拐したのは如月に違いない。だが、マンションを爆破するのは納得できない。それに、マリン事業部の強盗とは無縁だろう。だが、何かでつながっているはずだった。
「山下副社長から電話です。」
ミカが携帯電話を持ってきた。
「社長、ご無事ですか?」
「ええ・・・」
「朝の強盗事件で、本社にもたくさんの新聞社が集まっていました。それに・・・如月さんのマンションの火事で・・・社内も一時は相当混乱していました。」
「今は?」
「まだ、本社前にはたくさんの記者やカメラマンが待ち構えています。社長・・・いえ。前社長の自殺の件から全てを関連付けて、きっと面白おかしく報道するためにネタを探しているんでしょう。・・・」
「常務は?」
「ええ・・・玄関ロビーに席を作って、対応されています。警察も何度もやってきていますから・・・。あの方は立派ですね。終始、落ち着いた様子で、それぞれの事件は偶然だと記者からの執拗な質問にも平然と答えられています。」
「そうですか・・・。ああ・・如月さんから連絡は?」
「いえ・・・ありません。・・・一体、何処に隠れているんでしょうね・・・・。自分の部屋を爆破しておいて姿を晦ますなんて・・・・余ほど隠しておきたいことでもあったんでしょうか?まさか、マリン事業部の強盗事件も如月さんが・・ということはないでしょうね?」
上総CSの存亡の危機にあるというのに、何故か、山下は、あたかも他人事のようにはなすのが純一には妙に気になった。
「如月さんの隠れていそうなところに心当たりはありませんか?」
「さあ・・・・・如月のプライベートはほとんど知りませんし・・・。」
妙な言い方だった。二人の秘書の所在はすぐに見つけられたくらいであったはず。如月の動向も掴んでいてもおかしくなかった。
「あ、社長。しばらく本社へは来られないほうがいいですよ。新社長就任で吹きだした内紛なんて記事を書こうと記者たちも目を光らせています。記者たちの餌食になります。しばらく、島で大人しくされたほうが良さそうですね。」
「ああ・・・。判りました」
純一は電話を切った。会話をしたのは二度目だが、山下福社長の態度がやけに横柄に感じられた。そして、今回の事態を平然と受け止めすぎている事も気になった。それに、如月が逃げている事を知っていた。マンションが爆発したのだ。万一にも部屋にいたのではないかと心配するべきである、しかし、如月が無事に逃げている事を知っていた。だが、ミホが誘拐されている事は知らない様子だった。何か妙に偏った情報を持っているように感じられた。
.
「一度、島に戻りましょう。」
純一が言うとミカが訊ねた。
「ミホさんを探すのは?」
「如月さんはミホに危害を加える事は無いでしょう。私を脅すためなら尚の事。きっと如月さんから連絡があるはずです。・・・それに戻って確認したいことがあるんです。」


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