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2-32 暴かれる秘密 [スパイラル第2部遺言]

2-32 暴かれる秘密
クルーザーが島に向かって走り始めた時、純一は操縦席の洋一の傍に行き、そっと耳打ちした。洋一は一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐにエンジンを止めた。
純一は、洋一とミカを甲板に出て、手招きした。
二人がやってくると、純一は二人に小さな声でこう告げた。
「一連の出来事には、山下副社長が関わっていると思います。・・・私たちの動きも全て掴んでいるようです。」
洋一とミカは、純一の言葉に顔を見合わせた。
「いえ・・・あなた達を疑っているわけではありません。おそらく、コンピューターを駆使して情報を入手しているのでしょう。先ほどの電話で、部分的には正確でも、どこかでずれている事がありました。おそらく、この船の情報も・・例えば、位置情報とか、通信記録とかで掴んでいるはずです。」
純一が言うとミカが言った。
「・・確かに・・・この船には多くの電子機器が積まれていて、島のサーバーにも繋がっています。秘書室のパソコンから、クルーザーの位置や中での会話を聞こうと思えば可能ですね・・・。」
「ひょっとしたら、携帯電話さえも盗聴されているかもしれません。」
純一は、ミカの言葉を聞き更に加えた。
「洋一さん、この船には小さな救命用ボートはありますか?」
「はい・・・ありますが・・・。」
「すぐに用意しましょう。私はここでクルーザーを降りて、街へ向かいます。洋一さんはこの船を島へ戻してください。」
すぐに洋一は、救命用ボートを用意した。
「私も社長と一緒に行きます。お一人で行くには危険です。それに、本社の副社長室に入るにも、正面からでは駄目でしょう。・・別の入口を知っています。案内させてください。」
ミカはボートが用意できると、純一より先に乗り込んでそう言った。
純一はボートの乗り移ると、洋一に言った。
「洋一さん、島へ戻ったらミサさんに事情を話してください。できれば、僕が戻っているように装って欲しいんです。」
「判りました。・・・もう宵闇が広がっています。・・・そうだ・・あの灯台を目印にボートを進めてください。マリーナには入らないほうが良いでしょう。あそこは、入ってく船を探知するレーダーがあります。万一にも見つかるかもしれません。灯台の東には砂浜がありますから、そこから上陸されたら良いでしょう。」
「ありがとう・・・よろしく頼みます。」

純一とミカが乗った小さなボートは、闇が広がる波間を進んで行った。ボートが見えなくなると、洋一は、クルーザーを島へ向けて走らせた。

比較的穏やかな海だった。ほのかに月明かりも射していた。救命用のボートといっても、小さなモーターもついていて、ちょっとしたプレジャーボートのような性能だった。純一は、洋一が教えてくれた灯台の明かり目指して真っ直ぐにボートを進める。
「社長・・・お伺いしてもいいですか?」
ミカは、純一の言葉を自分なりに整理し、何故、山下副社長を疑っているのかを考えていた。
「会長の事故を山下副社長が仕掛けた理由は何でしょうか?」
「おそらく、融資に関わる不正に加担した事を悔いて・・それを止めようと考えたんだと思う。」
「八木頭取に脅されたという事でしょうか?」
「・・・脅されたのかとうかは・・だが、何か弱みを握られたんだろう。・・だが、上総CSを守る為に・・・いや、自らの罪を悔いて事故を起したんじゃないだろうか?・・ひょっとしたら自分は死ぬつもりだったのかもしれない・・。」
ミカは再び考え込んだ。
「では・・・マリン事業部の強盗や如月さんのマンションの爆発にはどう関係しているんでしょう?」
「マリン事業部の強盗は、融資に関わる不正の証拠を失くす為でしょう。・・如月さんのマンションの件は判りません。・・ひょっとしたら、如月さんは山下副社長の不正の証拠とか・・・会長の事故の証拠とか・・そうしたものを集めていたのかもしれません。それならば、全てを燃やしてしまえばと考えたんじゃないかな・・・。」
再び、ミカは黙り込んで考える。
「しかし・・・山下副社長は、自由の利かないお体です。自分で仕掛ける事などできません。・・」
「ええ・・誰か協力者が居るんでしょう。・・それを確かめる為にも、山下副社長のところへ行くんです。きっと何か重要な秘密があるはずです。」
ミカとの会話を通じて、純一は、改めて、山下副社長が全ての中心人物だという確信を深めた。

砂浜にボートが乗り上がり、二人はすぐに海岸沿いの国道へ出た。街の明かりが遠くに見える。
「ここからは歩いていくしかなさそうだな。」
二人は、国道に沿って街を目指した。
「社長、すぐに向かわれますか?」
「え?・・何か考えでも?」
「ええ・・・夕食がまだでしょう。・・腹が減っては・・と言いますから、実は、この近くに私のアパートがあるんです。車も置いていますから・・・。ミホさんの事は心配でしょうが・・・社長がおっしゃるとおりならば、如月さんはきっとミホさんを守る為にさらったとも思いますし・・きっとご無事でしょう。」
ミカの言葉に、純一は先ほどからざわざわとした胸の中が少し落ち着いた気分がした。
ミカの案内で、海岸沿いの国道から、山手の方に道を取り、民家が立ち並ぶ街へ入った。田舎町である。夜ともなれば歩いている人もない。
「さあ、ここです。・・・実は、いずれはきっと呼び戻してもらえるはずと信じて、ミサと二人でアパートを借りていたんです。」
アパートはかなり古く、外階段は一歩上がるたびにギシギシと音を立てた。2階の突き当たりの角部屋が彼女たちの部屋だった。
部屋の中はがらんとしていた。冷蔵庫と小さな衣装ケースが数個、布団はたたんで積上げられていた。仮の住まいだという風情が嫌にも感じられる。
「ちょっと待っていてください。近くの店で何か買ってきますから・・・。」
ミカはそういうと部屋から出て行った。
彼女たちはどんな思いでここにいたのだろう。部屋の中を見回しながら、純一はふと部屋の隅に置かれたアルバムを見つけた。

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