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2-33 アルバム [スパイラル第2部遺言]

2-33 アルバム
純一は、そっとアルバムを取り上げると中を開いてみた。
島で写したものなのか、ミカやミサが笑顔を振りまいた写真が数枚あった。洋一が写したのだろうか、屈託の無い笑顔でミカが笑っているものが多かった。
「おや?これは・・・。」
真ん中に少し白髪交じりの男が椅子に座っている。そして、取り巻くように女性が三人。ミカとミサはわかった。そして、もう一人の女性・・・
「ミホ・・・。」
よく似ていると聞いていたが、純一にはどう見ても同一人物に見えた。長い髪で今より少しふっくらとしている。じっくりとその女性を見つめた。どこか違うところは無いかと言う思いだった。しかし、左目の下にあるほくろまで一緒だった。
「間違いない・・・・きっと、ミホは秘書だったに違いない・・・・。」

「済みません・・遅くなりました。すぐに食事に・・・。」
ミカがアパートのドアを開けて入ってきた。純一がアルバムを開いているのに気付いた。そして、純一が見つめている写真に、ミホが写っている事に気付くと、全てを察したようにミカが言った。
「ご覧になったんですね・・・。」
純一が振り返ると、ミカが眉間に皺を寄せて、困った表情をしていた。
「やはり・・・・ミホは・・・秘書のミホさんと同一人物なんだね・・・・。」
ミカは小さく頷いた。
「いつから気付いていたんですか?」
ミカは小さく溜息をつき、観念したような口調で話し始めた。
「初めてお会いした時から・・きっと同一人物だろうと・・・似ているというには余りにも・・・でも、彼女は行方不明のままでしたし・・・・あれから、私たちも万一の事があってはいけないと相談し、手元の写真と比べたり・・・・DNA鑑定もお願いしたりしました。・・・間違いなくあの、ミホさんでした。」
純一は混乱していた。余りにも偶然が重なりすぎている。誰かが意図的に・・しかし・・・そういうつながりがまったく見えなかった。
「ミホは・・・記憶を失っています。自分が誰かわからないまま・・・こんなことに巻き込んでしまってすまないと思いつつ、ここまで連れて来たんです。しかし・・・。」
どう説明すべきなのか、何がどうなっているのか、純一は混乱したままだった。そして、最初に抱えていた大きな疑問、何故自分が上総CSの相続人に指名されたのかが浮かんできた。
「僕が相続人に指名されていたのは・・英一社長の遺言状だったんですよね。」
「ええ・・そう聞いています。私設の弁護人が遺言状を持って現れたとお聞きしました。」
「その遺言状は本物でしょうか?」
「どういうことでしょう?」
「いや・・・ミホが私のところへ来た・・いや・・浜辺で倒れているミホを見つけた後で、誰かが遺言状を捏造し、ミホをここへ連れて来るのが本当の目的だったんじゃないかって・・・。」
「いえ・・・英一社長の事故の後、すぐだったと思います。それに、遺言状は裁判所の証明もありましたし・・・目の前で封が開けられたとお聞きしました。捏造されたものではないでしょう。」
「遺言状の中身が正統なものなら・・・ミホを僕の元へ連れて来た人物がいるということでしょうか?」
「おそらく・・・。」
「一体、何のために?・・・山下副社長が画策したことでしょうか?」
「判りません・・・」
ミカとの会話で疑問が晴れるとは純一も考えていなかった。ただ、この事態に何をどう整理していけばいいのか、模索しているのだった。
「社長・・・まずは、山下副社長の件を解決することが大事でしょう。・・一つ一つ、ほぐしていけばきっとミホさんが社長の下へ行った理由も判るでしょう。」
ミカは精一杯の言葉を発した。
純一も同意した。ミカはすぐに夕食を作った。そして、アパートに停めてあった車で本社へ向かった。

途中、マリン事業部のあるマリーナを通過した。もう強盗事件の調べは一段落のようで、パトカーが一台停まっていて、周辺の警護のために警官が数人いる程度だった。事務所の中には灯りがついていて、マリン事業部の担当達が事務所の中を整理しているのが遠目に確認できた。

本社が見える場所に近づくと、ミカは正面ではなく、裏手の道に車を向けた。本社ビルの前は、海岸までの間に公園が広がっていた。裏手には、昔からの民家が立ち並んでいる。
ミカは、道路の端に車を停めた。
「ここから歩いて裏口へ入ります。」
民家の軒先を抜けるように、裏道があった。まるで迷路のような狭い道を抜けると、高い塀に突き当たる。上総CSのビルを取り囲む塀だった。それぞれの門には監視カメラがある。
「こっちです。」
ミカは、一軒の民家の裏口へ向かうと、古い木戸を開ける。
「無人ですから・・大丈夫です。」
木戸を開け、民家の中庭へ回ると、そこには鉄扉があった。それほど古くはなさそうだった。
「これは?」
「会長が作らせたものです。・・・正面以外にはは入口はありませんでしたが、万一の事を考えて作らせたと・・・この民家も会長が買い取られて・・・。」
そう言いながらミカが鍵を開け、中に入った。そこは塀に張り付くように作られた倉庫だった。倉庫の中には地下へ続く道が作られていて、そのまま本社ビルの中に入り込めた。
「ここから最上階までは。階段か・・。」
「ええ、裏の階段には監視カメラはついていません。」
そう言うと、階段のドアを開けた。
「あら?・・・・」
「どうしたんだ?」
「いえ・・この階段は私たちくらいしか知らないはずです。ほとんど使う事は無かったんですが・・ここを・・。」
指さす先には、足跡が残されていた。少なくとも数人の足跡だった。大きな靴跡もあれば、小さいものもある。
「ここを使っている人が居るのは間違いなさそうだね。」
「ええ・・・。でも、ここから行ける場所は、社長室と副社長室くらいしかないんです。」
二人は周囲の様子に神経を尖らせながら、階段を上って行った。

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