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2-30 如月の行方 [スパイラル第2部遺言]

2-30 如月の行方
「現金を奪うのが目的ではなく、その古い記録が目的だったってことはないでしょうか?」
ミホが純一に言った。
「古い記録が目的?一体何のために・・・。」
「ミカさん、クルーザーの建造で多額の融資を受けた事はありませんでしたか?」
ミホは妙に落ち着いた口調でミカに訊いた。
「ええ・・・確かに・・・当時、我が社の資産はそれほど大きくなく、資金繰りも厳しかったものですから、クルーザー建造資金には多額の融資を必要としていました。オーナーが八木頭取と言う事もあり、三河銀行から多額の融資を受け、完成すれば八木頭取から代金をいただくことで相殺できる予定でした。銀行側も抵抗無く融資してくださいました。」
「その時、経理は山下副社長ですよね。」
「ええ・・担当から部長へ昇進されたばかりで、この件では会長から全権委任されておられましたから・・・。」
ミカが答えると、ミホが、更に訊いた。
「事故が起きて引き渡せなくなった後、代金や融資はどうなったの?」
「もちろん、船をお渡しできない以上代金を受け取るわけには行きません。融資の返済も出来ない状態で、会長は亡くなり経理の山下さんも瀕死の重傷でした。英一社長をはじめ、社員全員が倒産を覚悟しました。・・しかし・・・八木頭取は、銀行の役員を説得くださって、融資の返済を猶予してくださったんです。・・・山下副社長が瀕死の状態にもありましたから・・・情を掛けていただいたというか・・・。お陰で我が社は何とか倒産を免れることができました。我が社には大恩人です。」
そこまでの話を聞いて純一が言った。
「まさか・・ミホ・・・それが・・・。」
「ええ・・・全て、それが仕組まれたものだとしたらどうでしょう。必要以上に多額の融資があったんじゃないかって、その一部は八木頭取が着服・・あるいは流用しているとしたら・・。」
「そんな・・あの方に限って・・そのような・・・。」
ミカは否定的だった。
「上総CSが受けた融資額や使途を全て調べてみる必要があるんじゃないでしょうか?」
ミホは確信に満ちた口調で言った。
純一がミカに尋ねた。
「八木頭取は、今はどこに?」
「あの事故から半年ほどで体調を崩されて亡くなったとお聞きしました。」
ミカが答えた。
「では、全てを知っているのは山下副社長だけなんですね。」
「ひょっとしたら・・如月さんも何かご存知なのかもしれません。・・・如月さんは、山下副社長が復帰されるまでの2年間、融資に関して担当をされていましたから・・・・。」
「どうやら・・・融資と事故に何らかの関連があるようですね・・・。」
純一はそういうと、天井を見上げた。
「仮説ばかり立てていても仕方ありません・・・如月さんに会いに行きましょう。如月さんはどちらに?」
純一が言うと、操縦席にいた洋一が答えた。
「ここには如月さんのボートがありませんから・・きっと、マンションか本社でしょう。すぐクルーザーを本社の近くの港に回します。」
クルーザーはゆっくりとマリーナを離れた。如月の住むマンションと本社の近くには、小さな漁港があった。通常、プレジャーボートの類は、マリーナに停泊させるのだが、本社の近くとあって、漁港の許可も取って、船着場を作っていた。すぐにクルーザーは船道を通って、港に入った。
「あれが如月さんのボートです。」
操縦席から洋一が告げる。ゆっくりとボートに近づいて様子を伺ったが、人影は見えなかった。ミホもキャビンからそのボートを見た。急に動悸が激しくなって気分が悪くなった。
「うう・・。」
思わずソファに蹲った。純一はミホの異変に気づいた。
「どうした_気分が悪いのか?」
「ええ・・・船酔いかしら・・・・。」
「島にずっといたからな・・・ミホはここで休んでいればいい・・・。」
クルーザーが接岸すると、ミカの案内で、純一は、如月のマンションへ向かった。
港から歩いて僅かのところに、如月の高層マンションはあった。
玄関エントランスで、如月の部屋番号を押して呼び出してみたものの、返答はない。
「やはり戻っていないのか・・・。」
ミカが、携帯で連絡を取ろうとした。しかし、電源が入っていない様子で繋がらない。すぐにミカは島にいるミサに連絡した。
「如月さんの居場所を探して!」
すぐにミサから返答があった。
「携帯電話はマンションにあるみたいよ。・・・でも、全く動いていないようだから部屋においてあるのかも。電源が切れているみたい。」
「マンションの様子を探って?」
二人は妙な会話をしているようだった。純一は不思議に感じてミカに尋ねた。
「何をしているんだい?」
ミカは少し迷った顔をしたが、社長になら説明しても構わないと決断した。
「・・・これは・・・英一社長にもお話していなかったんですけれど・・・実は、如月さんが社長の身辺警護のために、私達を雇われていたんです。私達は、情報収集のための・・・・特殊な訓練を受けています。・・・秘書室にはそのための機材もあります。もちろん、社長のため以外には使いません。」
そんなSFめいた世界が存在しているのかと純一は驚いたが、すでにあの島での体験は充分に常識を超えていた。余りに平然と過ごしてきたが、こうやって外の世界に出てみるとやはり異様な世界にいたのだと気づかされる。
「部屋の中には誰も居ない様子だわ。・・・・いや・・・何か・・え?・・・何これ?」
ミサの声が携帯電話越しにも聞こえる。
「どうしたの!」
ミカがミサに問いかけると同時に、頭上でドカンと大きな音がした。同時に、ジリリとけたたましい警報が鳴り響いた。慌てて、マンションのエントランスを出て外を見た。マンションの最上階の窓から黒煙が立ち昇っている。
「如月さんの部屋?・・・ミサ、どう?」
ミカの問いかけにミサが答えた。
「ええ・・・どうもそうみたい。・・ガス漏れかしら・・・でも、部屋は無人だったはず。どうして?」
すぐに遠くから消防車のサイレンが響くのが聞こえた。

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