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2-29 強盗事件 [スパイラル第2部遺言]

2-29 強盗事件
「さっきの話し・・・八木頭取と山下さんの間には何かトラブルがあったんでしょうか?」
純一が訊くと、秘書のミカが答えた。
「もともと、クルーザーの話は、山下副社長が経理担当だった時に、八木頭取から持ち込まれたものでした。・・八木頭取が山下副社長の経理の仕事ぶりを感心されて、随分、気に入っておられたようです。山下副社長は会長からも評価をされて、受注後すぐに経理部長に昇進されました。・・トラブルがあったという記録は見当たりませんね。」
「しかし・・里美さんの話だと、何か深刻なことがあったようなんだけどな・・・。」
純一の言葉に続いて、里美も言った。
「あれは、どう見ても、八木頭取に山下さんが何か要求されたみたいだったわ。それが何かは判らないけど・・・。」
「八木頭取に娘さんとか居ないの?娘の幸せを考えて、将来有望な男に嫁がせようと・・・よくある話しじゃない。・・」
敬子が少し皮肉をこめて言った。
「いえ・・八木頭取はご長男が居られますが、すでに三河銀行の役員でした。・・それに、頭取の娘がいらっしゃるなら、山下さんこそ逆玉でしょうから、断る理由はないでしょう。」
ミカは冷静な声で妙に下世話な評価をしてみせた。
「副社長に訊けばいいじゃない・・。」
敬子が気楽な調子で言った。
「しかし・・・何らかのトラブルがあったとしても、それが事故と関係があるのかも判りませんし・・・それよりも、如月さんが何故、事故の原因を知っていたのかのほうが重要でしょう。誰かに聞いたのか、それともやはり事故に関係しているのか・・やはり、鍵を握っているのは如月さんのようです。」
純一は、やはり如月が何らかの形に会長の事故に関わっているのだと考えていた。
「では、明日にも如月さんを呼びましょうか?」
ミカが言うと、純一は少し考えてから、
「こちらから出向きましょう。本社の副社長にも会ってみたいですし・・・ずっとここに居てあれこれ考えているより、少し、会社の様子も見ておきたいんです。」
「では、明日、朝食後に船を出しましょう。」
洋一が答えた。
その夜のことだった。ラボから何か低い振動音のようなものがしばらくの間響いていた。

翌朝、食事を終え、一同がクルーザーに乗り込んだ。出航して暫くすると、島に留守番で残ったミサからミカの携帯に連絡が入った。
「マリン事業部で事件のようです。・・・強盗に入られて・・・伊藤部長が重傷との事です。」
ミカの報告に、一同がどよめいた。
「いい気味よ・・きっと・・私を裏切った罰だわ。」
敬子はそう言いながらも、表情は青ざめていた。
マリーナにクルーザーが着くと、すでにマリン事業部には数台のパトカーが止まって、建物の周囲に立ち入り禁止のテープが張り巡らされていた。
「すぐに様子を見てまいります。」
ミカはクルーザーが接岸すると、飛び降りて事業部へ向かった。そして、程なくして戻って来た。
「今朝方、強盗に入られたようです。金庫にあった百万円ほどの現金が盗られたようです。伊藤部長は、昨夜は事務所に泊まっておられた様で、おそらく物音に気付いて、強盗に襲われたのではないかとの事です。全身の打撲と刺し傷で意識不明のようです。」
ミカの報告に、敬子がワッと言って泣き崩れた。
敬二郎が一歩前に進み出て、純一に言った。
「ここは私の出番でしょう。新聞社がいろいろと調べ始め、横領の件や、英一社長の自殺の件、いろいろとおかしな話をでっち上げ誹謗中傷も出るはずです。会長の事故も改めて問いただす事もあるかもしれない。このままでは、上総CSは破綻する。何としても、そういうことにならないよう、丁寧に対応しなければなりせん。・・・任せてください。伊達に歳を重ねてきたわけではありません。地元の新聞社にも知り合いは多い。事を荒立てないよう始末をつけます。」
「わかりました。よろしくお願いします。・・・・里美さん、敬子さんをすぐに病院へ。さあ、すぐに。」
里美は敬子の肩を抱くようにして、港においていた自分の車に乗せ、すぐに病院へ向かった。
敬二郎は、すぐにマリン事業部へ向かった。社員の一人が敬二郎を見つけ、駆け寄ってきた。敬二郎は、その社員の方を叩き、任せておけというような態度を見せ、捜査員たちの下へ向かった。
純一とミホは一旦クルーザーへ戻った。
クルーザーに備え付けられていたテレビをつけると、地元のテレビ局が強盗事件の報道映像を流していた。事務所の周りには、カメラマンや記者が集まり、中の様子を伺っているようだった。テレビのアナウンサーは、映像を見ながら、強盗事件の顛末を端的に説明していた。
「こちらのモニターをご覧下さい。」
ミカががキャビンに居る純一にもう一つのモニターを見るように勧めた。事務所の中の映像だった。
「これは?」
「事務所の中の防犯カメラの映像をこちらに転送しました。強盗の入った時間には切られていたみたいですが・・・」
純一とミホは事務所内の映像を見た。たくさんの捜査員があちこちの写真を撮ったり、指紋採取や遺留品の捜索をしているようだった。
「金庫は部長の机の後ろ・・ああ・・これです。・・・・こじ開けた様子はありませんから・・伊藤部長が脅されて開けたのでしょう。・・・今日の支払い用に100万円程の現金はあったようですが・・・。」
防犯カメラは、手元の操作で動かせる。ゆっくりと事務所の様子を映し出していく。
「・・強盗にしては・・少し・・事務所の中が荒らされ過ぎているみたいですね・・・。」
ミホがポツリと言った。
「ああ・・・現金を盗るためだけなら、ここまで荒らす必要はなさそうだが・・・・」
画面には、書棚が一つ倒れているのが見える。そのために、収まっていた書類がそこら中に散らばっていた。そう言われて、ミカは防犯カメラの倍率を上げ、じっと画面を睨んだ。そして、携帯を取り出して誰かに電話をした。
「ああ・・私、ミカです。・・あなた、今どこ?・・・ああそう・・・・ねえ、事務所の中の倒れている書棚には何がはいっていたか判る?・・・・・ああ・・そう・・・そうなの・・・・ありがとう。」
電話を切るとミカが言った。
「今、マリン事業部の社員に聞きました。・・倒れていた棚には古い経理の記録が入っていたそうです。」
「古い経理記録?」純一が聞き返した。
「ええ・・ただ・・散らばっていて良く判らないそうです。ここ数年は、例の佐橋玲子が経理担当でしたから、管理は彼女に任されていたようです。」

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