SSブログ

2-38 脅しのメール [スパイラル第2部遺言]

2-38 脅しのメール
本社玄関に出ると、常務が玄関脇の受付の席で座ったまま眠っていた。
マリーナの事件の対応でそのまま疲れて眠ったのだろう。純一とミカがエレベーターで降りて来た音に気付いて目が覚めたようだった。
「社長!どちらに居られたのですか?」
「副社長に会いたくて、昨夜のうちに来たんです。それより、ご苦労様でした。大変だったでしょう。」
「いやあ・・・・大した事はありません。・・ほとんど、若造ばかりですから・・・それより、伊藤の奴は何とか命を繋いだみたいです。・・早く犯人を捕まれば静かになるんでしょうが・・・。」
「その件ですが・・・・どうやら、彼の自作自演のようです。例の横領問題でやけになって、自殺しようとしたらしいんですよ。」
「まさか!あいつが自殺なんて・・・そんな、やわな奴じゃありませんよ。・・??」
信じようとしない常務に、純一は言った。
「詳細な事は副社長に聞いてください。・・・佐橋玲子も副社長室に居ますから・・・。警察へも社の不始末が漏れないよう、あなたから事情説明をしてください。」
「判りました。」
「ひとつ、伺いたいことがあるんですが・・・。」
純一はふと思いついたことがあった。
「常務のところに、不審なメールは来ませんでしたか?・・・そう・・あなたを脅すメールです。」
それを聞いて、常務の顔色が変わり、急に落ち着かない様子になった。
「何か、あったんですね?・・・正直に答えてください。」
常務は観念したように口を開いた。
「・・・社長が亡くなる十日ほど前でした。・・佐橋玲子との関係をばらすというメールでした。」
「佐橋玲子?」
ミカが脇に居て驚いた表情で言った。
「ええ・・・もともと、佐橋玲子は、私のよく行くバーに新人で入った女の子でした。ちょっと間が刺したと言うか・・・数回ほど相手を・・そのあと、私が口をきいて、マリン事業部に入れたのです。その証拠写真・・・ええ、浮気の証拠写真があると言って・・・。」
「何を強要されたのですか?」
純一は呆れたように訊いた。
「最初は相手にしなかったんですが・・しつこく送られてきて・・・仕方なく・・・いや・・あんな事になるとは思っていませんでした。・・・例の、社長が使われた新造のボートに少し細工をしたんです。燃料タンクを少しいじりました。・・・メールの主は、ライバルの会社か何かだろうと・・新造船に不具合が見つかれば、マリン事業部はもはや存続できないくらいのダメージになる。・・まあ、今更、マリン事業部が隆盛を取り戻すとも思えませんでしたから・・・すみませんでした。まさか、あれに社長が乗られるなんて思っていませんでしたから・・・。」
常務の告白は驚くべき事だった。これで社長が自殺でない事は明白になった。しかし、何故、英一社長がボートに乗ったのかが謎のままだった。
「奥様や敬子さんにもメールが届いているのじゃないでしょうか?」
「ええ・・妻にはメールが届いたのは知っています。相談されましたから・・・。」
「どんなメールでしたか?」
「そ・・それは・・・。」
常務は躊躇していた。おそらく、かなり深刻な内容に違いなかった。
「一体、どういう内容だったんですか?」
純一は強く迫った。
「・・妻は、資産運用に関わるメールでした。・・実は、少し前から海外投資をしているんですが・・ちょっと資金ショートした事がありました。その時、妻が文化事業部の資金を流用してしまったんです。損失は出していませんでした。短期の借用のつもりでした。その事を新聞社にばらすというメールだったんです。」
「それでどうしたんです?」
常務は苦渋の表情を浮かべていた。
「もう全てを話してください。」
「・・メールは、法外な金の要求でした。金が用意できないなら、社長を指定の場所に連れて来いというものでした。・・・きっと、メールの主が社長に要求するつもりだと思っていました。」
「それで?」
「・・・社長の事故の二日前でした。文化事業部の祝賀パーティと称して、社長にお越しいただくように連絡しました。しかし、指定の場所にはミホが現れました。きっと社長の代理のつもりだったんでしょう。」
「その後は?」
「判りません。その後の消息が掴めないままで・・・ひょっとしたら、他の誰かに殺されたんじゃないかって思っていました。・・ひょっとしたら、如月かもしれません。あいつは以前からミホの事を気にしていましたから・・・。」
「なんてことを・・・・。」
常務の話を聞き、ミカが憤慨するように言った。
「敬子さんは何かメールを受け取っていませんでしたか?」
「判りません・・・私には何も相談はありませんでしたから・・・。」
常務は力なく答えた。
「では、英一社長も誰かに呼び出されたということはないでしょうか?」
それにはミカが答えた。
「事故の前日、相当、困った様子で・・・本社に行かなければとおっしゃっていました。」
「よほどの事態があったのだろうが・・・一体、何があったんだろう。・・・本当に、ここには来なかったんだろうか?・・・山下副社長にもう少し話を聞いたほうが良さそうだな・・・・。」
純一は、山下の様子を思い出しながら呟いた。

純一とミカが、エレベーターへ向かおうとした時、エレベーターが下りてきて、ドアが開いた。
エレベーターからは、佐藤文子(佐橋玲子)が、青ざめた表情で出てきた。
「山下さんが・・・山下さんが・・・。」
エレベーターから出てきた文子(玲子)は、純一の姿を見つけると、悲鳴のように叫び、駆け寄ってきた。その様子から、山下の身に何かが起きたのはすぐに判った。
「ミカさん!」
すぐにミカがエレベーターに飛び乗って、副社長室に向かった。純一は常務に、すぐに救急車を呼びように指示した。


nice!(6)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 6

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0