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2-39 山下副社長 [スパイラル第2部遺言]

2-39 山下副社長
「文子さん、落ち着いて下さい。何があったのか話してください。」
純一は文子を落ち着かせるように肩を抱き訊いた。
「判りません・・・・今まで秘密にしてきたことを打ち明け・・これから二人でどうやって生きていこうかと話していたんです。・・もう、上総CSに居るわけにもいかないだろうって・・・そしたら、山下さんは、せめてもの罪滅ぼしにと・・これまでの経緯をまとめ始めたんです。・・・脅迫メールも保存されていたものを探して・・・でも、突然、痙攣を起して・・・呼吸が止まってしまって・・・車椅子の後ろの機械から警告音のようなものが響いたんです・・・・。」
純一は文子を連れて再び副社長室に戻った。
ミカが、山下を椅子から降ろして、人工呼吸をしていた。
「副社長!しっかりしてください!死なないで!」
そう叫びながら、必死に人工呼吸を続けた。
程なく、常務が、救急隊員を連れて副社長室にやって来て、山下を担架に乗せて、出て行った。常務と文子も一緒に救急車に乗り込み、病院へ向かった。

純一とミカは、副社長室に残った。
「人工呼吸器が突然止まったようです。・・・サブシステムもあるようですが・・それも停止したままでした。・・変です・・・命を守る大事な機械ですし、メンテナンスもしていたはずです。・・見た範囲では誰かが細工をした様子もありません・・・でも・・偶然とも思えませんが・・・・・・。」
ミカが、山下の車椅子の生命維持装置を点検しながら、そう言った。
純一がデスクの上を見ると、山下の使っていたパソコン画面が開いたままだった。文子が言うとおり、これまでの経緯をまとめていたのだろう。幾つかのフォルダーが開いている。
純一がそのフォルダーを見ていると、ファイルの一つが削除された。
「おや?」
他のフォルダーも開こうとすると、次々に削除され始めたのだった。それはあっという間だった。まるでどこからか遠隔操作をされているように、次々にファイルは削除され、最後には、シャットダウンしてしまった。
「ミカさん・・・その人工呼吸器は・・どこかでネットに繋がっていませんか?」
純一が振り返って、ミカに尋ねた。
「ええ・・・山下副社長の体調管理のために、血圧や心拍数などを計測してデータ管理されているようです。・・・あら?・・でも・・・。」
ミカは、人工呼吸器の小さなモニターを見て驚いた。エラー表示が出ていたのだ。ミカは幾つかのスイッチを触って、モニターに保存データを呼び出そうと試みた。
「変です・・・データが消去されています・・・どうして?・・・社長、これは故障なんかじゃありません。誰かが、遠隔操作しているんです。・・・そんな・・・。」
「やはり・・・どこかで誰かがここを見張っています。そして、都合が悪くなると操作しているんです。きっと、そいつが脅迫メールの主です。上総CSの役員を手玉に取り、破壊しようと企んでいるに違いない。・・・」
「まさか、如月さんが?」
「いえ・・違うでしょう。・・・彼がそんな事をする理由がありません。・・・きっと、如月さんも脅迫メールを受け取っているはずです。ひょっとしたら、マンションの爆破事故もその一つだったのかもしれません。・・如月さんが脅迫メールの指示に従わないから、実力行使に出たんじゃないでしょうか?」
「しかし・・・もう、如月さんは、ミホさんを誘拐しています。もし、如月さんが全ての首謀者で、上総CSを手中にしたいなら、ミホさんを誘拐し、社長を脅す事ができます。上総CSの全てを譲渡しろと迫ってくる事はないのでしょうか?」
ミカの考えも一応筋は通っていた。
「いや、きっとそうじゃないでしょう。・・・如月さんと最初に会った時、僕は、相続権を放棄すると申し出たんです。でも、それは困ると如月さんは止めたんです。・・あの時、相続権放棄をしていれば、後は、役員を一人ずつ追放すればいい話です。第一、役員会で彼はそういう提案をしています。」
「では一体誰が?」
「判りません。・・・とにかく、一度、島へ戻りましょう。」
純一は、副社長室を出る時、ちらりと天井を見上げた。天井には、監視カメラが作動していた。

ミカは洋一に、クルーザーで港に迎えに来るように連絡をした。
そこへ、常務から携帯へ連絡が入った。
「副社長は、亡くなられました。」
ミカが、呟くように純一に告げた。
「ミカさん、常務に皆の身を守るように伝えて下さい。・・これ以上、犠牲者を出してはいけない。」

クルーザーが島へ到着した。
純一はすぐに邸宅へ戻った。
「お帰りなさいませ。」
ミサが玄関で待っていた。
「如月さんの行方は掴めましたか?」
「いえ・・・ただ、一度だけ、連絡がありました。・・・ミホさんは無事だから心配は要らないと・・・。」
「居場所は?」
「発信源を特定しようとしましたが・・・無理でした。」
「そうですか・・・。」
「すみません・・・。」
「いえ・・如月さんも、居場所が判らないように考えて連絡をしたんでしょう。・・・ああ・・・そうだ・・ミサさん、前に指示した英一社長の行動記録は出来ましたか?」
「はい。」
純一は、リビングのソファに座り、ミサにデータを写す様に指示した。
「英一社長が困った様子だった10日ほどからの記録です。・・・ほとんど、ラボにいらっしゃいました。島の外へ出られたのは、亡くなった日の朝でした。洋一さんがクルーザーで、本社前の港まで送っています。」
「その頃の社長宛のメールとか電話はありませんでしたか?」
「メールですか?」
「ええ・・・役員の皆が脅迫メールを受け取っているんです。英一社長も何かメールを受け取っていないかと思って・・・。」
「メールの記録はわかりません。・・・サーバーへのアクセス権がありませんから・・・。」
「内容がわからないとしても通信ログは取れませんか?」
ミサは、純一の指示がわからないような表情をした。

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