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2-40 ラボの中へ [スパイラル第2部遺言]

2-40 ラボの中へ
ミカがミサの手からパームトップのパソコンを取り上げ、すぐにサーバーへアクセスした。
「通信ログには、如月さんへ1回送信がありますね。英一社長が発信されています。」
「メールを受け取った記録は?」
「いえ・・ありません。」
「そうですか・・・・。」

純一は、ミサがまとめた英一の行動記録を眺めながら、これまでの事を思い出し、頭の中で整理しようとした。しかし、何だかぼんやりとして思うように頭が働かない。
その様子にミカが思い余ったように言った。
「社長・・昨夜から一睡もされておられません。・・少し、お休みになられたほうが・・・。」
「ああ・・・そうですね。・・」
ミカは毛布を一枚持ってきた。純一は暫くソファで横になることにした。

純一は、ぼんやりとメールの主の事を考えながら、浅い眠りの中にいて、時々、遠くで、ミカとミサの話し声が聞こえるような気がした。

純一は夢を見た。
ミホを見つけた海岸、自分の車のシートで浅い眠りの中、ぼんやりとした意識、何か遠くで音がして目が覚める。車のライトを点灯すると、白い塊が横たわっている。
「ミホ!」
思わず身を起こしたところで、目が覚めた。

「そうか・・・そうだったんだ。・・・ミホはあそこまでボートで連れてこられたんだ。・・目が覚めたのもボートの音が聞こえたからだったんだ。」
純一は、ミホを発見した時、目の前に横たわる女性の様子に気が動転して、その前の状況を思い出せなかった。しかし、今、その時の様子を思い出したのだった。
「ミホは・・・きっと・・・。」
純一はそう小さく呟くとソファーから立ち上がった。
ミカが純一に気づいた。
「もう起きられたのですか?まだ30分も経っていませんよ?」
「ああ・・もう大丈夫だ。・・・それより、英一社長は、最後の日には一人で出かけたのかい?」
ミカは少し考えたから答えた。
「いえ・・・ミホさんが戻られない事もあって・・・ミサも同行させました。英一社長は少し体調が優れない様子だったので、心配でしたので・・・。」
「じゃあ、ミサさんはどこまで社長と一緒だったんですか?」
ミカはすぐにミサを呼んだ。
ミサは、顔を伏せ躊躇いがちに答える。
「警察の方にも・・随分・・厳しく問われましたが・・・・実は、社長は船を降りたあと、私に本社へ行くように指示されたんです。社長から離れるのは少し不安でしたが・・・社長の命令では・・仕方ありませんでした。」
「本社では何を?」
「如月さんへ渡すものを頼まれました。急ぎだと言われました。・・小さな箱でした。」
そう言いながら、ミサは指で大きさを示した。
「中身は?」
「判りませんが・・・おそらく、USBメモリーじゃないでしょうか?・・・すぐに如月さんのマンションへ行きましたが、不在でした。携帯にも連絡をしましたが、通じませんでした。・・・後で聞いたのですが、ちょうど、訴訟の案件で裁判所に行かれていたそうです。・・・英一社長からは必ず手渡して、すぐに見て欲しいとの伝言がありましたから、如月さんが戻られるまでマンションの近くの喫茶店で待っていました。」
「英一社長は?」
純一が尋ねると、ミカが答えた。
「洋一さんの話では、その後、本社に向かわれるところまでは確認したそうです。・・しかし・・本社には姿を見せられず・・あの事故が起きたんです。」
「船を降りてから、マリーナまで・・・歩いていける距離ではないですね。」
「ええ・・・タクシーか、あるいは誰かが載せていったのかと、私たちも調べてみましたが、地元のタクシー会社へ問い合せましたが、社長がタクシーを使われた形跡はありませんでした。」
ミカが答える。
「では、誰かが英一社長をマリーナまで連れて行ったことになる。それが誰かわかれば、自殺かどうかはっきりするんだが・・・。役員以外で、社長と会う可能性がある人はいませんか?」
ミカとミサは顔を見合わせ、考えた。
「英一社長は・・それほど社交的なお方ではありませんでした。特に、ミホさんが来てからは・・・社の用事以外では余り他人と会われることもありませんでしたから・・・。」
ミカが答えた。それを聞いて、ミサが思い出したように言った。
「そう言えば・・・随分、以前ですが・・・・・役員以外の方が・・・一人だけこの島へ来られたことがありました。」
「誰です?」
「三河銀行の八木頭取のご子息で・・・ええと・・・確か、今は・・・・。」
ミサはそう言いながらパームトップパソコンを叩いて、データを取り出していた。
「・・・YMカンパニーの社長の八木健一様です。・・・エンジン開発の小さな会社のようですね。確か、仕事のお話で何度も面会の依頼があった方です。・・・普段は、そういうお話は如月さんか山下副社長が対応するんですが・・・八木健一様は英一社長自らお会いしようとおっしゃいました。・・ですが・・・島に来られて、ほんの少しお話をされただけですぐにお帰りになられました。」
「その時、社長の様子は?」
「・・特には・・・エンジンの売り込みだったが、目新しいものじゃないから不成立だったと一言おっしゃったきりでした。・・その後は特には連絡もなかったと思います。」
ミサは少しずつ思い出すように話した。
「八木頭取と山下副社長の融資流用の件と何か関連がないだろうか?」
純一がふと漏らした言葉にミカが反応した。
「・・・ひょっとして・・エンジンの売り込みじゃなくて融資の申し入れ・・いや・・過去の問題をネタに強請に来たのでしょうか?」
「それを断ったことに恨みを抱いて・・社長を・・・そんな・・・。」
ミサが悲しい表情を浮かべて言った。

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