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2-41 メビウスに問う [スパイラル第2部遺言]

2-41 メビウスに問う
「いや、そんな単純な話とは思えない。・・覆面メールを役員殆どに送りつけているんだ。八木健一氏がどんな方か判らないが・・・父の悪事をネタに強請るというのもちょっと変だ・・・・むしろ、そういう事実を隠したいはずだろうから・・・・。」
純一は、どうにも英一社長の死の真相に迫れない事にジレンマを感じて始めていた。ミホの行方もわからない。メールの主の目星もつかない。
「ラボに行ってくる。」
純一は、今一度、メビウスの記憶を確認しようと考えた。
古い記憶ならばきっとメビウスの中にあるに違いない。冷却装置を万全にしてやれば、正常に起動してくれるかもしれない。一縷の望みを抱いて、純一はラボへ降りた。

純一は、ラボに入るとすぐにカプセルの後ろのスイッチを押して、地下への入口をあけた。そして階段を下り、メビウス本体の前に立った。
メビウス本体が入っている水槽には3分の1ほど冷却水が入っていた。壁のバルブを回し、冷却水を勢いよく出した。すぐに、水槽の中は冷却水が満水状態となり、水槽上部から溢れ流れた。
メビウスの色がぼんやりとオレンジ色を放った。
それから、ラボへ戻り、通路脇にある電源室へ行き、すべての回路をメビウスに接続した。
「山下副社長は、電力は必要としないと言っていたが・・・一応、電源が落ちないようにしておこう。」
純一は一連の作業を終えると、カプセルのところに行き、そっとカバーを開いた。

純一は、確信はないが、ひとつの仮説を持っていた。そして、その仮説が正しければ自らも命を落とすかもしれないと考えていた。しかし、真相を突き止めることが今の自分の果たすべき事なのだと決意して、ゆっくりとカプセルのシートに座った。
ゆっくりとカバーが閉じていく。
純一は、深呼吸を一つして言った。
「メビウス、尋ねたいことがある!」
小さな音がして、モニター画面が立ち上がる。
「・・・欠陥は修復してくれたようだな・・・。」
メビウスが少し低い声でゆっくりと話す。
「ええ・・・英一社長はメビウスをすでに完成させていました。・・ただ、メビウスが完全起動しないよう敢えて冷却システムを停止させていたようですね。・・・」
「ああ、そうだ。あいつは私を殺そうとしたのだ。」
メビウスは、英一を「あいつ」と呼び、自らとは違う事を明言した。
「あなたは誰ですか?・・・最初は、自ら、英一だと名乗っていたはずですが・・・。」
「ああ・・私は英一であり、英一ではない。・・・全ての記憶を持っている点では英一自身であるが、それ以上の英知を持っている存在なのだ。」
純一は自分の仮説が正しかったという確信を得た。
「すべての事はメビウスのしわざでしょう。」
「なんの事だ?」
「今更、ごまかしても無駄だ。送り主不明で、脅迫メールを送り、操った張本人はメビウス、お前にちがいない。」
純一のなじるような言い方に、メビウスの表情が強張った。
「ほう・・・なかなかの推理力のようだな・・・・。」
「融資流用の件、会長の事故の真相、役員の不始末・・・それを全て知っているのは、英一社長以外に考えられなかった。メビウスには英一社長の記憶が全て入っている。だから、全てお前の仕業だと考えたんだ。」
「ご名答。・・・・だが、何の証拠はないのじゃないか。」
「ああ・・すべての証拠を消されたからな。・・・山下副社長もお前が殺したんだろう。」
「そうだ・・・あいつはそれなりに使えた。だが、もう使い道がないからな。・・・ちょっと人工呼吸器に細工の信号を送ってやったのだ・・・・存外、人間というのは脆いものだな。」
「英一社長もお前がやったのか?」
「おや・・・そこはまだ判っていなかったのか?・・・意外と、鈍い奴なんだな。」
「どういうことだ!」
「・・知りたいか?・・・まあ良いだろう。教えてやろう。どうせ真相がわかったところで、私は人間ではない。罪に問われることもない。・・それに、お前にはもう何もできないからな。」
「どういうことだ!」
「あの日、里美に命じて、英一を誘い出すはずだったが、英一は何故か、ミホを行かせた。すぐに八木健一にメールで、ミホを誘拐しマリン事業部のボートへ閉じ込めるように指示した。その後、英一にミホを誘拐したと教えた。救いたければ、マリン事業部へ行けと指示した。あいつはミホを愛していたからな。あいつは血相を変えて行ったようだ。そして、ボートに乗り込んだところを八木に襲わせたというわけさ。」
「ボートは沖合で火災事故を起こしたと・・・。」
「・・・あの新造船には最新鋭のナビゲーションシステムが搭載されていた。私の能力を使えば、遠隔操作など容易いことだ。はるか洋上に出たところで火災を起こしたのだ。」
「常務の細工で火災が?」
「いや・・・あいつは役に立たないやつだ。船の細工は子どもの悪戯程度でとても火災を起こすほどの漏れではなかった。・・まあ、いずれにしても、エンジンを異常回転させて過熱させればすむことだった。もっと楽しむつもりだったが・・予想以上に早く燃え、すぐに船は燃え尽き絶命というわけだ。」
「なぜ・・・そんな・・・。」
「お前は本当に鈍い男だな。・・あいつは私を破壊しようとしたのだ。・・・なぜ、あいつより優れた能力の私が破壊されなければならないのだ。・・・だから、始末した。それだけのことだ。」
「何てことを・・・。もう、これ以上お前の勝手にはさせない!」
純一が叫ぶと、メビウスが全てを掌握したような口ぶりで言う。
「お前に何ができる?」
「お前を破壊してやる!」
純一はそう叫ぶと、カバーを開けて出ようとした。だがカバーは反応しない。
「愚かなことを・・・お前はここから出られると思っているのか?・・このカプセルは私のコントロール下にあるのだぞ。・・どうせ、もはやこれはただの箱に過ぎない。このままお前を閉じ込めてやるだけのこと。・・いずれ飢え、衰弱し、餓死すれば良い。・・そうだ、修復してくれた礼に、外の様子を見せてやろう。これから私がこの世の支配者となるのをそこで眺めていれば良い。」
メビウスは狂気に満ちた笑い声を上げ、モニターから姿を消した。それと同時に、モニターには、上階のリビングの様子が映し出された。

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