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2-42 ミホの秘密 [スパイラル第2部遺言]

2-42 ミホの秘密
如月は、港にいたクルーザーからミホを誘拐し、自らのボートで一旦沖合いに逃れ、追跡の手をかわした後、上総CSの島の南側の深い入り江に隠れていた。島の周囲は切り立った崖になっていて、深く切れ込むような入り江が幾つもある。障害物が多く、そう簡単には発見されないことを知っていたのだった。

ミホは、如月によって眠らされ、ボートの船室に横たわっていた。
夜明けを迎え、船室の窓から朝日が差し込み、ミホは目覚めた。周囲を見回し、自分が居る場所が如月のボートであることが判り、物音を立てないように静かに起き上がった。階段からそっと顔を出すと、如月は操縦席に座ってうとうととしていた。
なんとか逃れる道はないかと船縁を見たが、岸までは遠かった。たとえ、船を出て岸辺にたどり着いたとしても、切り立った断崖に囲まれてそれ以上逃れる場所が無い。
「おや・・・目が覚めたか・・・。」
如月がミホを見つけて、操縦席から立ち上がり、一歩二歩と近づいてきた。ミホは咄嗟に足もとを見て、置いてあった棒を握り締めた。
「来ないで!」
「そんなに警戒しなくて良い。何もしない。危害を加える為にお前をさらったわけじゃないんだ。」
如月はそう言いながら更に近づいてくる。
「いや、来ないで!いや!」
握った棒を振りかざして、如月を威嚇しようとしたが、その棒は長すぎて階段にぶつかり、ミホ自身の肩口を強く打ちつけて落ちた。
「痛い!」
ミホは痛みとショックで、そのまま階段から転がり落ちて、船室の床に転がった。
如月は慌てて、船室に入ってきて、ミホの様子を心配した。
「大丈夫か?・・・相変わらず、鼻っ柱が強いな・・・。昔っからそうだったが・・・・。」
ミホは如月の言葉に驚いた。
「昔っからって・・・?」
如月は船室の中に設えられたベッドに腰掛けながら言った。
「ああ・・お前が小さい頃から知ってる・・・・。まあ、お前は記憶を失くしてしまったようだから判らないだろうがな・・・。」
ミホは身を起こし、如月の様子を気にしながら、ベッドの横にある椅子に座った。
「私は誰?・・・知ってることを教えて!」
ミホは躊躇いながら訊いた。ミホの様子を見ながら如月も思案しながら答えた。
「真実を聞いても驚くんじゃないよ。・・・いや・・・聞けば、きっと純一さんとは会えなくなるかもしれない・・・それでも良いなら、話してあげよう。」
そう聞いてミホが言った。
「待って!・・・真実だけを話すって約束して・・・私は何も覚えていないんだから・・あなたが嘘をついてもわからない・・・・それが真実だって証拠も見せてくれる?」
「証拠か・・・」
如月は少し悩んだ表情を浮かべ、天井を見上げた。そしてふと思いついて言った。
「・・オレンジ色の玉がついたペンダントは持ってるかい?・・・」
ミホはそっと首筋に手をやった。如月の言うペンダントは、純一が浜辺に横たわっていたミホの足元にあったものだと渡してくれた。ミホはいつも身につけていた。
「これ?」
ミホはペンダントを取り出して、如月に見せた。如月はペンダントヘッドのオレンジ色の玉をじっと見て頷いた。
「これは、英一社長から預ったものだ。」
「英一社長?」
「あの事故の日、ミサさんが社長からだと言って届けてくれたんだ。小さな箱に入っていて、それと一緒に手紙が添えてあった。」
如月は船室の隅の小物入れから、小箱を取り出した。
箱の中には小さな紙切れが入っていて、そっと取り出すと、ミホに渡した。
『ミホが危ない。助けに行く。マリン事業部。ミホを守ってくれ。』
殴り書きのように書かれた、短い文書だった。
「社長はかなり切羽詰っていたんだと思う。」
「一体、何があったの?」
「事故の十日ほど前からだったか・・・社長の様子がおかしいとミサから連絡があった。すぐに社長にお会いしたが・・開発中のシステムのトラブルだとだけおっしゃって・・・かなり深刻な表情だったが、それ以上は訊けなかった。・・同じ頃だったか・・・送り主不明で・・『手を出すな、静観せよ。』というのメールが届いた。誰かに脅されているんじゃないかと思ったんだが、ミサやミカに訊いても特に訊ねてきた者もないようだった。・・・だが・・・事故の前日、社長の代理で出かけたミホの行方がわからなくなった。私も方々を探したが見つからなかった。」
「誘拐?」
「いや・・判らなかった・・だが、行方がつかめないまま、あの日、社長からこれが届いたんだ。」
「やっぱり・・誘拐されていたと・・・。」
「ああそうだった。・・・すぐにボートを出して、マリン事業部へ向かったが、もう姿は無かった。・・新造船が見当たらなかったんで、ひょっとして沖に出たんじゃないかと・・すぐにボートを走らせたんだ。・・・遠くで火柱が見えた。・・・徐々に近づいていくと・・ミホが波間に浮かんでいたんだ。火傷を負って気を失っていた。・・・命を狙われているのだと思って、このボートに暫くお前を匿ったんだ。」
ミホは如月の話を聞きながら、驚きを隠せなかった。
「嘘・・・嘘でしょ・・嘘と言って・・・私・・どうしたら・・・。」
ミホはそう言うと、両手で顔を塞ぎ泣いた。如月は話を続けた。
「・・・社長は・・一度だけ、社長が私に、上総CSの将来の話をされたことがあった。その時、自分には子どもが居ないが、将来を託したい男が居ると言われたんだ。その時、純一さんを教えられた。驚いた。どういう関係かは何も話されなかった。ただ、純一さんこそ上総CSを引き継ぐべき人物だと・・・・私はその事を思い出し、ミホを彼に託す事にしたんだ。」
「じゃあ・・私が純一さんと巡り合ったのは偶然じゃないのね・・・。」
「ああ・・・私が、彼がいつも夕方に過ごす海岸を見つけ、ミホを運んだ。」
「その後、アパート周辺で見張っていたの?」
「そうだ・・どういう人物か、無事に保護してくれているか・・心配だったからね・・・。」
ミホは言葉を失った。
すべて、如月は仕組んだ事だと判り、今まで純一と過ごした日々が全て嘘だったように思えた。
真実を知って、すっかり憔悴しきった様子のミホを見て、如月はそっと船室から、甲板に出た。

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