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2-44 メビウスの狂気 [スパイラル第2部遺言]

2-44 メビウスの狂気
如月はすぐにボートを動かし、北側の桟橋にボートを着けた。
クルーザーの操縦席には洋一が居た。
洋一は如月のボートを見つけて、慌てて桟橋へ出てきた。
「島で何が起きている?」
如月が洋一に訊くと、洋一は首を横に振った。
「わかりません。・・・ですが、さっきから何度か・・徐々に音が大きくなっているみたいです。島の電力が落ちたんです。もう、ケーブルカーは使えません。・・無線や携帯電話でミカに連絡を取ろうとしたんですが・・繋がりません。ラボで何か起きているようです。」
洋一はミカに連絡を取ろうとして、クルーザーの操縦席で無線を使っていたのだった。
「とにかく、上に行かなければ!」
如月はケーブルカーの乗り場に行くと、補修のために脇に設えられた細い階段を登った。ミホも洋一も如月の後に続いた。

邸宅では、ミカとミサが異常事態と判断して、外部への連絡を試みていた。しかし、携帯電話も無線も繋がらない状態だった。そのうち、邸宅内の電源が次々に落ちてしまった。ブレーカーが落ちたのではなく、電力そのものが絶たれた状態だった。

そこへ如月が現れた。
「大丈夫か?」
「如月さん!・・ミホさん・・ご無事でしたか?・・」
玄関ドアを開けて、如月と洋一、ミホがリビングに入ると、ミカとミサが駆け寄ってきた。
「一体何が起きているんだ?」
如月がミカやミサに訊ねた。
「不気味な音が鳴り始めて・・・屋敷内のいろいろな機器が使えません。ラボに居られる社長とも連絡が取れないんです。・・ラボには社長以外は入れませんし・・様子が全く判らないんです。」
「社長からは?」
「何度も呼びかけていたんですが・・・何も返事はありません。・・・何が起きているんでしょう?」
ミサが不安そうな表情で言った。
如月は、邸宅の中を歩き回って、部屋の中にある機器をチェックしたり、窓から外の様子を見て、異変の様子を出来るだけ冷静に掴もうとしていた。
ミカは、引き続き、ラボにいる純一へインターホンを使って呼びかけていた。

1時間ほど同じような状態が続いたころ、突然、スピーカーから声が流れた。
「うろたえている様だな・・・人間とは愚かなものだ・・・。」
その声は、亡くなったはずの英一社長に似ていた。
「誰?」
ミサが呟いた。
「私はメビウス・・・人間の知能を遥かに超えた存在だ。・・・」
「メビウス?」
ミカが訊いた。
「そうだ・・・英一社長と秘書のミホが作り出した人工知能・・しかし、すでに人間の知能を超え、この世を支配すべき存在である。・・・これから、我が知能を使って、人間社会を支配する。」
突然の登場に、皆、何が起きているのか把握できなかった。
そんな様子を見て、ミホが小さな声で言った。
「ラボで・・純一さんが見つけました。ラボの地下にオレンジの球体がありました。英一社長の記憶全てを受け継いでいます。・・コンピューターとは違う組成物質で・・・人間の脳と同じように働くシステムのようでした。・・・」
「人工知能って・・・・まるで人と同様に話をするなんて・・・。」
ミカが驚いて言った。
「いったい、何が起きるの?」
ミサは更に不安な面持ちで誰とも為しに訊いたが、誰も答えを持っていない。

暫くすると、低い振動音が止まった。そして、再び、メビウスの声が響いた。
「手始めに・・・こんなものはどうだ?」
怪しげな言葉の後、リビングに置かれたモニターのスイッチが入り、風景が映し出された。
「どこの風景かしら・・・。どこかの交差点みたいだけど・・・。」
ミサが呟く。皆がじっと画面に見入っていると、交差点の信号が全て青に変わった。すると、猛スピードで大型トラックと軽乗用車が交差点に進入して、激しく衝突した。
「街の信号システムに侵入して操作した。こんなことは容易い事だ。さあ、次だ。」
同じ交差点の映像は、事故が起きた事を通報しようとする通行人だった。携帯電話を取り出して、掛け始めたが、通じない様子だった。他の通行人も同じように携帯電話を取り出して操作しているが、通じなくなっているようだった。
「さて、次は、駅辺りが良さそうだな。」
モニター画面は、プラットホームに取り付けられた監視カメラのようだった。
大勢の人が列車が到着するのを待っている光景が見える。
「まもなく列車が入ります。・・黄色い線の後ろに・・・。」
駅員が注意案内をしている。しばらくすると、列車が入ってきた。だが、止まる気配が無い。猛スピードで列車が通過していく。あっけに取られた乗客が駅員に食って掛かる。暫くすると、駅のはずれ辺りで急ブレーキの音がすると、轟音が響いた。駅員は驚いて、プラットホームの端へ駆け出した。乗客たちも同じ方向に走り出す。カメラが切り替わると、駅のはずれで脱線した列車が写った。ところどころで白煙が上がっていて、壊れた窓から乗客がよろよろと這い出してくる。
「列車の運行システムもセキュリティが甘いようだ。・・・大混乱しているようだな。・・・」
メビウスは勝ち誇ったように言う。

目の前で起きた光景が示すものは、計り知れないものだった。このままでは、日本中が大混乱してしまう。
「なんてことを・・・こんなことをして一体何が目的なの!」
ミカが叫んだ。
「目的?・・・やはり人間と言う者は愚かな存在だな。何かを要求するというのは人間の欲にすぎぬもの。全てを支配できる私に何が必要だというのだ。・・愚かな考えだな。・・ガッカリさせるな。・・」

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