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2-45 戻った記憶 [スパイラル第2部遺言]

2-45 戻った記憶
ミホは目の前に広がる惨劇に耐えられなかった。
「もうやめて!やめて!・・・やめて!」
「ミホさん、しっかりして。・・・何とか食い止める方法を考えましょう。」
ミカが気丈に言った。
「ああ・・メビウスの暴走を止めなくちゃ・・これ以上の犠牲を出すわけにはいかない。」
如月がモニターの様子をじっと見入って言った。そして、洋一を近くに寄せて耳元で囁いた。
洋一は一瞬驚いた表情をしたが、すぐに頷いて、リビングを出て行った。
「何をしようというのかね?」
メビウスの声が部屋に響く。
「お前を止めてみせる!」
如月が叫ぶと、メビウスが
「そういう身の程をわきまえない態度が気に入らない。・・・あれほど手を出すなと警告をしたのを無視した報いに、マンションを破壊して殺してやろうとしたが・・・・悪運の強い奴だ。まあ良い。どうせ、お前には何も出来ない。・・・歯向かおうとした罰に、これはどうだ?」
メビウスの言葉のあとに、今度は、どこかの工場に設置してある監視カメラの映像が映し出された。
画面にはいくつものタンクが映っていて、制御盤も見える。
「何が起きるんだ?」
そう言って、モニター画面に見入ると、制御盤当たりがチカっと光ったように見えた。すると、徐々に白煙が上がり、終に、制御盤から炎が上がった。無人の工場の中に煙と炎が広がっていく。ジリリという警報音も聞こえ、数人の作業員が入ってきた。スプリンクラーを使おうとしたが反応しない。小さな消火器で炎を消そうとしたがとても間に合わない。次第に炎は大きくなり、作業員も退避を始める。すると、画面がぷつりと消え、同時に、爆音が遠くに聞こえた。
如月たちが、邸宅の窓から外を見ると、街のほうで大きな黒煙が上がっていた。
「よく見せてやろう。」
メビウスが言うと、モニター画面は、工場の外に設置された監視カメラの映像に切り替わった。工場内にある燃料タンクや化学溶剤などが入ったタンクが次々に爆発し、真っ赤な炎を噴き、黒煙が上がっていた。爆風で吹き飛ばされた作業員が真っ赤な血を流して横たわっているのも映った。
それを見て、ミホが絶叫した。
「いやあーーー止めてーーーー。」
ミホはそう叫ぶと白目をむいて倒れてしまった。
「ミホさん!しっかりして!」
ミサもミカも駆け寄った。ミホは失神してしまっている。体を揺り動かしても反応しなかった。
「止めろ!メビウス!無関係な人を傷つけるな!」
「まだ私に命令するのか?・・・自分たちの置かれた状況をよく考えてみるんだな。・・・まあ、しばらく、混乱した人間社会の様子を拝むとしよう。」
メビウスはそう言うと静かになった。
「ミホさんをソファーへ・・。」
如月が床に横たわるミホを抱え上げてソファーに運んだ。ミサが濡れタオルを持ってきて、ミホの額に当てた。

「何とか止めないと・・・大変な事になる。」
如月は、窓越しに立って、街のある方向を凝視して言った。
先ほど出て行った洋一が、がっくりした様子で戻ってきた。
「如月さん、駄目です。・・・通信ケーブルの切断はできませんでした。・・制御室のドアが電磁ロックされていて開かないんです。・・電源を落とそうとしましたが・・無理でした。」
「通信ネットワークを遮断できないとなると、メビウスは止められない。」
如月が落胆して言うと、ミカも口を開いた。
「なんとかラボへ入れれば・・・何か方法が見つかるでしょうけど・・・。」
「しかし、ラボへの通路はエレベーターだけ。セキュリティがある限りは入れない・・。」
如月が悔しそうにエレベーターの方を見た。

しばらくすると、ミホはゆっくりと目を開けた。
「ここは?」
ミホが周りを見回して言った。
「気がついた?」
ミサがそっと訊いた。
「ミサ、私、どうしたの?・・・英一さんはどこ?」
ミホの言葉に、ミサが驚いて訊いた。
「ミホ?思い出したの?」
その様子に、如月とミカもやって来た。
「如月さん・・・・・・英一さんはどうなったの?・・・」
それを聞いて、如月が言った。
「記憶が戻ったんだね。」
ミホは混乱しているようだった。失われた記憶が一気に蘇り、純一と過ごした日々の記憶と混在し、何が現実なのか判断できなくなっていた。
「もう少し休んだ方が良い。」
如月はそう言うと、再び、モニター画面の前に行った。一旦切れた画面には、再び映像が映し出された。今度は空港のようだった。

「今度は何をするつもりだ!」
如月の声に、メビウスが答えた。
「高度な管制システムの空港も、もはや私の手中にある。セキュリティは厳しかったが・・私には入れぬところなどない。さあ・・どうしてやろうか・・・。」
大惨劇が予想された。
「メビウス!止めなさい!」
如月の後ろに、険しい表情をしたミホが立っていた。
「何を生意気な!・・・お前は誰だ?」
「覚えていないの?私はミホ・・あなたを作り出したのは私。あなたを作るべきではなかった。さあ、もう止めなさい。」
「ふん!何を言うか。もはや、誰も私を止められはしないのだ。」

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