SSブログ

2-47 大爆発 [スパイラル第2部遺言]

2-47 大爆発
ミホは頭からメビウスに突き刺さるように飛び込んだ。
メビウス本体の表面は柔らかいゼリー状のもので覆われていて、細い神経組織のようなグラスファイバーが通っている。構造は人間の脳と同じだった。その中心部には神経組織の束がある。
ミホは必死に潜り込み、神経の束を掴もうとする。メビウスも収縮を繰り返してミホの体を締め付け、外へ出そうとする。
『ギュルルー・・ギュルルー・・・。』
悲鳴とも取れる不気味な音が漏れる。呼吸が出来ない。徐々にミホの意識が遠のいていく。
それでも何とか、ミホは神経組織の束に手をかけ、オレンジの玉を束の中へ押し込んだ。
オレンジの玉は神経組織の中で、閃光を発した。次の瞬間、メビウス全体が青白い光を発して小刻みに震え始めた。神経が麻痺した状態に似て、ピクピクとし始めたと思うと、中心部から一気に気泡が立ち上がる。ミホは意識を失った。

洋一は、ミカ、ミサとともに、如月のボートを使って、一旦海上へ出て、島の南側に回りこんで、ラボへの入口を探した。
「英一社長が以前に、ラボの前には美しい砂浜があるんだとおっしゃっていたんです。」
島の周りは高い崖が聳えている。南側まで到達したが、それらしい通り道は見つからない。
「ねえ、あれ!」
岩肌をじっと見つめていたミカが指差した。その先には、幾分、泡だっているような流れが見える。洋一はミカの指さす方へボートを向けた。
崖に大きな窪みはあったが、その先は真っ暗で様子が判らない。
「ここじゃないのか?」
洋一が呟くと、ミカが船縁に立って、「ここで待っていて!」と言うと、洋服を一枚脱ぎ捨て、ザブンと海へ飛び込んだ。ミカは、窪みの中へ潜っていった。
暫くして、ミカが波間に顔を出した。
「大丈夫、この先が大きく蛇行するように通路になってる!」
洋一はすぐにボートを向けた。
ミカが船に乗り込むと、ゆっくりとボートを進める。崖の窪みは突き当たりで大きくカーブしていた。外からでは通路とは見えないようになっている。壁は人工的に掘られたものと判るような跡が多数あった。ライトを照らして、洋一はゆっくりとボートを進めた。
ちょうどS字に曲がったところで、視界が開けた。
目の前に白い砂浜が見えた。そして、崖を刳り貫く形で、大きなガラスドームが目に入った。
洋一は一気にボートのスピードを上げて、砂浜に向かった。
砂浜に乗り上げるようにして止まったところで、ドスンという鈍い振動を感じた。
「何?・・・何の音?」
同時に、ドーンと大きな衝撃音が響いて、ガラスドームが吹き飛んだ。
三人はボートの陰に隠れて、降り注ぐように落ちてくるガラスの破片から身を守った。収まったところでドームを見ると、白い水蒸気のようなものが吹き上がっていた。
予想もしない大きな爆発、めちゃめちゃに破壊されたラボ、三人は純一や如月、ミホの身を案じ、急いでラボへ向かった。
ラボに近づくと、何か、肉が焦げたような異臭が立ちこめている。どこに何があったのかわからないほどに破壊された中で、三人は、純一や如月、ミホを探した。

「社長!」
「如月さーん!」
「ミホさーん!」
それぞれがそれぞれの名前を叫び、破壊され飛び散った家具や机、壁などを取り除きながら、探し回った。
エレベーター通路に転がったソファーを退かして如月が倒れているのをミサが見つけた。
「如月さん!如月さん!しっかりして!」
一見したところ、大きな傷は負っていないようだった。如月は爆風で飛ばされたが運よくソファーの上に転がり怪我をしなかったようだった。
「ああ・・大丈夫だ・・・社長・・社長は?・・カプセルを探してくれ!」
如月はミサに助けられながら身を起こすと、めちゃくちゃに壊れたラボの中を見回した。
「カプセルがありました!」
遠くで、ミカが答える。
「中に社長が・・・。」
如月はそう言いながら、ミサの肩を借りてミカの元へ行った。カプセルは爆風で吹き飛んだあと、壁に叩きつけられ大破していたようだった。しかし、座席には誰も座っていなかった。
「社長!」
洋一が、床が抜け大きな穴が開いたところを覗き込みながら叫んだ。
爆風で地下室の天井が吹き飛び、開いた穴だった。中には大量の海水が入り込み始めている。その海面に、純一が浮かんでいた。
ミカが飛び込んで、純一の身体を掴まえる。上向きにすると呼吸を確かめた。
「いけない!呼吸が止まっている!」
すぐに純一の身体を引き上げて、ミカが人工呼吸をした。
「社長!しっかり!社長!」
ミサも横で社長の手を握り声を掛ける。何分かで純一が呼吸を始めた。
しかし、全身を強く打ったのだろう、手も足も腫れあがっている。
「このままじゃ危ない!すぐに病院へ運ばなければ・・。」
ミサが携帯電話で救急に通報した。
「すぐにドクターヘリが向かってくれるそうです。」
如月は、ミホの行方を捜した。
「地下へ入ってメビウスを破壊すると言って・・身を投げたはずだから・・。」
メビウス本体があった場所は、メビウスを収めていた水槽も破壊され跡形さえなかった。徐々に海水が入り込み、メビウス本体の残骸らしきゼリー状の塊がふわふわと海中に漂っている。その中に、一際大きな塊があり、ミホの体を包んでいるのが見えた。
「ミホ!」
如月は必死でその塊に呼びかけた。だが返答は無かった。洋一が飛び込んでその塊を手繰り寄せ、ミホの体を引き上げた。だが、ミホはすでに呼吸も止まり意識も無い状態だった。
ドクターヘリで、純一とミホは病院へ救急搬送された。

―第2部 完―

nice!(6)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 6

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0