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3-1 回復 [スパイラル第3部 スパイラル]

3-1 回復
純一が意識を取り戻したのは、爆発事故から1ヵ月以上経ってからだった。生死の境を彷徨い、長期間、集中治療室にいた。全身を強く打ち、骨折箇所も多く、意識を取り戻しても身体は動かせない状態が続いた。ベッドを起こせるようになるには3ヵ月ほどが必要だった。
「ミホは?」
起したベッドで純一が訊いた。毎日の看護にはミサが付き添っていた。
ミサは、首を横に振ったきり何も答えなかった。
「そうか・・・・。」
純一は窓の外へ視線をやると、涙を流した。

純一が退院したのは事故から半年後だった。
如月をはじめ、役員全員と洋一、ミカ、ミサが、本社の社長室に集められた。
事故のあと、如月を中心に役員全員が、上総CSの存続のために必死に働いた。大きな損失はあったが、倒産の危機は脱していた。
「皆さん、本当にありがとうございました。・・・忌まわしいあの事故を乗り越えられたのは、皆さんの努力以外なにものでもありません。本当にありがとうございました。」
車椅子に座っている純一が、皆を前に頭を下げた。
「皆、とにかく、社長の回復を願い、ここにお戻りになられるまで頑張ろうと誓いました。お元気になられて良かったです。」
口を開いたのは、常務だった。皆、涙を流して、純一の回復を喜んだ。
「さきほど、如月さんから会社の様子を聞いて安心しました。それで、決めた事があります。聞いてくれますか?」
純一の言葉に、皆頷いた。
「私の役割は終わりました。私は社長を退きます。これからは、如月さんを社長に運営してもらいたいのです。常務には、副社長になってもらって如月さんとともに会社を運営してもらいたいのです。」
一同は顔を見合わせた。
「それと・・・マリン事業部には洋一さんを常務として再興をお願いしたい。伊藤部長はそのまま留任いただき、洋一さんを支えてください。文化事業部やアミューズメント事業もこれまでどおりお願いします。・・・ああ、そうだ。ミカさんはマリン事業部の経理部長として洋一さんと一緒に働いてくれませんか?」
純一の提案は、この半年、皆が力を合わせてやってきたそのままであった。
「あの・・私は?」
ミサが訊いた。
「まだ身体も満足には動かせませんから、ミサさんにはもう暫く私のお世話をお願いしたい。駄目ですか?」
ミサは首を横に振って涙を零して言った。
「いえ・・・ずっとお世話させてください。・」
「良かった。・・・そうだ・・・あの島はどうなっていますか?」
如月が答える。
「邸宅はいつでも使えますが・・・ラボは破損が酷く、そのままになっています。」
「そうですか・・ならば、私は暫く島へ戻って静養します。それでいいですね?」
一同は頷いた。

半年振りに島へ戻る純一のために、クルーザーは、車椅子でも容易に乗り込めるように改造されていた。島の邸宅は、綺麗に掃除もされ快適に過ごす事ができる。
窓際に置かれた車椅子から、ぼんやりと遠くを見つめていた純一の表情は切なかった。
あの日からずっとともに生きてきたミホが傍に居ない。純一の視線の先には、ミホの笑顔が浮かんでいた。心の中は、ぽっかりと穴が開いたままだった。
「ミサさん、ラボへ行ってみたいんだが・・・。」
「ラボはまだ・・片付いておりません・・車椅子では大変かと思いますが・・・。」
呟くように純一が言うと、ミサが少し戸惑って答えた。
「入れるところだけで良いんだ。」
ミサは純一の車椅子を押し、エレベーターへ向かう。すでにセキュリティは壊れていて、すんなりとラボへ降りる事ができた。
しかし、エレベータの出口当りから先には、爆風で剥がれた壁や転がった椅子や家具等が散乱していて、思うようには進めなかった。どうにか、外の景色が見える場所に辿り着くと、海風が顔を撫でるように吹いてきた。
「ミホはどこに居たんですか?」
「その先の地下室があった場所に・・・メビウス本体に包まるように・・水面で見つかりました。」
「苦しそうな表情でしたか?」
「いえ・・・穏やかな表情でした。・・・」
ミサはそう答えるのが精一杯だった。それが嘘だと純一にも判っていた。
純一がふとそのあたりに視線をやった時、水中にキラリと光る小さな物を見つけた。身を乗り出したが、届くはずも無かった。それを見ていたミサが気付いて、視線の先を見た。
「あれは・・・。」
そう言うと、さっと腰辺りまで水に浸かりながら、小さな光の元を救い上げた。
「これは・・ミホさんがされていたペンダント?・・」
そう言いながら、純一に手渡した。オレンジの光りは当に消えてしまっていたが、確かにミホがしていたペンダントだった。
純一はペンダントをじっと見つめ、「ミホ・・」と小さく呟いた。すると、ペンダントが息を吹き返したようにオレンジ色に光り始めたのだった。
「何だか・・ミホさんが返事を・・」
ミサはそこまで言いかけて、口を閉じた。
純一は、それまで抑えていた気持ちが一気に湧き上がり、強く握り締めてぽろぽろと涙を零した。
ミサが、ふと足元に転がっているコントローラーを見つけた。裏蓋が取れ、そこが光っている。
「会長、これが・・・」
コントローラーを純一の前に差し出した。裏蓋が取れて光っている場所が、ちょうどオレンジに光る玉が入る大きさに窪んでいる。
純一は、その窪みにオレンジの玉を押し込んでみた。
コントローラーが起動し、液晶画面に、断片的な映像が映し出され始めた。


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