SSブログ

3-2 記憶の断片 [スパイラル第3部 スパイラル]

3-2 記憶の断片
純一は、ミサに頼んですぐにリビングルームに戻った。そして、大型モニターにコントローラーを接続した。
大きな画面に映し出される映像は、ミホの姿だった。それも、純一が知っているミホよりも少し若く、少し凛々しい表情をしている。笑顔もあれば悩んでいる顔もある。髪も随分長く後ろで一つに縛っている。後ろにぼんやりと浮かんでいる風景から、それが、ラボの中のものだと判った。
純一はただ無言でその映像を見ていた。
「これは・・」
ミサが呟くと、純一は「ああ・・・これは英一さんの記憶だろう・・・。」と答えた。
映像は、どれも断片的で時系列でもなかった。突然、海の風景の中で水着のミホが笑っているものが浮かんだり、食事の風景になったり、中には、ミカやミサも映っていたりしていた。どれも、英一の幸せな記憶に違いなかった。そしていつも映像の真ん中にミホが映るのだった。
「ミホは英一さんに愛されていたんだなあ・・・。」
純一は今更ながらに呟くと、ミサは思わず涙を流した。
そんな映像がいくつも流れる中で、突然、少し薄暗い映像に変わった。
ミホは映っていない。どこかの部屋の床が映り、そこにある小さな扉を持ち上げると、桐の木箱を取り出した。そして、目の前に木箱を持ち上がり、そっと蓋が取られると、中からセピア色を一枚取り出した。映像の真ん中に、その写真が大きく映った。
「これは・・・。」
純一が何かを思い出したかのように呟く。
映像は更に続き、封筒を一枚取り上げた。表書きには、『純一へ』と書かれていた。しばらくその映像は止まったままだったが、しばらくすると再び封筒と写真が桐の木箱に収められ、床下の小さな場所へ入れられたのだった。
そこで、映像は途切れてしまった。

「会長・・・最後の映像は何でしょうか?」
ミサが訊くと、純一はじっと考え込んでいた。そして、ミサに、
「あれはどこだろう?床が映っていたようだったが・・・この家の中のどこかじゃないかな?」
と訊いた。
「たぶん・・・寝室じゃないでしょうか?・・床の色がそんな気がしましたが・・。」
すぐに寝室に入ってみた。だが、先ほどの映像らしい場所は見つからない。
「この部屋は模様替えをしたんじゃないか?」
「ええ・・・以前はここにはベッドは一つでしたから・・・あ・・・そうです。きっとこのベッドの下当たり。」
ミサはそう言うと、ベッドをゆっくりと押し移動させた。ミサの言ったとおり、ベッドの下に四角い扉のようなものがあった。純一はミサに開ける様に言った。蓋を開けると、桐の木箱が入っていた。
「ありました。」
ミサが純一に手渡すと、純一は小さく深呼吸をしてから、木箱を開けた。中には、セピア色の写真と封筒が一通あった。脇から見ていたミサが写真を見て言った。
「これは・・会長・・・家、前の会長のようですね・・・随分お若い時の写真のようですが・・・。」
写真には若い頃の上総敬一郎と女性が睦ましい様子で並んで映っている。純一はその写真を見て、言った。
「この女性は・・・・僕の・・・・母・・・だ。」
「えっ?お母様?」
「ああ・・・幼い時に亡くしたから記憶にはほとんど無いんだが・、一枚だけ残された写真と同じ笑顔をしている・・・・・」
純一は食い入るように写真を見つめた。
「会長とお母様が・・・?」
箱の中には封筒が1通あった。表書きには確かに『純一へ』と書かれていた。封が開いているところを見ると、きっと英一が中を呼んだのだと想像できた。
純一はそっと封筒の中身を取り出してみた。便箋が一枚入っていた。

『 小林 純一 様
君には本当に済まない事をしたと思っている。どれほど詫びても許しては貰えないだろう。
君の母さんと私は、結婚の約束をしていた。しかし、私達の結婚は許されなかった。
言い訳に過ぎないが、会社のための政略結婚の話が決まっていたからだった。
それを知り、君の母さんは私の前から姿を消した。
手を尽くして探したが見つからず、結局、私は会社のための結婚を受け入れた。
その後も、妻には内緒で、君の母さんの消息を探し続けた。
ようやく判った時には、すでに君の母さんは亡くなっていた。そして、子どもがいた事も判った。
施設に預けられたと聞き、ほうぼうの施設を訊ね、君を見つけた時にはもう10歳だった。
一度だけ君と面会した。君を我が子として引き取ろうと考えたのだが、君は拒否した。
事情がわかっているわけも無いが、君は頑なに拒んだ。止む無く、君を引き取る事を諦めた。
せめてもの償いとして、君や君と同じ境遇に置かれた子ども達の支えになろうと決意した。
英一はその一人だった。いずれ、上総CSを率いることになるだろう。
だが、その時には、純一、君をここへ迎えるつもりでいる。
そのときには、これまでの事を詫びたい。そして、親子としてともに暮らせる事を願っている。
上総敬一郎  』

手紙を読み終えた純一は、大きなため息をついた。
英一が、遺言書で相続人を自分に定めたのは、この手紙を読んだからだった。
手紙を読んで、純一は、がらんとした施設の食堂で見知らぬ紳士と面会した事をぼんやりと思い出していた。どんな会話をしたのか、紳士の顔がどんなだったかは思い出せないが、養子に行くという事は施設を出るという事だと園長に含まれた事、そしてそれが幼かった純一には、心が痛いほど悲しい事だと感じられ、拒否した事を思い出したのだった。
「あの時、何故、あんなに悲しかったのだろう・・・・。」
ぼんやりとした記憶に浮かぶあの時の悲しい感情が、どことなく今の自分の心境と重なるように感じていた。
読み終えた手紙をミサに手渡した。ミサは手紙を読み終えて言った。
「会長・・・これって・・・・・」
「ああ・・そうだ。僕は上総敬一郎氏の実の息子だったんだ。だから、英一さんは僕を相続人にしたんだ。敬一郎氏の願いを叶えようと考えたんだろう・・・・。」


nice!(5)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 5

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0