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38.脱出の理由 [AC30第1部グランドジオ]

「最初は、エリートと、そうで無い者の2層に分けられたのですが、その後、さらに何層にも別れ、フローラ様がお生まれになったころには、すでに5つほどの階層がありました。最も下層の人々は、貧しい暮らしを強いられていました。常に、上の階層への妬みが渦巻き、島全体の治安は最悪でした。そんな中で私の様なガーディアンが生み出されました。」
CPXが答えると、アランがすぐさま言い直した。
「つまり、エリートを守るための道具ということか・・。」
「そうです。しかし、ガーディアンには人間を傷つけないという強力な禁止プログラムがインストールされました。フローラ様を襲う者が現れた場合、私はフローラ様を包み込みじっと耐える姿勢を取り続けます。」
「反撃しないということか・・。だが、さっきはグラディウスを熱して、俺は火傷しそうになったじゃないか!」
アランが訊くとCPXが答える。
「一瞬の高熱を感じると反射的に手放すことは明確でした。傷つける危険性がないと判断したまでです。」
「ふうん。」
アランは面白くない表情をして答えると、空のベッドに寝転がった。
「結局、どうしてオーシャンフロントから脱出したのかわからないんだが・・。」
今度はキラが尋ねた。
「あの日は、エリートのエリアのすぐ下層で火事が発生したのです。自動消火装置は反応しましたが、うまく機能せず、どんどん燃え広がり、エリートのエリアにも被害が出始めました。それぞれのガーディアンが安全な場所へエリート層の人々を誘導しました。しかし、フローラ様はまだ幼く、避難する人の波についていくことができませんでした。取り残され、避難経路が遮断され、やむなく下層へ逃れる道を選びました。下層はさらにパニック状態でした。我先にと逃げ惑う人々、そして、その下層、ミッドタウンと呼んでいるエリアでは、上層から逃げてくる人への暴力や排除が広がりました。」
CPXの説明を聞きながら、キラたちはその様子を想像していた。長年積み重なった恨みや妬みが一気に噴き出し、それが暴力となり悲惨な状況となった事は容易に想像できた。
「私はやむなく、フローラ様を包み込み防御しました。しかし、そのために、群衆の眼は一気にフローラ様に集まりました。取り囲まれ、殴られ。蹴られ、火を浴びせられ、様々暴力を受けました。その間、じっと耐えるしかありませんでした。」
「痛みはないのかい?」
ハンクが思わず訊いた。
「私はアンドロイドですから、人間のような痛みは感じません。・・そのうち、誰かが何かを叫びました。すると、私は人々に担ぎ上げられました。そして、島の岸壁まで運ばれ、海へ投げ込まれたのです。」
「それで?」
今度はガウラが訊いた。
「フローラ様を包み込んでいる状態では自ら動く事が出来ません。しかし、解除すればフローラ様を海へ放り出すことになってしまいます。私はそのまま、長期睡眠状態のライブカプセルモードに入りました。フローラ様の命を守るにはその方法しかありませんでした。」
フローラは、オーシャンフロントから脱出したのではなく、放り出されたのだった。
「それからずっと海を漂っていたという事か・・・。」
キラが言うと、CPXは「はい。」と答えた。
「灼熱や極寒の季節でもずっと海を漂っていたってことか?」
もう一度、アランが訊いた。
「ええ・・長い間、氷塊に閉じ込められたこともありました。赤道近くで一度海岸に打ち上げられた事もありました。灼熱の中、乾燥に耐えていました。・・」
「中のフローラは大丈夫なのか?」
「カプセルモードは、海水から作ったゼリー物質にフローラ様は包まれた状態にあります。私のライブファイバーとゼリーが内部の温度を一定に保てるのです。私のエナジーシステム全てをゼリーの状態安定に使いました。フローラ様は全く外の気候を感じる事はなかったはずです。」

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