SSブログ

39.過ぎた時間 [AC30第1部グランドジオ]

「さっき、フローラは幼かったと言ったが・・その火事が起きたのはどれくらい前のことなんだ?」
キラはCPXの話を思い出しながら訊いた。
「私のシステムクロックが狂っていなければ87,600時間前・・。ほぼ10年前でしょう。」
それを聞いて、みんな驚いた。
「10年前?じゃあ、その間、ずっと海を漂っていたのか?」
「そうです。」
ハンクやアランは、呆れた表情をしている。
しかし、キラは違っていた。ライブカプセルは100年以上耐えられると知っていて。もっと長い時間かも知れないと考えていたからだった。
「フローラはその時幾つだった?」
「まだ、5歳でした。」
それを聞いて、ガウラが驚いた。
「5歳?・・何かの間違いでしょ。・・彼女は10歳ほどの体格よ?」
「長期睡眠状態でも、身体の成長は進みます。もちろん、カプセル内部の時間は外の半分程度の速さです。ですから、ちょうど10歳ほどまで成長なさっているのでしょう。」
「知力はどうなのかしら?」
ガウラが訊く。
「すべて5歳で停まっています。カプセルは身体の成長を抑制しながら生命維持ぎりぎりの状態を保ちます。脳は著しくエナジーを消費しますから、ほとんど仮死状態にします。記憶障害や意識障害は当然発生しますが、そのリスクよりも身体ダメージを最低限に抑える事が重要なのです。」
「体は10歳、でも、頭は5歳か・・・。」
3人がフローラを見つけた時、まるで幼子のような表情をし、キラにしか懐かなかったのはおそらく、フローラが5歳ほどの知識しかなかったからだろう。本能的に、キラを信頼できるものと見分けたのだと想像できた。ホスピタルブロックで朝食を取った時に戸惑っていたのは、ナイフやフォークの使い方が判らなかっただけなのかもしれなかった。
「フローラはオーシャンフロントの記憶は残っているのだろうか?」
キラが何気なく口にした。
「いえ、ほとんどないでしょう。」
「父や母の事はどうだろう?」
「エリートエリアでは、父や母という関係は存在しません。生まれてすぐDNA検査が行われます。もし優位性がなければ、エリートエリアには住めませんから。」
「そんな馬鹿な・・父や母を知らないって・・・。」
ハンクが驚いて言う。
「オーシャンフロントを守るためのシステムです。実際、下層の人々の人口は抑制されています。そして、エリートエリアには何よりも優位性の高いDNAを持つ人々が暮らし、命をつないでいます。バランスが取られているのです。」
「そんなことって・・・。」
ハンクは腹立たしさを覚えて言った。
「そんなことっていったってさ・・俺たちだって似たようなもんだろ?ここのエナジーシステムが壊れて、選ばれし者だけが生き残る道に置かれたんだからな。・・その挙句の果てが俺たちだろ?」
ベッドに寝転んだままのアランが吐き捨てるように言った。
「今、オーシャンフロントはどうなっているんだろう?」
キラが訊くとCPXはしばらく沈黙してから答えた。
「判りません。・・・ここへ着いてから、何度か、オーシャンフロントへのコンタクトを試みていますが・・通じません。地球上のどこか離れた場所にいるのかもしれません。このエリアはもうコールドシーズンに入りましたから、もっと南に移動しているのでしょう。」
「じゃあ、暖かくなれば近くに来るという事もあるのか?」
キラが訊く。
「必ずとは言えませんが、外気温を26℃に保てるように、海流を測定して移動し続けるシステムですから、可能性はあります。」

nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0