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41.フローラの変化 [AC30第1部グランドジオ]

「ちょっと良いかしら。」
ガウラがフローラの手を取り、じっと見つめる。次に、腕、足、そして首筋に手を当てる。最後に、顔と目と口の中まで丹念に見ていった。
「どうしたんですか、ガウラさん?」
キラが訊いてもしばらくガウラは答えなかった。バイタルモニターをもう一度点検し、数値に間違いがないか確認した。
その上で、キラの耳元で囁くように言った。
「フローラの体が少し変なのよ。」
「どういうことです?どこか病気なんですか?」
キラもフローラには聞こえないような小声で訊いた。
「いいえ・・・ここへ来てまだ24時間くらいのはずよね。でも、随分体重が増えているの。身長も伸びているし・・普通の人間には考えられないくらいの変化なのよ。・・変化というより、成長している・・。」
ガウラが言うと、キラはフローラを見た。
確かに、初めて見た時は幼い女の子だった。だが確かに、顔立ちが少し変わっているように感じた。髪も伸びているのが判った。
「ライブカプセルの私の中で、留めていた時間が急に流れ始めた結果でしょう。もともと、成長期にあったフローラ様の体内時計を無理やり止めていたわけですから、解放されて、一気に動き始め、驚くほどの成長スピードとなったのでしょう。」
CPXが言った。
「おなか、すいた」
フローラが幼子のように言った。そこへ、アランとハンクが食事を運んできた。フローラの前に差し出すと、今度は、躊躇することなく、フローラは食べ始めた。
「落ち着いて食べなよ。」
ハンクが脇から言っても、全く耳に入らないように一心不乱に食べ物を口に入れる。綺麗に食べ終わると、フローラは再び眠りに落ちた。
「いったい、なんなんだ?そんなに、腹、空いていたのか?」
アランが呆れて言った。
ガウラは心配そうな表情を浮かべてフローラの寝顔を見て呟いた。
「こんなに急激に成長するなんて・・きっと、どこかに歪が出るはず。・・注意しなくちゃ・・・。」

深夜近くになって、いよいよキラとガウラが禁断のエリアに出発する事になった。
「フローラが心配。急激な成長が始まっているから、ショック症状が起きたり、全身に痛みが走ったりするかもしれないの。CPX,しっかり見ていてね。鎮静剤を投与すればじきに収まるでしょうから。」
「判りました。私はフローラ様のガーディアンです。必ずお守りします。」
「じゃあ行ってくるわ。」
キラとガウラは、ホスピタルブロックをそっと抜け出し、コムブロックの隅の暗がりを走り抜けて、セルツリーの階段を静かに登って行く。
「大丈夫、誰にも気づかれていない。」
キラは、最上階にまでやって来て言った。そこには、クライブント導師のセルがあり、灯りがついていた。キラもガウラもクライブント導師は存在していない事は承知していた。だが、灯りの洩れるセルの中には誰かがいるように見える。時折、人影のようなものが動いていた。おそらく、誰かが導師の存在をアピールするために行っているに違いなかった。その光景を見て、キラもガウラも空しく感じてしまった。
「急ごう。」
キラはそう言って、導師のセルの横にある扉を静かに開けた。その先には、真っ暗な通路が続いている。二人は通路に入るとドアを閉め、ライトを点けた。通路はまっすぐ続いている。その先がどこまでなのか、全く分からない。壁も床も真っ黒に塗られているようで、灯したライトの光が反射しない空間だった。
「初めて入った時、灯りも持っていなくて・・・上も下も前も後ろも判らなくなって、とても怖い場所でした。戻ろうにも、どっちへ行けば良いかもわからなくて・・ただ、ひたすら、まっすぐ歩いたんです。」
キラが並んで歩くガウラに告白した。

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