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48.決行の日 [AC30第1部グランドジオ]

フローラはその日からしばらく目を覚まさなかった。その間、ガウラは、CPXの力も借りながら、自らの持てる知識を総動員して、必要な栄養剤を投与し、鎮静剤や鎮痛剤も使って、フローラを診つづけた。プリムの体は、ほぼ完治していたが、意識が回復しなかった。
キラたちは、昼間はコムブロックで与えられた仕事をこなし、夜にはホスピタルブロックへ集まって、これからの相談をした。時折、ジオフロントのエリックにもコンタクトして、情報を集めた。三人は何度も何度も議論した。
当初は、フローラの受け入れられる環境を作る事から始め、馴染めたところで、自分たちの置かれている状況を知らせる方が良いというハンクの考えで、まとまりつつあった。だが、時間が掛かり、春になるまでにうまくいかず、仮に目の前にオーシャンフロントが現れたら、取り返しがつかなくなるとアランが言い出した。
アランは、ジオフロントへ他の人間も連れて行ってはどうかと言い出した。そして、山ほどある武器を持ってきて、春に地表に出てから虫たちを駆除して、安全なエリアを作るのはどうかと言った。一度も地表を見たことのない人間もいる。外の世界を見れば考えも変わるのではないかと考えたのだった。だが、禁断のエリアへ行こうという者がいるかどうか、武器を持って地表に出られるのは春になってからで、やはりオーシャンフロントが現れれば間に合わなくなるかもしれなかった。
何度も話し合った結果、皆が崇めているクライブント導師が実在していない事を明らかにする事に至った。
決行は、プリムの意識が回復する日と決めた。
その日の朝、ガウラは、プリムの変化に気づいた。狭いベッドの中で、プリムの腕が動いているのを見つけた。
「プリム、目が覚めた?」
プリムは目をはっきりと開け、自分の両手を目の前にかざしてしげしげと見ていた。
「もう大丈夫よ。・・辛かったでしょう・・。」
すぐに、キラとハンクとアランが顔を見せた。
「プリム、良かった。助かったな!」
ハンクはプリムの手を取って喜んだ。
「起こしてくれないか・・。」
プリムが言う。ハンクはプリムの背に手をまわして、ゆっくりと上半身を起こしてやった。ガウラが温かいスープを持ってきて、プリムに飲ませる。プリムはゆっくりとスープを飲んでから言った。
「長く暗闇の中に入っていた気分だよ・・・。」
「しばらくはリハビリが必要ね。・・・歩くところから始めなくちゃ・・。」
プリムが意識を回復した事でいよいよ決行する事となった。
その前に、プリムにこれまでのいきさつをハンクが説明した。

いつものように、コムブロックには十人のほとんどが集まっている。毎朝、朝食を済ませ仕事に入る前には、クライブント導師の話を聞くのが習慣だった。
コムブロックの中央にビジョンが開かれた。皆、真っ直ぐにビジョンに向かい、映し出されたクライブント導師を見つめている。
『みな、息災の様だな。極寒の季節が来た。これから100日間、地表は氷に閉ざされ、活けるモノはすべて地中に潜る。われらも同様である。次の春が来るまでやるべきことは多い。辛い季節だが、皆、力を合わせて乗り切るのだ。』
落ち着いた声がコムブロックに響く。
これまで何度も同じ言葉を聞いてきたように感じられた。だが、集まった皆はじっと目を閉じて静かに聴いている。数年前、収穫物が少なく食糧不足が生じた年には、クライブント導師のこの言葉で、皆が絶え凌いだ。狩猟で命を落とした者が多かった年も、クライブント導師の言葉が皆を救った。
キラはクライブントの言葉を聞きながら、これからやろうとすることが、ライフエリアの住人の未来に繋がる事なのか、改めて自問自答していた。
クライブントの話が終わると、キラの父アルスが一歩前に出た。
「今年は、若者たちが力を発揮して、多くの収穫がありました。ドラコの肉も手に入りました。春まで安心して暮らせます。これも導師の御導きによるものです。感謝いたします。」
そう言って、深く頭を下げた。
『善き事じゃ。若者は我等が未来。もっと励むが良い。』
クライブントの言葉が再びコムブロックに響く。

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